茨の王冠を抱く偽りの王
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11.失われた聖夜の続き
『先ほど15:40分頃、羽田空港において葬儀社を名乗るテロリストグループがウイルスを使った大規模なテロを行いました。この事態を受けて政府は.....』
こんな馬鹿げたニュース聞いてるだけで腹が立つ。
俺は携帯端末のニュースを聞いていたページを消す。
でも、俺はもう......葬儀社じゃない。
その時、携帯端末にCALLの文字が表示され、応答する。
『......イバラ』
その声を聞きとっさに通信を切ろうとしたが、体が動かない。
『..........何とか言いなさいよ......』
通信の相手は.......綾瀬だ。
『......みんな.....やられちゃったじゃない......ガイといのり.....シオンとも連絡とれないし.......あんたのせいよ......あんたのせいよ、イバラ!!.....あんたが来ないから!!』
俺は何も言い返せなかった。
いや.....何も言い返す言葉が見つからなかった。
最後に綾瀬、小さな途切れた声で何かを言う。
『.....お...い、...バラ......』
途切れた声だったが最後の言葉はしっかりと聞こえた。
『......助けて』
通信が切れた。
避難のアナウンス以外の音は今は聞こえない。
だが、じきにまたあの歌が聞こえるかもしれない。
避難のアナウンスが途絶え、校内放送で誰かが喋っている。
『あの....聞こえますか?』
この声は、集の声だ。
やっぱり、あいつも同じ考えか。
『これから名前を言う人、この放送が聞こえていたら........えっと....映研部室まで来て欲しい。.....こんな時だけど、頼みたいことがあるんだ』
俺は映研部室を目指し走った。
「何だよ、シュウ。頼みたいことって?」
「貿易警報が出てるの知ってるよね?」
不安そうな顔をして颯太と草間が部室に入ってくる。
供奉院会長は俺が来ると同じくらいに部室に来た。
今ここには、俺、集、祭、供奉院、颯太、草間の六人。
「でも.....僕は.....」
集は困った顔ですこし言葉を切りながら言う。
「でも....僕は.....羽田に行きたいんだ」
「空港に?」
「外にはウイルスが出てるのよ!」
「.....羽田に.....助けたい人がいるんだ。でも....僕一人じゃ、無理で....その....みんなに手伝ってもらえれば.....「そうやってまた、人を道具扱いする気か!」」
集の言葉を割って誰かの声が響く。
映研部室に入ってきたのは......八尋だ。
「八尋君」
「何だよ、道具って?」
「さぁな、シュウなら答えてくれるんじゃないか」
八尋は集の方を見る。
「なぁ、シュウ」
「道具というのはどういうことかしら?」
「こんな状況で助けにいかなくちゃいけない人って誰なの?」
「ひょっとして、いのりちゃん?いのりちゃんなのか!!?」
皆が集に疑問をぶつける。
「みんなにいっぺんに言わないで、シュウはちゃんと答えるから....ね」
集が何かを迷っている。
「もう時間がないの逃げなきゃ!」
「話してくれよ、シュウ!!俺たち友達だろ」
「桜満集君、あなたには答える義務があると思うんだけど」
集はまだ迷っている。
そんなに迷う必要なんてどこにもないだろ!!
集!!、俺の声にそこにいた皆が俺の方を見る。
「迷う必要なんてないだろ!!お前は、ガイじゃない!!お前は......桜満集だろ!」
どうやら迷いはなくなったようだ。
決意を決めたいい顔をしてる。
集は立ち上がり、祭の方を向く。
「祭!」
「なに?」
「これから僕は君にちょっと怖いことをするよ。でも何も心配しなくていい....危険はないから」
「うん、いいよ」
なるほど、集なりのやり方か....
「おっ!おい」
颯太が声をだす。
集は祭の胸のあたりに手をだす。
すると、まばゆいばかりの光が現れる。
そして、祭のヴォイドが姿を現す。
祭のヴォイドは.....包帯。
「祭、どうしちゃったの」
草間が心配そう言う。
「大丈夫。これを戻せば目が覚めるから」
「ど、どうなってんだよ、シュウ!!」
「説明してくれるのよね、オウマ君」
「これはヴォイド。人の心を形にしたものだよ。だから人によって形と効果は違ってくる」
集はそういいながら、壊れたふゅーねるの足の一部に祭の包帯を巻きつける。
すると、ふゅーねるはいつも通りに元気に動き出した。
集はヴォイドを祭の中へと戻す。
「あれ、わたし....」
「大丈夫。....今、君のヴォイドを使ったよ」
「わたし、どんなだった」
「祭らしい、優しいヴォイドだったよ」
「忘れちゃってると思うけど、颯太と八尋、それに供奉院さんからは前に取り出したことがあるんだ」
「俺らからも」
「君たちの心を勝手に盗み見た気持ちでずっと後ろめたかった.......ごめんなさい」
集の言葉に少しの間があく。
ここで俺のヴォイドを紹介するつもりだったけどしにくいな。
「それだけじゃないだろ!僕はその力をテロリストを手伝うために使いました....だろ」
「......八尋」
「言えよ。これから助けに行きたい人ってのも」
「そう、ガイといのり......葬儀社のみんなだ」
「いのりちゃんも葬儀社」
「答えろよ、シュウ.....そんな奴らをどうして助けたい.....潤のことも助けられなかったのに....テロリストなんだろ、そいつらは!!」
潤君....あの、倉庫にいた少年。
集が八尋を守るため....潤君を潤君のままでいさせるために殺めた少年。
「僕にもなにかできるって信じてくれたから!」
集が声をあげる。
「葬儀社のみんながいなかったら今でも僕はいなくていい人間だった!そのみんなが困っていて僕には、やれることがある。だから!!お願いします!!!」
皆に集が頭を下げる。
みんなは少し考えるが心は決まったようだ。
「よし、行こう!!ここにいたって無事って保証はないんだろ。だったら動く方がいいじゃん」
やっぱり、颯太だな。
「颯太君らしいね」
「私にも無関係というわけではなさそうね」
「ありがとう、八尋」
「俺だって、潤が必要としてくれなければ、とっくにいなくていい人間だった。.......同じだろお前も」
「それじゃあ、行こうか、ガイをいのりをシオンを葬儀社のみんなを助けに」
俺たちは今、地下の抜け道を通って空港へと目指している。
「こんなところに道があったんだ」
「これなら軍に止められずに空港近くまで行けるな」
地下道を抜けて地上へとつく。
そこは空港近くの道に出た。
やはり、軍の連中がいるが数はそれほどはいない。
見つからないように俺たちはバギーに乗り込む。
「行くよ、みんな!!ツグミ、出して!!」
『アイアイ!振り落とされないようにね!!』
バギーを発進させ羽田空港へと向かった。
待ってろ、シオン、綾瀬!!
空港へと目指してバギーを爆走させていると空から歌が聞こえる。
今度は優しい歌声だ。
まるで空そのものが歌ってるかのように聞こえる歌を歌っているのは......いのりとシオンだ。
「いのりだ.....いのりが歌ってる!」
「シオン.........待ってろよ」
『前方バリケードあるよ!』
ふゅーねるから聞こえるツグミの声が告げる。
前方に軍の連中がバリケード立て銃を構えている。
『止まれ!!侵入者は実力排除するぞ!!』
「供奉院さん!!」
バギーの上にいる集が叫ぶ。
「お使いなさい」
『打てぇぇ!!!』
一斉に銃弾が発車される。
だが、供奉院のヴォイド......鎧の盾が銃弾をバギー当てることを許さない。
バギーはそのままバリケードを破壊して先に進む。
橋へと侵入すると上空のヘリからミサイルが飛ばされてくる。
それを供奉院のヴォイドで弾く。
弾かれたミサイルは橋を破壊する。
「ガイならひかない.....祭!!」
集は続けて祭のヴォイドを使い橋を治し先へと進む。
すると後方からエンドレイブが三機現れる。
「うじゃうじゃ来た!!」
「やっと、俺の出番か!」
俺もバギーの上に上がる。
「後ろは任せたよ、壊」
「おう、任せとけ!!」
右手の包帯を外し、キャンサー化した右腕をあらわにする。
バギーをトンネルへと侵入。
前方に扉が現れる。
当然、しまっている。
「颯太!!」
「えっ、俺?」
颯太のヴォイドは.....カメラ
集はそのカメラで扉を撮ると扉が開く。
トンネルを抜けるがまだエンドレイブが追ってくる。
俺は処刑剣を取り出し斬撃で三機のエンドレイブを一気に破壊する。
次に集は、草間のヴォイドを取り出す。
草間のヴォイドは......メガネ
片側だけ紫色レンズがついており遠くを見渡せる能力のようだ。
「見つけた!ツグミ、レーダー塔だ!!」
『アイ!最短距離でいくよ!!みんなを掴まってて』
レーダー塔へと近づく。
「いのりぃぃ!!」
「シオン!!」
二人はこちらを見て少し笑い歌い続ける。
すると、気を取られてる隙に後方にエンドレイブが現れる。
『うぉぉぉぉお!!』
エンドレイブがバギーを吹き飛ばす。
俺はギリギリで聖骸布のヴォイドへと切り替えてバギーを包み込む。
バギーは空港のビルに激突する。
ダメージは軽減されたが、バギーはもう動きそうにない。
「八尋!」
「これがお前のやれることなんだろ」
集は八尋のヴォイドを取り出す。
八尋のヴォイドは......ハサミ
「いくよ、壊!!」
「俺はいつでもいいぜ、集!!」
俺はヴォイドを処刑剣へと入れ替える。
俺と集は同時に飛び出しエンドレイブを切り裂く。
『グァァッア!!お前だったのか、顔なし!!』
最後の抵抗でエンドレイブがミサイルを七発飛ばす。
俺と集は壁を駆け上がりながら、そのミサイルをすべて撃ち落とす。
「いのり!!!」
「シオン!!!」
ようやく.....ようやく辿り着いた。
一歩一歩、俺たちはいのりとシオンに近づいて行く。
二人はゆっくりと振り向く。
「.....シュウ」
「.......王様」
やっと会えた......だが、なぜか違和感を感じる。
なんだ、違和感は!!
ピッキ!!
ウィーン!!
何かが割れる音と聞き覚えのある機会音が聞こえる。
すると、いのりの後ろの空間がゆっくりと割れ.....そこから人のような者が姿を現す。
俺はそいつに見覚えがあった。
そいつは、第四隔離施設でシオンに出会った時にいた白衣の男だ。
そして、白衣の男は王の右手のようにいのりの胸の前に手を出す。
その瞬間、まばゆい光が現れる。
それは、まるでヴォイドを取り出す時のように。
いのりの方に気がいっていた隙に、ウィーン!!、という機会音が大きくなりその姿を現した。
「黒い.....シュタイナー」
あの男のように空間を割っていきなり黒のシュタイナーが現れ、シオンを捕まえる。
「いのり!!!」
「シオン!!!」
「あなたにはがっかりですよ」
「アッは!!捕マえた!!」
黒のシュタイナーに斬りかかる。
だが、それは何かに弾かれる。
「うぁっ!!クソッ!!.....ヴォイドが!?」
俺のヴォイドは弾かれた瞬間、その姿を消した。
「王の器を得ながら、いつまでも虚ろなままで.....ここでお別れです、さようなら.....オウマシュウ!!」
白衣の男はいのりのヴォイドで高く振り上げ、そのまま、集に振り下ろす。
「集ぅぅっ!!!」
血が飛び散る。
赤い血が......。
だが、それは集のものではなかった。
それは.......集を助けに身代わりとなったガイのものだ。
ガイは倒れこむ。
「ガイ!!」
「だから、ほっと....けないんだ....お前は」
「ガイ!!しっかり!!」
ガイはグッタリとする。
「ガイ!!ガイ!!ガイィィ!!!」
「嘘.....だろ」
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