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星河の覇皇

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第五部第四章 神の名その六



 連合は二つに分けられる。まず高級官僚登用の試験。だがこの時代ではそうでなくとも能力があればなれる。その前に転職する者も多いし中途採用も多いが。
 試験による登用は日本等だが実はかなり少数派だ。連合ではそれよりもその国のトップが直々に任命する場合の方が目立つ。所謂スポイルズ=システムだ。ちなみに試験による登用はメリット=システムという。こちらはアメリカや中国、ASEANやアフリカ諸国等だ。つまり連合の殆どの国で主流である。
 これは官僚の硬直化や専横を防ぐにはいいが問題もある。トップの人選なので時として適任でないポストに就任することもある。それによる事務の停滞の可能性も否定出来ない。そしてトップの独裁や腐敗を引き起こす可能性もある。実際にはメリット=システムも併用している。どちらかというとスポイルズ=システムの方に重点を置いているという意味だ。なお日本等もスポイルズ=システムは採り入れている。
 サハラはメリット=システムが主流である。その中身はそれぞれの国によって異なりこそすれだ。
 オムダーマンでは高級官僚採用のシステムはあまり採りいれてはいない。強いて言うのなら士官学校がそうであるがこれにしろやはり叩き上げの軍人も多い。アジュラーンは実は下士官あがりだ。アッディーンも幼年学校しか出ていない。結局は本人の実力次第なのである。これは乱世の中で得た経験からこうなったのだ。
 戦いにおいてはその経歴なぞ何の役にも立たない。生きるか死ぬか。勝つか負けるか。それしかないのだ。それを考えるとどうしても能力主義になるのだ。
 それがオムダーマンを支えている。そして勝利を収めてきた。アッディーンの率いる精兵達にしろそうした思想がなければとても育たなかったであろう。
 それはアッディーンもよく認識していた。彼はこの考えに深く賛同していた。なおマウリアはカースト的な思想が今尚ないわけではない。流石に三〇〇〇も分かれてはいないにしろだ。これは一概に悪いとは言えず各国はそれについては何も言わない。言うと内政干渉になるし言っても話が複雑になるだけだからだ。
 そうした中で外交部長にまでなった。その能力は確かである。
 オムダーマンの外交は昔から定評がある。だがその中でもこのアッバースの能力は傑出していると言われている。
 ミドハドやサラーフとの戦いの際他の勢力の介入が噂されたりもした。だが彼はそうした動きを察知し事前にそうしたことがないように動いたのだ。その結果オムダーマン軍は後顧の憂いなく戦いを進めることができたのである。
 それは陰の仕事であった。しかしそれがなくてはこれ程容易には勢力を拡充させることはできなかった。外交部の働きは実に大きいものであった。
 アッディーンはアッバースを見た。彼はいつもそれを知らないといった顔である。陽気で人なつっこい顔である。
「何か私は場違いですかね」
 彼は席に着いてもそう言ってにこにこと微笑んでいた。
「いえ」
 ここでアッディーンが言った。
「長官には是非出席して頂きたいと考えておりました」
 彼は言った。強い声であった。
「何ともはや」
 そう言われたアッバースは困った様な顔をした。
「私なんかが役に立てればいいですが」
 そう謙遜する。しかしアッディーンはそれとは全く別の意見であった。
(彼が来てくれただけでもこの会議は意義がある)
 そこまで思っている程であった。
 それ程彼はアッバースの能力を高く買っている。そしてその発言がこの会議、そして今後のオムダーマンの戦略を決するとさえ読んでいた。
「さて」
 これで会議の出席者は全て席に着いた。議長でもあるブワイフはそれを確かめてからまず一同を見渡した。
「これからこれからの我が国の軍事戦略についての会議をはじめるとするか」
「はい」
 ハラーイブが答えた。それがはじまりの言葉となった。
「まずは我が国の現状だな」
 彼はそれから話に入ることにした。
「首相」
 会議がはじまった。こうしてオムダーマンの今後の戦略を決する運命の舞台が開いた。

 観艦式を終えた連合はとりあえずは安堵の息に包まれていた。式は大成功であり、また収穫も多かった。
 だが八条に休息はなかった。次の仕事が早速やって来ていたのである。
「ふむ」
 彼は会議室にいた。そこで将官達に囲まれていたのである。
「そういえばこのことについては全く考えていなかったな」
 彼は腕を組みそう呟いた。今彼の前には各兵器及び艦艇の写真、データが並べられていた。
 今彼はこれ等の兵器、艦艇の名を決めるべくこの席にいるのである。これはこれで重要なことであった。
「普通に戦艦とか戦車とかしておくのも味気ないことだし」
「その通りですな」
 同席していたマクレーンが言った。
「そのまま戦艦と呼んでも迫力も何もあったものではありません」
「そうです、やはりそれに相応しい名がないと。士気にも関わります」
 劉もそれに同意した。二人はこうしたことにはよく意見が合う。
「そうですね。しかし」
「しかし?」
 レイミーもいた。チャムと共に開発部を代表して出席しているのだ。
「いざ名付けるとなると。どうも思いつく名がありませんね」
「ははは、それなら」
 チャクラーンが笑いながら言った。
「閣下のお好きな名をつけられればよろしいのでは」
「そうですな。あまりにもおかしなものだと我等が止めますので」
 コアトルも言った。どうやら彼に一任されそうである。
「それでしたら」
 八条はそれを聞いて頷いた。
「私が今から名付けさせてもらいます」
「異議なし」
「それが長官の仕事ですから」
 諸将は口を揃えてそう言った。こうして命名者は決定した。
「ですが」
 そこで八条はふと思ったことを口にせずにはいられなかった。
「何か私のネーミングセンスに疑問があるようですね」
 苦笑しながら皆にそう問うたのだ。
「何故ですか」
 だが彼等はそうは思っていない。
「私共は別にその様なことは思っておりませんが」
 アラガルが言った。何やら意外そうな顔をしている。
「いえ」
 八条はそれに対して口を開いた。
「何か皆さん不安そうで。気のせいならいいのですが」
「ははは、それは気のせいですよ」
「そうです。閣下はまずご自身で決められて下さい。我等はそれをサポートするだけに徹しますから」
「そうですか。それなら」
 八条はこれでようやく納得した。そして名前を決める作業に入った。
 実は諸将は不安であったのだ。それは日本人のネーミングセンスに対する偏見から来ていた。
(まさかとは思うが)
 彼等は皆同じことを思っていた。
(古典からたおやめぶりとかいう言葉は用いられぬよな)
 八条が日本の古典に詳しいことはよく知られている。特に古今和歌集や源氏物語を愛読していると聞き彼等はかなりの
不安を覚えているのだ。
(平家物語や太平記という書からならまだよいが)
 それでも何だか不安である。
(間違っても戦艦に光源氏などとつけられたら恥ずかしいぞ)
 要らぬ節介であったが彼等は本当にそう考えていた。
  
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