八条学園騒動記
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第百四十話 ソーマの力その六
「あの二人に限って」
「絶対にね」
「さて、それはどうでしょうか」
だがここでセーラは言うのだった。
「ソーマの力は偉大です」
「偉大なのね」
「何度も申し上げますが世界を征服できる程度です」
そこまでの力があるのだ。ソーマとは。
「そしてそれは必ずプラスの方向に働きます」
「そうなの」
「っていうか絶対になんだ」
「ソーマはディーヴァの力です」
マウリア語で神という意味だ。インドと呼ばれていた時代からの言葉だ。
「正しいことに使われない筈がありません」
「けれど」
「そうだよな」
しかしここで皆はひそひそと話し合った。
「カーリー神が善神になる国だし」
「そうよね」
戦いの女神だがカーリーの戦いは違う。殺戮と流血を司る。彼女は漆黒の肌を持ち四本の腕を使い縦横無尽に暴れ回り相手の血を飲んで殺戮のダンスを楽しむのだ。それがカーリーの戦いでありマウリアにおいては彼女もまた善神とされているのである。
「カーリーは偉大な善の女神です」
しかしセーラはカーリーについてもにこりと笑ってこう述べるのだった。
「悪を打ち滅ぼし尽くす清き心を持たれています」
「らしいね」
「そうね」
やはり皆はセーラの言葉をあまり信じてはいない。
「そしてお茶目でもあります」
「ええと、敵を殺しまくってその血を飲んで楽しく笑ってるけれど」
「それがお茶目なのかしら」
「夫であるシヴァ神の制止を受けてぺろりと舌を出されます」
戦いが終わってもあまりにも激しく暴れ回るので夫であるシヴァが踏み台になってそのうえで彼女を止めた。カーリーはそれに気付いてついついぺろりと舌を出すのである。
「そうした神ですから」
「そうだったの」
「とりあえず善い神なんだ」
なおカーリーはドゥルガーというこれまた戦いの女神の化身であるがこのドゥルガー自身も実はシヴァの妃であるパールヴァティーの化身である。即ちカーリーはパールヴァティーでありシヴァの妃になるのだ。マウリアの神々の化身は実に多いのである。
「ううん、それすらもわからないところが」
「マウリアって何が何だか」
「さて、この事件ですが」
「ええ」
「それでどうなるの?」
「既に解決されています」
セーラはにこりと笑って述べた。
「それは御安心下さい」
「もう解決してるんだ」
「そうです。交番に行けばわかります」
こう言って皆をその交番に誘う。そうしてやって来た交番で彼等が見たものとは。46
「えっ、これが?」
「これが犯人だったの」
「いやあ、まさかこいつだったんてね」
交番にいるお巡りさんもまさかという顔であった。見れば鳥かごの中に一羽の烏がいる。烏だというのにやけに表情豊かでその籠の中で憮然とした顔になっている。
「こいつはね。烏の団十郎っていいましてね」
「団十郎!?」
「歌舞伎の?」
「ああ、こいつの仇名なんですよ」
お巡りさんはこう皆に説明するのだった。その表情豊かな烏を見ながら。
「何処か気取っていて動きが芝居めいていましてね」
「そうなんですか」
「それで団十郎なんですか」
「この辺りで評判の悪党なんですよ」
その団十郎烏を見ての言葉である。
「こいつが車の窓に石をぶつけて割ってそれから中いあるお金を取ってたんですよ」
「ああ、そうですよね」
「烏って光るものが好きだから」
烏の特徴である。その巣には大量のコインやガラスが集められるケースが多い。
「だからそれで車の窓を割って」
「それで取ってたんですか」
「はい、石は足で掴んで上から落として割って」
実に頭がよいと言える。
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