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星河の覇皇

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第六部第一章 星河の海その一


                   星河の海
 人類が銀河に進出してから長い年月が経った。その間それぞれが歩んだ歴史は実に対象的であった。
 まず連合であるがその歴史は開拓の歴史であった。
 彼等は新たな土地を目指してより遠くへ進んだ。そしてそこに根を張り開墾していく。産業を興す。そうして発展していったのである。
 人口が増加すると別の星系に進出する。そしてそこを開拓する。それが連合の歴史であった。
 加盟諸国の間で星系を巡る争いが生じた場合は連合中央政府が仲介する。それは主にどちらが先にそこに辿り着いたかで決めた。
 負けた国には別の星系への進出を約束する。その場合他の国々はそこへの進出はできない。こうしてバランスをとってきたのだ。
 彼等は宇宙海賊やテロリストといった問題がありながらもかなり順調に発展を成し遂げてきたと言ってよいであろう。それは人口の増加にもはっきりと見てとれた。
 二十世紀終わりには全人類で五十億であった。二十一世紀には百億に達した。その人口増加を解消する為に宇宙進出が進められたのである。
 それを考えると人口の増加がさらに促進されるのは当然であった。宇宙に出れば新たな土地が手に入る。そしてそこに人が住む。こうして人は増えていった。
 連合はそれが極めて顕著であった。新たな開拓地は無限と思える程広がっていた。彼等はそこに進めばいいのである。
 こうして二十世紀の終わりには今現在の連合の加盟国の総人口は三十五億程であったがそれが三兆にまで達した。爆発的と呼ぶべき増加であった。
 それはやはり順調な発展、そして戦乱がなかったからである。彼等は懸念された他の知的生命体の存在もなく外敵もなかった。星系の領有を巡る争いはあってもそれは別の星系に行くことで紛争や戦争は程無く回避されてきた。こうして彼等は順調に国力を発展させてきたのだ。
 これが今の連合を形作っていた。彼等はまとまりにこそ欠ける寄り合い所帯ながらも人類で最大の勢力を誇っていた。
 それを取り纏める中央政府であるがこれの母体は国連であった。
 第二次世界大戦の後設立された国連であるがその力はあってないが如きであった。
 最高の権限を持つ常任理事国の思うがままでありその運営は遅々として進まなかった。それを改善すべく改革が決定されたのは二十一世紀初頭のことであった。
 これによりまずは常任理事国が増やされた。新たに日本、ドイツ、ブラジル、インド、そしてエジプトが加わった。特にエジプトの参加が大きかったと後の歴史家は言う。
 そして同時に各機関の強化も推し進められた。まだまだ甚だ不充分ながらこれで国連はかなり権限が強化された。これでよいかと思われた。だがそれが大きな誤解であることは人類がまず月に進出してから起こった。シンガポール条約にまで至る一連の動きである。
 これにより人類社会の分裂は決定的なものとなり欧州は太平洋諸国と袂を分かった。そこにはアフリカ諸国や南米の諸国も含まれていた。
 アラブもまた独自の道を歩むことにした。インドも。国連は太平洋諸国及びアフリカ、中南米の国々のものとなった。
 ここで国連の権限のなさを痛感した各国はその権限を強化することにした。再びこうしたことが起きないようにする為である。それは全く別のものに作り変えるようなものであった。
 まず常任理事国を廃止し大統領制に移行させた。そして各国の理事会ではなく議会を置いた。ここで話し合いをするようにした。
 そして行政府、裁判所も設置した。こうして各国の上に置く中央政府というふうにしたのであった。
 これにより権限は大きく拡大された。だがそれでもまだまだその力は弱く今まで長い間そうした中央の力が弱い状況が続いてきた。良く言えば各国の自由が強いことになるがそれが結果としてまとまりを欠くこととなった。そして今の長い権限強化への動きに繋がるのである。
 連合はこうして中央の力が弱いながらも極めて順調に発展した。だが他の国々は違った。
 マウリアは落ち着いた発展をした。連合やサハラ各国と友好関係を続けつつ徐々に進出していった。そしてその国力の伸張も緩やかであった。
 彼等が連合に加わらなかったのは多くの事情があった。連合の中心となる国家であるアメリカや中国と疎遠だったせいもある。アフリカ諸国は国連に依存し、また過去の植民地時代のことから欧州に反対したのだが彼等はまた事情が違っていたのだ。
 日本やロシアは参加を促した。マウリアの方もそれに賛同するかと思われたが結局選挙でそれは否決された。そして彼等は独自の勢力となったのである。
 欧州はエウロパと名を変え連合から離れた場所に移った。西欧及び東欧の諸国から成る彼等は連合との衝突を忘れたことはなかった。そして何時の日か彼等を凌駕することを誓って当時の銀河の果てに来た。後にブラウベルグ回廊と呼ばれる細長い道をくぐって。
 ここが連合と彼等の境となった。連合は彼等が一人残らずそこに渡ったのを確認すると即座に連合の境界をブラウベルグ回廊の入口とすると一方的に決定した。事実上のエウロパの締め出しであった。
 こうして彼等は最初の惑星に降り立った。最初の首都は回廊の出口近くに置かれた。それはエリュシオンと名付けられた。
 その惑星は地球よりも豊かな惑星であった。これに幸先のよさを感じた彼等はすぐに開拓を開始した。そしてめざましい発展を遂げた。だがそれはすぐに終わった。
 一帯を調査してみると彼等の勢力となる領域はそれ程広くなかった。南にはもうアラブ人達が進出していた。今彼等と戦うことはできなかった。人口が違っていた。
 従ってまず彼等と協議の末国境を定めた。黒い色をした衛星の上で調印されたのでダークムーン条約と名付けられた。これでまずは開拓するべき土地が決まった。北と西は何十万光年も何もない空間だけが広がっていた。そこを踏破することはどう考えても不可能であった。
 調べてみるとその領域で養うことができるのは精々三百億程であった。それなりに惑星の数はあり住むことのできる星系は極めて豊かな星ばかりであった。だが数があまりにも少なかった。
 その後必死の努力により一千億まで養えるようになった。血の滲むような食物の研究と進歩、惑星の開発の結果であった。スペースコロニー等も作られた。だがそれが限度であった。
 それが今のサハラ侵攻に繋がったのだ。これを連合は待っていたかのように批判する。だがこれは彼等にとってみれば生きる為に仕方のないことであった。
 エウロパは豪奢な貴族文化で知られる。だがそれも富があってのものだ。それがなくなった時彼等は死ぬしかない。それが分かっているからこその侵攻なのであった。
 それは無論サハラ各国にとっては災厄以外の何物でもない。実際に多くの難民が発生しその問題で各国は頭を悩ませている。だがこれはサハラの事情もそうさせていた。
 アラブはムワイア朝以降統一されたことはなかった。
 今もであった。まとめるような強力な国家が出たことはあったがそれでも統一されたことはなかったのだ。
 それが戦乱を招くこととなった。サハラでは最も多い時で百近い国に別れ争ってきた。栄枯盛衰と集合離散を繰り返してきたのであった。
 そして戦雲が絶えることはなかった。その為人口も容易には増えなかった。
 産業も連合程発展することはなかった。エウロパの様に先が見えているものではなかったが彼等は落ち着いてそれを作り上げることはできなかったのだ。 
 まずは兵器が造られる。それに多くの費用と人材を回さなくてはならない。軍事関係は発展するがそれが民間に回されるのは後回しであった。こうして各国は互いに争っていた。
 エウロパもそこに付け込んだのである。とりわけ北部が戦乱が激しかったのを見てそれに介入していった。そしてそこに総督府を置いたのである。
 サハラの者はそれに対して激しい怒りを覚えたがそれを退けることは不可能であった。だがいずれは退けることを心から願っていた。
 だがそれにはまずそれが出来るだけの勢力を築かなければならない。今はそれが可能な勢力がようやく姿を現わしだしたところであった。
 それは三つあった。まずは東のハサン王国。連合やマウリアとの貿易で栄えるこの国は早くから東方を掌握し、サハラでも最大の勢力となっていた。
 そして北方諸国連合。傭兵隊長であったシャイターンによりまとめられたこの国々は今ではサハラでひとかどの勢力となっていた。まだその国力は総督府に対して不利であったが主席に就任したシャイターンの天才的な軍事及び政治の手腕によって鮮やかな程の発展を遂げていた。
 そして西方のオムダーマンであった。かっては西方で第三勢力であった彼等だがミドハド、そしてサラーフとの戦いに勝利し西方を統一した。それによる勢力の拡大は目を瞠るものがあり今最もサハラで活発な勢力といえた。
 今彼等は新たな動きをはじめていた。それは南方に向けられようとしていた。
 そのオムダーマンの首都アスラン。今ここで多くの艦艇が出撃準備に入っていた。
「各艦隊の状況はどうか」
 アッディーンは国防省の玄関に置かれている車に乗り込みながら傍らにいる者に問うた。
「ハッ、全て順調であります」
 その者は敬礼をして答えた。
「そうか」
 アッディーンはその言葉を聞き頷いた。
「では問題はない。すぐにでも兵を進めることができるな」
「はい。そして外交部のスタッフも既に軍港へ」
「用意がいいな」
「そうでなくては外交はできないでしょう。今回は特に政治的な駆け引きも要求される作戦ですから」
「そうするようにしたのは俺だがな」
 彼は言った。
「力で攻めるのもいいが技で攻めるのも一つの方法だ。違うか」
「いえ」
 出迎えの将校はそれに対して頷いた。
「私は政治のことはよくわかりませんが」
 そう断ったうえで話をはじめた。
「確か昔の軍事の本であった言葉でしたね。人を責めるのが上で国を攻めるのが下だと」
「孫子だったな」
「はい」
 実は彼は知っていた。孫子を知らずして軍事は語れない。
「それを考えますと今回の作戦は非常によろしいかと思います。損害も少なくて済みますし占領地のダメージも最低限にすることが可能です」
「そうだな」
 アッディーンはそれに頷いた。
「俺の考えは間違ってなかったということか」
「それはどうでしょうか」
 だが彼はそれには否定的であった。
「ん!?」
 アッディーンはそれに反応した。
「全ては作戦が全て成功してからです。今それを仰るのは早急かと。いえ」
「いえ!?」
 今度はアッディーンが問う番になっていた。部下の言葉を無闇に退けるようなアッディーンではないがこの将校の言葉にはどうしても反応してしまうのであった。
 
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