八条学園騒動記
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第百三十三話 好きこそもののその五
「あれよね、やっぱり」
「あれも随分豪快な料理よね」
ダイアナもシェラスコと聞いて言うのだった。
「お肉の塊を串に刺してそれを焼くからね」
「それがまたいいのよ」
レミは誇らしげに笑ってまた肉にかぶりつく。
「あの焼き方がね。しかも量も多いし」
「そういえばあれ軍隊でも結構食うんだろ?」
マチアは肉をさらに焼きながらレミに尋ねた。
「何か肉をたっぷり食えるっていうんで評判いいらしいな」
「そうらしいわね。簡単に作れるしね」
レミはシェラスコについてこうも述べた。
「鉄の串に突き刺して後は火の中に入れるだけだから」
「焼く場所があればそれでいけるわよね」
「そういうこと。だからシェラスコはいいのよ」
レミはさらに言うのだった。
「もうね。シンプルだし」
「それでその肉をナイフで切って食っていくんだな」
マチアもその食べ方はよく知っていた。
「あれがまたいいんだよな」
「やっぱりあんたもシェラスコ食べるの」
「食わない筈もないだろ?牛肉好きだからな」
どうしても牛肉から離れないマチアであった。
「だからな。食べるさ」
「じゃあ今度一緒に食べに行く?」
レミはもうステーキを奇麗に食べ終えていた。そのうえで一緒に焼かれていた内臓を食べている。肝や心臓もそこにはあった。
「シェラスコ。どう?」
「いいな。じゃあ行くか」
「決まりね。しかしそれにしてもね」
今度は内臓を焼いたものを食べながらにこにことしていた。
「内臓の料理の仕方もわかってるじゃない」
「言っただろ?肉を食って生きているってな」
マチアの言葉はここでまた誇らしげなものになった。
「肉はただの赤身や脂身だけじゃないだろ」
「内臓も勿論そうね」
「脳味噌とかもな」
そういったものもだと言うのだった。
「そうだろ?全部肉なんだよ」
「鳥の皮とか豚の耳もそうだっていうのね」
「どっちも御馳走だな」
やはりマチアはそう認識していた。
「どっちも捨てる場所がないからな」
「牛もってわけなのね」
「勿論。羊も山羊もな」
マチアの話は続く。
「どれも捨てる場所なんてないさ。あるとしたら」
「あるとしたら?」
「声だけだな」
こうまで言い切ってみせた。
「牛の皮は流石に食うのは難しいけれどな」
「まあそれはね」
ダイアナも牛の皮については頷くのだった。
「あれはちょっと以上にね。無理よね」
「一応食えるらしいがな」
マチアはここで目線を上にやって述べた。
「何か食うものがなくなった時に靴を煮て食ったらしいからな」
「本当に食べられるの?それで」
「皮だからじっくりと煮て柔らかくして」
実際にその方法を述べるのだった。
「それから食ったらしいな」
「何かあまり美味しくなさそうに」
「美味かったら皆もう争って食ってるさ」
マチアの今度の言葉は素っ気無いものだったが真実であった。
「そうだろ?美味く食えるんだったらな」
「考えてみればそうね」
ダイアナも肉を焼きながら考えつつ述べた。
「それこそ皆ね」
「まあ皮は皮で役に立つしな」
今度はこんなことを言うマチアだった。
「あれはな」
「そうそう。やっぱり牛も捨てる場所がないってわけね」
「骨からスープも取れる」
それも忘れないマチアだった。
「鳥とか豚もだしな」
「お肉って本当に役に立つのね」
「立つんじゃない、立たせるんだよ」
しかしマチアはここでこう言うのだった。
「努力してな。美味いものだって努力して作るよな」
「ええ」
またマチアの言葉に頷くことになったダイアナだった。
「そういえばそうなるわね、本当に」
「料理も努力なんだよ」
マチアはこのことを力説してきた。
「音楽と同じでな」
「音楽は才能じゃないの?」
レミはまた肉を食べながらマチアの今の言葉に言い返した。
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