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八条学園騒動記

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第百三十六話 キジムナーその三


「これって」
「風流か」
 話を聞いてやっとそうかもな、という感じになった今のダンの顔だった。
「そういうものか」
「ほら、見て」
 ナンはここで池の水面を指差した。夜の中で黒くなり時折銀色の光がそこに見える。そしてもう一つのものが映されていた。その映し出されているものは。
「あの月」
「月か」
「そうよ、月ね」
 ここでまた楽しそうに笑って述べるナンだった。
「お月様を見ながら釣りって。いいわよね」
「そういえばそうだな。ただ」
「ただ?」
「気をつけろよ」
 ダンの言葉が警戒するものになっていた。
「魚がかかって取る時にはな」
「その時はなのね」
「昼と違ってあまり見えないからな」
 だというのである。
「エイとかそういうのだったら危ないぞ」
「ああ、この学校のお池って色々なお魚いるからね」
「水面にも気をつけろ」
 そこもだというのだ。
「鰐が出て来たりもするからな」
「鮫だっているしね」
「そういうことだ」
 なお淡水産のエイや鮫である。この学園には様々な生き物が棲息している。
「幾ら大きいのは随時捕まえられていてもな。噛まれたらやっぱり痛いからな」
「そうね」
 実際には痛いでは済まない。
「あと淡水産のうつぼもな」
「危ないの結構多いのね」
 ナンは話をしているうちに思うのだった。
「河での釣りも」
「釣りは決して安全なものじゃない」
 ダンはそこをあえて強調するのだった。
「一歩間違えたら死ぬ。水の傍でやるしな」
「水は一見穏やかだけれど火より危ない」
 ナンはふとこんなことも言う。
「そういうことね」
「それはモンゴルの言葉か?」
「ええ。お爺ちゃんに教えてもらったの」
「そうか」
「最初は中国の古典にあったらしいけれど」
 韓非子である。法家の本であり秦の始皇帝がこのうえなく愛したものである。彼はこの書から法をさらに知り国を動かしていたと言われている。
「モンゴルにも伝わってそのまま残っているのよ」
「そうだったのか」
「それと一緒ね。モンゴル人は泳ぐことも得意だけれど」
「馬だけじゃないのか」
「だって河とかよくあるじゃない」
 草原はただ草があるだけではないのだ。
「何かあったらそこで泳いだりするわよ」
「こっちじゃ海で泳ぐけれどな」
「そうよね。琉球だとやっぱりそうよね」
「ああ、こっちはな」
 この辺りはまさに国の違いであった。
「そうする。それでそっちはそれか」
「そういうこと。それで河で泳ぐ時だけれど」
 その時の話もするナンだった。
「あれよ。昔は裸で泳いでいたのよ」
「服を脱いですぐか」
「水着とかなかったから」
 昔にそんなものがある筈がなかった。
「だからね。もう裸だったけれど」
「今は水着でか」
「ゲルの中で着替えてそれでそれを下に着てまた服を着て」
 結構手間がかかる話であった。
「それで泳いでるのよ」
「皆でか」
「そうよ。何か懐かしいわ」
 水の中に照らされた釣り糸を見て話すのだった。
「今思えばね。そうやって河の中で泳いだことも」
「そうか。懐かしいか」
「とてもね」
 こうも言うのだった。
「また河で泳ぎたいわね」
「けれど今ここで泳ぐとな」
「何あるかわからないからそれはしないわ」
 流石にそれはわかっているナンだった。 
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