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八条学園騒動記

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第百三十話 ラブミー=テンダーその四


「ちょっと。どころじゃなくて」
「知らないんだな」
「ええ、全然」
 やはりこれが答えであった。
「何が好きなのかしらね、本当に」
「まずはそれからだな」
 話が最初に戻ってしまった。
「あいつが好きなもの」
「そこまで考える必要ないんじゃないの?」
 今度はダイアナが三人に言ってきた。
「そこまではね」
「何でだ?」
「だって。今ホームルーム前よ」
 学校の授業はまだはじまってもいないのである。皆徐々に登校してきている。校門のところには今ナンがいつものように馬で登校してきているのが見える。
「一旦いなくなってもまた来るわよ」
「そうだね」
 ローリーがその言葉に最初に頷いた。
「考えてみれば。後で絶対に来るよね」
「だから今何かをする必要はないわ」
 また言うダイアナだった。
「今はね。静かにしておきましょう」
「とりあえずギターはあるしな」
 マチアがいつも持っているそれである。
「これを貸して。それでいいよな」
「ギターはね」
「それでいいわよね」
 二人の女の子が彼の提案に賛同した。ローリーも特に反対の意思は見せない。
「じゃあ後は本人が戻ってきて」
「頃合いを見てね」
「ああ。ただしな」
 マチアはまた言葉を付け加えてきた。その顔はかなり警戒するものであった。
「絶対に逃がさないようにしないとな」
「それはね。とにかく神出鬼没だから」
 ローリーもその点はかなり注意していた。
「何時の間にかいなくなってたりするからね」
「何か本当に珍獣捕まえるみたいね」
 ジュリアはまたしても首を捻った。眉も顰めさせている。
「姿を見失うなって」
「本当に何時何をしてるかわからない人だから」
 ダイアナも話をしているうちにこのことを再認識していた。
「だからよ。それは仕方ないわよ」
「そうなのね。まあとにかく」
「うん」
「あいつの曲を聴くぞ」
 マチアは強い声で三人に告げた。
「とにかくな」
「興味持ってくれたんだね」
「今でも信じられない」
 このことははっきりと顔に出してしまっているマチアだった。
「あいつがギター。しかも」
「プレスリーってね」
 そしてそれはダイアナも同じだった。表情に完全に出してしまっている二人だった。
「あとビートルズも?」
「うん」
「余計に信じられないな」
「そうよね」
 二人は実際にまた眉を顰めさせていた。半信半疑どころではない顔でそれぞれ言うのである。それが心境吐露に他ならない。
「まあとにかくだ」
「百聞は一見にしかず」
 これもまた昔から言われている言葉である。
「見てみないとな」
「この場合は聞くだけれどね」
 それでも一見と言ってもいいものではあった。
「あいつが来てからな」
「見せてもらうわ」
「問題は何時来るかだけれど」
 ジュリアが言った。
「まだ。戻ってきてないわね」
「本当に出たり消えたりするね」
 ローリーもまだクラスに彼がいないことを確かめて言う。彼がいないことは明白だった。彼の席は空いたままでクラスの何処にも姿は見えはしない。 
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