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八条学園騒動記

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第百三十一話 住所不定その六


「これも今はじめて気付いたけれど」
「家族構成もわかっていない」
 アルフレドはこのことについて言葉を出したのだった。悩むというよりは唖然としている顔で。
「そんなことが有り得るのか」
「プライバシーどころじゃないわよね」
 ビアンカも困惑した顔になっていた。
「やっぱり。これはね」
「僕もそう思う。それが書かれているものは」
「ちょっとないわね」
 それはないのだった。
「残念だけれど」
「それじゃあわかったのは住所だけだな」
「しかもそれはこの学校の敷地内」
 どれだけ広いかわかったものではない。
「どうする?本人に聞く?」
「聞くにしても」
 とりあえずクラスの中を見回す。しかし彼の姿は何処にもなかった。またしても何時の間にか何処かへ行ってしまっていたのだった。
「いないぞ」
「今回も神出鬼没なので」
「全く。それじゃあ調べるしかないか」
「そうね。じゃあ調べましょう」
「ああ」
 妹の言葉に対して頷いた。
「この学園の中をな」
「探していればわかるわよね」
「そう思う」
 不安に満ちていることがわかる今のアルフレドの返事だった。
「多分な」
「私も自信ないけれど。それでもね」
「調べるか」
「そうするしかないわね」
 こうしてこの学園内を調べようと動きだした二人だった。しかし思わぬところでストップがかかったのだった。
「ああ、僕の家だけれど」
「あっ、管か」
「何時の間に!?」
 二人共まずはここでもいきなり出て来た管に対して驚きの声をあげたのだった。
「ちゃんとあるよ」
「あるのか」
「けれどこの学園の中よね」
「うん」
 このことも認めてきた。しかもかなりあっさりとであった。
「そうだよ。だって僕の家ってね」
「ああ」
「この学校の用務員さんだから」
「そうだったのか」
 ここでもわかった衝撃の事実であった。彼の家は八条学園の用務員であったのだ。今まで誰も知らなかったことであったが今それがわかったのである。
「だからこの学園の中にお家があるんだ」
「それで住所がここになっていたの」
「そうなんだ。僕の他にもそういうお家があるよ」
 このことも二人に話したのだった。
「ちゃんとね」
「何処の学校にも用務員さんはいるな」
「ええ」
 これも考えてみれば言うまでもないことである。何処の学校にも用務員はいる。それは事務員や教師がいるのと同じである。もっと言ってしまえば学校に生徒がいるのと同じだ。用務員もまた学校には絶対に欠かせない存在であるのだ。だから家持も学園の中にいるのだ。
「しかしそういう家が幾つもあるのか」
「広い学校だから」
「そうよね」
 ビアンカは今の彼の言葉にその通りだと頷いた。
「広いからね、うちの学校って」
「だからだよ。十か二十はあるかな」
「もっと多そうね」
 ビアンカはこの学園の巨大さを思い出しながら述べた。
「ここまで広い学校だと」
「生徒だけで何万もだからな」
 アルフレドも言う。
「それなりに用務員さんも必要だな」
「そういうことね」
「それで僕の家に来るんだよね」
 家持は話を先に進めてきた。自分から。
「今日か明日に」
「ああ、そのつもりだ」
「皆でね」
「だったら高等部のすぐ側だから」
 こう二人に家の場所を話した。
「そこでレストランもやってるからすぐにわかると思うよ」
「レストラン!?」
「高等部の側で」
 二人は高等部のすぐ側のレストランと聞いてまた己の記憶を辿った。自分達が通っている学園ならばその周りのことは全部頭に入っている。だからこそ辿ったのである。
「色々とあるがな」
「どのお店かしら」
「森の中にあるよ」
 家持はここでまた二人に話してきた。
「そのレストランはね。僕のお家もね」
「森の中」
「高等部のすぐ側で」
「そこにレストランだな」
「だとすると」
 二人の頭の中でそういった断片が次々とつながっていく。それはまるでパズルケースが一つになっていくかのようであった。そうして完成されたケースは。
「あそこか」
「あそこね」
 二人は同時に声を出した。
「あのレストランか」
「若狭よね」
「うん、そこ」
 声だけで頷いて二人に述べる。やはりここでも表情は見せないのだった。
「そこなんだ。僕のお家は」
「あそこが御前の家だったのか」
「物凄い意外ね」
 アルフレドもビアンカもこのことをはじめて知りまたしても驚きを隠せなかった。
「しかし。わかればな」
「すぐに行けるわね」
「御馳走用意してるから」
 家持は静かに二人に告げた。
「けれど。お肉は」
「お肉!?」
「マチアが持って来てくれるんだよね」
 そのことを言う家持だった。声をあげたアルフレドに向けた言葉である。
「そうだよね。確か」
「あ、ああ」
 アルフレドは彼の言葉に少し戸惑いながらも答えた。
「そうだけれどな。肉とか一杯な」
「それでも御馳走は用意しておくよ」
 それもだというのだった。
「僕のお家でもね」
「御前の家でもか」
「どんな御馳走かしら」
 二人は彼の言葉からその家で出されるという御馳走について考えだした。
「何が出て来るか楽しみだな」
「そうね」
 そしてまた二人で言うのだった。
「そういうことも楽しみにしてな」
 こうした話をしたうえで家持の家に行くことになった。とりあえず彼の家が何処にあるのかはわかってほっとしてそのうえで行くことができたのは幸いであった。


住所不定   完


                  2009・4・8 
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