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サロメ

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第一幕その三


第一幕その三

「それに」
「それに?」
「私は騒がしいのは好きではないし」
 表情にも憂いを帯びさせてきた。陰のある美貌になった。
「ああした議論もギリシア風のお化粧も好きではないのよ」
「ローマのお話は」
「それもよ」
 そう兵士に返す。
「ローマのことは好きではないのよ。ああした贅沢も」
「そうなのですか」
「そうなの。それにエジプト人もね」
 サロメは言う。
「あの人達のお洒落というのも。何もかもが」
「はあ」
「それよりもお月様の方がいいわ」
 上を見上げる。そこに白い月があった。
「綺麗だと思わない?」
 月を見上げて兵士達とナラボートに問う。彼等もサロメに続く。
「銀貨みたいで。お花にも見えるわよね」
「そうですね」
「本当に。ただ」
 彼等はサロメの言葉に頷く。頷いてから述べる。
「ただ?」
「不吉なものも感じます」
 同僚の、茶色の髪の兵士は言う。
「特に今日の月には」
「そうかしら」
 だがサロメはその言葉に首を傾げさせる。
「私はそうは思わないけれど」
「しかし王女様」
「やはり」
「遂に時は来た」
 ここで声がする。サロメはその声の方に顔を向けた。
「主が来られる時が」
「あの声は?」
 声の方に顔を向けながら兵士達に問う。
「誰の声なの?」
「預言者様の声です」
 黒髪の兵士が答える。
「預言者というと」
「申し上げにくいのですが」
 茶髪の兵士が答える。
「先程の話なのですが」
「私が尋ねた話ね」
「はい」
 兵士達はまた答える。
「というとあの声は御義父様の言っておられた」
「そうです。ですから」
「御近付きには」
 そう言って彼等はサロメを止めようとする。怪訝な顔で彼女の顔を見ていた。
「母上はあの方を嫌っておられたわね」
 サロメはふと思い出したように述べた。
「そういえば」
「ええ」
「それもありますし」
 兵士達はとにかく彼女を止めようとする。サロメの前に立っている。
「ですからやはり」
「お聞きになって頂ければ」
「一つ聞きたいことがあるの」
 しかしサロメはそんな彼等にまた問う。
「その預言者は幾つなのかしら」
「幾つですか」
「そう。若いの?それとも」
「若い男です」
 黒髪の男が答えた。
「それは確かです。ですが」
「何かあるの?」
「ございます。荒野にいた為その御身体は」
「身体は」
 サロメは何故か身体という言葉に刺激を感じた。ふと顔が上がる。
「どうなっているの?」
「逞しいものになっています」
「若くて逞しい男だというのね」
「そうです」
「何故かしら。それを聞くと」
 声が上ずっていた。その声でまた言う。
「会いたいわ」
「いえ、それはなりません」
 兵士達はそれをすぐに否定してきた。またしてもサロメの前に立つ。
「どうかここは」
「パレスチナの民よ」
 またヨカナーンの声がした。
「御前達を打ち据えた鞭が折れたとしても終わりではない。蛇の種から魔竜が現われ」
「また」
 サロメはその声に反応して顔を上げる。
「あの声が」
「その魔竜達が御前達を襲うだろう」
「不思議な声」
 サロメはその声を聞いて述べる。
「またその声が私にかけられたら」
「まずい」
「これは」
 兵士達はサロメの様子を見て危ういものを察した。
 
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