八条学園騒動記
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第百二十九話 カラオケにてその六
「それでね。それじゃあ」
「ええ」
「これ、皆にも教えてあげた方がいいかな」
今度はこう考えだしたのだった。
「ちょっとね。どうかな」
「皆に?」
「人の悪いことは広めないで人のいいことは広める」
ローリーは言った。
「それっていいことじゃない」
「逆のことしたら人間として最低だけれどね」
ジュリアは今の彼の言葉は逆手にした。
「その場合はね」
「そんなことはしないから」
幸いにしてローリーはそういう人間ではないのだった。
「もっとも好きな人のことはいいことばかり広めて嫌いな人だと嘘のことまで言い回す人は知っているけれどね」
「それもよくないわね」
「そうだよね、これもね」
「前半はいいけれど後半は最悪じゃない」
こう言ってそのことを批判するのだった。
「だったら結局同じよ。まあそういう人もいるのね」
「残念だけれどね」
「それでよ」
ジュリアはまた話を戻してきた。
「今のあんたの話だけれど」
「うん」
「いいじゃない」
賛成の言葉だった。
「じゃあそれで行きましょう」
「うん。それじゃあ」
「いいものは皆が味合うべきよ」
にこりと笑って彼に述べた言葉だった。
「だからね。皆にもね」
「そういうことだよね」
「そういうことよ。それにしても」
ここでまた家持の音楽を聴く。今度はスティービー=ワンダーだった。二十世紀から二十一世紀にかけて活躍したアメリカのアフリカ系歌手である。盲目だったがその音楽は最高のものだった。やはり彼も伝説の存在になっているのである。
「今度はスティービー=ワンダーね」
「そうだね。今度も凄いわね」
「ええ、全くね」
ジュリアはもうその顔をうっとりとしたものにさせていた。
「こんないい曲。皆が聴かないとね」
「宝の持ち腐れだよ」
「さて、面白いことになるかしら」
今後のことを考えればそれだけで笑みになるのだった。
「この曲を聴いたら皆驚くわよ」
「それだけじゃないよ」
ローリーも言う。
「最初はイメージギャップに苦しんでね」
「私達みたいにね」
「そういうこと。まあこういうことはいいよね」
「悪戯はいいのよ」
いつもの二人だった。
「それはね」
「そうそう」
二人で言い合い頷き合う。
「けれどそれでも」
「そうだよね。いいことは皆でね」
「いいことは皆に教えて悪いことは自分の中に収めておく」
ジュリアはまたこうした言葉を口に出してきた。
「私の国の古い言葉よ」
「イロコイのだよね」
「インディアン嘘つかないわよ」
右目を悪戯っぽくウィンクさせてそのうえで明るく言うのだった。
「この言葉は知ってるわよね」
「まあね」
インディアンとは言うまでもなくネイティブアメリカンのことである。彼等の古い呼び名だ。この時代では殆ど使われていないがそれでも残っている言葉ではある。
「西部劇でね」
「まあ古い言葉だけれどね。それと一緒よ」
「そうだったんだ」
「だから。いいことだから」
あらためてこうローリーに話すジュリアだった。
「そういうことでね」
「わかったよ。それじゃあね」
「ええ。明日早速皆に話してね」
「だね。面白いことになりそうだよ、本当に」
また微笑んで語るローリーだった。
「これからね」
「本当にね」
ジュリアも笑顔で応える。彰子はその間もずっと家持の隣にいる。しかしそのことには全く気付くことのない二人なのであった。
カラオケにて 完
2009・3・28
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