星河の覇皇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五部第三章 巨大戦艦その八
「まずは駆逐艦だな」
何処か魚を思わせる形であった。艦腹にそれぞれ小さな翼を持ち艦橋は小型である。そして砲塔は前に三つ、後ろに二つ、そして下部に一つ同じ口径のものが備えられている。前方には左右四門ずつの魚雷発射口があり艦橋の左右には対空砲座やミサイルランチャーが備えられている。
「大きいな」
それを見た観衆の中の一人が呟いた。
確かに駆逐艦とは思えぬ大きさであった。軽巡と言っても差し支えなかった。それは装備においても言えることであった。
「駆逐艦にはそれぞれ無人機を一機配備させています」
チョムが八条に対して言った。
「露払いにか」
「はい。敵の艦載機や海賊の小型の船に対処する為です」
「それならもう少し艦を小型にした方がよかったのではないですか」
「いえ、あれで丁度よい大きさです」
「やはり運用でですか」
「その通りです。この駆逐艦も一隻では行動しません」
「艦隊か」
「はい。一隻では限度があります故」
「しかし一隻でも中規模の海賊程度なら楽に壊滅させられる火力がありそうですね」
「いざという時にはそれも可能ですが」
だがそれは本来の運用目的でないのはすぐにわかることであった。
「海賊に対しても複数で対処することを前提に設計されています」
よく見れば運動性能にも秀でているのがわかる。左右の翼はその為である。
それに装甲やビームコーティングもあった。これは駆逐艦には本来ないものだ。
駆逐艦は機動力と運動性を最も重要視する。その為に装甲やコーティングはないのだ。それ等が弱まるからだ。
「あくまで集団で戦う為にですか」
「はい。それに速度や運動性自体も今までの駆逐艦と変わりがありません」
「それは画期的な設計だな」
八条はそれを聞き素直に自分の考えを述べた。駆逐艦という主力艦艇とは言えない艦種なのであまり目立たないがこれは確かに画期的なことであった。
「駆逐艦でこれだと他の艦艇はどうなるのかな」
「それはすぐにおわかりになることです」
チャムとレイミーはやはり自信に満ちた声でそう言った。見ればもう次の艦達が姿を現わしていた。
「護衛艦です」
今度は細長いタイプの艦が姿を現わした。見たところこの艦は機動力に優れているようだ。
「先の駆逐艦とセットでお考え下さい」
「セットとは?」
八条はそれを聞き眉を少し動かした。
「駆逐艦は攻撃用ですがこの護衛艦は防御用です」
「防御用」
「はい。この二種の艦は巡洋艦と並び艦隊の主軸となります」
「どういう使われ方をするのですか」
「駆逐艦は敵を攻撃に当たります。しかし護衛艦は空母や補給艦を護衛する任務に当たります」
「成程」
「その為索敵能力やコーティング、バリアーは駆逐艦より充実させたものにしました。そして武装も対空砲やミサイルを多くしました」
対空とは敵の艦載機や小型艦艇に対することを差す。二十世紀に使用されていた言葉をそのまま使っているのだ。
「そうか、だから護衛艦には魚雷発射口はないのですね」
「はい。その分を対空に回しました。ただし主砲は同じ口径です」
その主砲の形もかなり違う。駆逐艦のそれが円形で砲身がなかったのに対し護衛艦は砲身が備えられている。三連砲である。前に三つ、後ろに二つ。そして下部に一つある。魚雷発射口は左右に一門ずつしかないがその分を対空砲座やミサイルランチャーを装備していた。全体的に武装の高さは変わってはいないようだ。
「やはり攻撃力はかなりありそうですね」
「火力がなくては例え防衛用といっても話にはなりませんから。この二つは艦隊において運用されます」
「補助戦力もかなり整っていますね」
「ええ。これだけでエウロパやサハラ各国の巡洋艦程度なら楽に相手に出来る程には」
彼等は笑った。次には先の二種に比べてやや軽装備の艦が来た。
「あれはパトロール艦ですね」
「はい」
二人は答えた。
「これは速度と機動力を重視しました。十隻程で決められた宙域をパトロールします」
「戦場の後方や連合の領内をですね」
「はい。それを考え機動力や運動性、そして各種電子能力を駆逐艦や護衛艦よりもアップさせました。ただしその分装備や防御は弱いです」
「それでいいのでは。艦隊に入って戦うのではないですし」
「はい」
当然ながら海賊やゲリラと正規軍では装備がまるで違う。また戦い方も違う。この艦が海賊やテロリストを相手にすることを念頭に考えられていることは明らかであった。
「海賊を相手にする時はそれなりの艦隊を組むこともあるでしょうがとりあえずは十隻程を一単位として運用することを考えて設計しました」
「あくまで前線に立つ為ではないもです。だがそれもいいでしょう」
「有り難うございます」
「こうした補助艦艇なくしては戦いにならない。よくこれだけのものを開発してくれました」
そしてミサイル艦が来た。円盤に近い形をしている。艦橋は小型で主砲は前方と後方、下部に一門ずつあるだけだ。
だが各部にミサイルポッドやランチャー、左右に魚雷発射口を装備している。対空砲座もあるが主な武器はあくまでミサイルである。
「またえらく極端だな」
「はい。これは集中攻撃用です」
「集中攻撃か」
「敵艦隊、若しくは惑星に対して。その最大の武器があれです」
チャムはそう言うと艦首を指差した。
「艦首がか」
見たところ縦ニ列に艦首がなっている。変わっている形といえばそうなる。
「あれは二つのミサイルです」
「あれが」
「はい。敵のところに行くとそれだけで爆発を起こします。一撃で巡洋艦十隻程は撃沈出来ます」
「それを一度に打つ」
「はい。使いようによっては敵艦隊を瞬時にして殲滅することも可能です」
「そうですか。だがあまり長期戦に向いているとは思えませんね。あくまで集中攻撃用ですか」
「それは我々もわかっております」
「そいうことは長期戦用の艦も用意してありますね」
「はい。あれです」
次に入って来たのは艦首が巨大な砲となっている細長い艦であった。それを中心にし艦橋は後方にある。そして前方に三連の砲塔を四つ、下部にも四つ備えている。対空砲座やミサイルも備えている。
「砲艦ですね」
「ええ」
レイミーが答えた。
「あの艦首の主砲が主な武器です。あれで一斉射撃を加えます」
「そこに駆逐艦や巡洋艦が雪崩れ込むことも可能ですね」
「そうです。それも運用に考えました」
昔からある基本的な戦術である。砲撃による射撃の後で突撃を敢行する。それは宇宙でも行われているのだ。
「ですがその火力が今までとは格段に違います」
「一撃で敵に致命的なダメージを与えることを考えております」
「砲撃だけで」
「はい。言わばこの艦は重砲です。その一斉射撃はミサイル艦のそれに匹敵します」
「だが短期決戦には向いていませんね」
見たところ船足は遅い。ミサイル艦の方がかなり速そうだ。
「ミサイル艦と併せて少し考えた方がいいですね」
「といいますと」
「両方共艦隊で使うのでしょう。砲艦の機動力もそうだがミサイル艦の装備をもう少し考えて下さい。やはりミサイル艦も長期戦に使えるようにするべきです」
「わかりました」
二人は答えた。
「理想としては両方を同時に使いたいです。それでもう一度考えて下さい」
「ハッ」
今回観艦式で進んでいるのはテスト艦艇である。その為これから訂正がきくのだ。それを踏まえての観艦式でもあるのだ。観艦式は軍の威容を誇示するだけが目的ではない。
そして軽巡が来た。葉巻にやや近い形をしているが全体的に細長めだ。艦首の下方に巨大なビーム砲を搭載し前方に三門、後方に二門、そして下方に三門三連の砲塔がある。
艦橋の周りはやはり対空砲座があり魚雷発射口は艦の艦首に近い部分に左右五門計十門備えられている。そのすぐ後ろにはミサイルランチャーもある。これは左右に二つずつだ。
「一つは対艦、一つは対空です」
「ふむ」
八条はそれを黙って聞いていた。
「この艦は装甲やビームコーティングよりも機動力を優先させました」
「軽騎兵といったところか」
「そうですね。そうした使い方がいいと思います」
「後方や側方に回り込むとか機動力で撹乱するとか」
「そうした使い方が合っていると思います」
「そうですか。だがそれにしてもこの艦も大きいですね」
見ればとても軽巡という大きさではなかった。かなり大型の重巡と言っても差し支えなかった。
「それだけエンジンは高出力のものを搭載しております故」
「武装も」
「ふむ」
確かに駆逐艦、護衛艦もこの軽巡も装備は凄い。口径も他国の同じ型のものより大きく武装も砲塔にして前も後ろも下もかなり程違っている。細かい武装は言うまでもない。そのうえ防御まで違うのだ。これはかなりの戦力と言って差し支えなかった。
次はその重巡だ。形は先の砲艦に似ていなくもない。艦橋はやや後方にある。だがその大きさと装備は砲艦よりもさらに上であった。
艦首には砲艦のものよりやや小型の砲と魚雷発射口が左右にそれぞれ五門ずつある。主砲は軽巡のそれよりも二回り程大きいであろう。それの三連の主砲が前方に三門、後方に二門あった。下部には三門だ。
ミサイルランチャーも対空ビーム砲座も軽巡よりも多かった。装甲もビームコーティングも堅そうだ。
「軽巡が軽騎兵ならこちらは重騎兵といったところでしょうか」
チャムが言った。
「こちらは正面への攻撃をメインに考えました。言うならば打撃戦力です」
「主戦力の一つですね」
「はい、戦艦と共に」
「速度は軽巡程ではないですがいざという時にはかなりものが出せます」
レイミーも説明に加わった。
確かに速度は先の軽巡よりは遅そうであった。だがその巨体と武装は異様な程であった。これが戦艦と言ってもおそらく誰も疑わないであろう。
「それにしてもどの艦もかなりの大型だな。駆逐艦ですらかなり大きかったが」
「あえてそういう設計にしました」
「ほう」
八条はチャムの言葉に顔を向けた。
「大きめの方が後々装備を新たに備え易いですから。乗組員の居住の関係もありますし」
「居住ですか」
「はい、これだけは充実させませんと。士気にも関わります」
連合は志願制である。エウロパもマウリアも志願制であるが連合のそれは他の二国とは軍に対する考え方がかなり異なっているのだ。
エウロパには『高貴なる者の義務』という言葉がある。貴族等高い身分にある者はそれなりの責務を果さなければならない。彼等はそれに従い軍に入るのだ。当然将校であるがそれにより少なくとも軍の指揮官は確保できている。下士官や兵士は彼等に仕える者も多い。主が入るなら自分も、である。中世の騎士のそれに似ていると言えばそうなる。
マウリアはインド文化であるせいか何処かにカーストの思想の名残があった。かってクシャトリアと呼ばれていた戦士階級の者にあったとされる者が軍に入る傾向がある。彼等も軍の維持にはさ程困ってはいなかった。カーストの名残は確かに困ったものであるが軍の維持という点では役には立っていた。
連合には貴族もカーストもない。軍人は職業の一つとして捉えられている。だから待遇が悪ければ来ない。他に職業は幾らでもある。大金持ちになりたければ企業を興すか株でもうけるか大農園を開くか。はたまた鉱山を掘り当てるか。そうした考えである。普通に暮らしてもよい。軍での扱いが悪ければそれはすぐに人手不足に直結する。志願制の軍隊の難しいところであった。
従って艦内の居住設備も充実したものにしなければならなかった。娯楽の為のテレビゲームや書斎、スポーツジム等も備え居住区もこれまでのものより良くした。シャワールームもトイレも設計の段階から一新し数も多くした。これは将兵の健康の維持の為でもあった。
「それは当然ですね。将兵を確保する為に」
「はい。少なくとも大航海時代の様なことはありません」
「あんなふうにしたら志願者は一人もいないでしょうね」
八条はそれを聞き思わず苦笑した。あの頃の船乗りは餓えや疫病と常に隣合わせであった。
「はい。それは極論ですが陸上にいる時と変わりない状況に近づけるようにはしました」
「なら問題ありません。将兵の士気の維持は不可欠ですから」
「はい」
チャムは頷いた。それを考えるとそれぞれの艦の大きさは納得がいった。
「ところで乗組員の数ですが」
彼はそこで将兵の数に対して問うた。
「はい」
レイミーが応えた。
「これまで通りやはり一隻にあたり多い艦で百人程でしょうか」
「ええ」
どうやらこれは変わらないようである。
「そうか。それは変わらないですか」
「ですね。いざとなればどの艦も五十人程でも動けるようにコンピューターによるコントロールを強化しておりますが」
「そうか、用意がいいですね」
「何が起こるかわかりませんから」
「確かに」
不測の事態が起こるのが戦争である。あらゆるケースを想定しておくのは当然と言えた。
「それにしてもどれも大きな艦だ。これが百人で動くのですか」
「もっと大きい艦もありますよ」
ここでチャムが微笑んで言った。
「いよいよですね」
「はい」
会場がざわめきだした。いよいよマニア達が最も待ち望んでいた艦達が姿を現わすのだ。
ページ上へ戻る