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八条学園騒動記

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第二話 妹と兄その四


「ちょっと」
 ここで蝉玉が三人に声をかけてきた。
「人の話聞いてる!?」
「あっ、うん」
「よくね」
「そんなふうには見えないけれど」
 慌てた顔で応対する三人を見てあからさまに疑わしげな目を向ける。
「まあいいわ」
 だがそんなことを気にしている状況ではなかった。彼女個人にとっては。
「それじゃあ行くわよ」
「結局行くんだね」
「当然よ、いたいけな女の子を毒牙から守るのよ」
 言葉だけは偉く危機的である。
「その為には多少手荒なことでもね」
「やれやれ」
「結局こんなものまで持って来て」
 ベンとエイミーは溜息をつく。二人は何時の前にか金属バットを持たされている。
「私とスターリングは素手でも充分よね」
「多分」
 実は蝉玉は中国拳法、スターリングはマーシャルアーツをやっている。両方共軍人である祖父に教えられたものである。
「じゃあ安心ね。兄貴も拳法やるけど」
「まあ四人がかりならね」
「よし、それじゃあ」
「行くか」
「そうね。こうなったらもうやぶれかぶれよ」
 ベンとエイミーは呆れ顔で話を続ける。
「いざ」
「鎌倉・・・・・・じゃなかった部屋の中へ」
 何故か古い言葉を知っているエイミーであった。
 扉を開ける。蝉玉がまず飛び込んだ。
「覚悟なさい、馬鹿兄貴!」
「馬鹿兄貴って!?」
 だがそれに帰って来たのはハキハキとした大人の女の声であった。
「あれ、お姉ちゃん」
 エイミーがその声に反応した。
「どうしてここに?」
「ん!?エイミー?」
 出て来たのは背の高い赤茶色の髪をした背の高い女の人だった。上は草色のセーターに下はジーンズというラフな格好がよく似合っていた。顔は奇麗というよりは凛々しいといった感じであった。その凛々しい顔に碧の目がよく似合っていた。今さっき話も出ていたエイミーの二番目の姉である。
「あんたこそどうして」
「どうしてって言われても」
 思いも寄らない姉の登場にエイミーは動きを止めてしまった。
「ちょっとまあ」
「しかも金属バットなんか持って」
「まあこれもね」
 エイミーはバツが悪そうな顔で応える。
「まあそれはその」
「しかもお友達まで一緒で」
「何であんたのお姉さんがここにいるの?」
 蝉玉は顔をエイミーに向けて尋ねた。
「私に言われても」
「そうよねえ。何でここに」
「勉強教えてるのよ」
「勉強!?」
「そうよ、ここの娘達にね」
 二番目の姉であるジョーは言った。
「教えてあげてるの」
「そうだったの」
「じゃあうちのアリスにですか?」
 スターリングが前に出てジョーに尋ねた。
「貴方アリスさんのお兄さん?」
「ええ、まあ」
 スターリングはそれに答えた。
「そうですけど」
「そうだったの。それはまた」
「で、俺はその」
「ルーシーとケイトのお兄さんかしら」
「わかります?」
「何か話に聞いてるのと印象が同じだからね。それで最後の貴女は」
「うちの馬鹿兄貴ここですよね」
「馬鹿兄貴とは心外だな」
 妙にカラフルに着飾ったみらびやかないでたちの若い男が姿を現わした。顔立ちは蝉玉に似ているが何かが違う。高くスラリとした身体をゴチャゴチャと着飾っているのだ。それがやけに変だ。
「僕みたいな人間を差し置いて」
「やっぱり兄貴いたのね」
「来たの、公明」
「何か騒ぎだからね」
 蝉玉の兄である劉公明であった。一目見ただけでかなりの変人であることがわかる。
「嫌でも聞こえてるさ」
「まあそうよね」
 エイミーがそれを聞いて頷く。
「玄関でこれだけ騒いだら」
「扉でも結構おしゃべりしていたしな」
 ベンも言う。二人にはどうして気付かれたのかよくわかった。
「それで妹よ」
「何よ」
 ムッとした顔を兄に向ける。
「僕の何をそんなに警戒しているんだい?」
「全部よ」
 返した返事は身も蓋もないものであった。
「それ以外の何だっていうのよ」
「やれやれだ」
 それを聞いて嘆いてみせる。
「兄さんを信じてくれないのか」
「お兄ちゃんだから信用出来ないのよ」
 蝉玉はなおも言い返す。
「だからここに来たのよ」
「といっても普通に勉強教えてるだけだよ」
「嘘仰い」
「いえ、本当のことよ」
 疑う蝉玉に対してジョーが言った。
「私もいるから。これだと信じてくれうわよね」
「ジョーさんが言うなら」
 信じることにした。どうあっても兄を信じるつもりはなかった。
「ちゃんと教えてるんだ」
「それでジョーさん」
 何か影が薄くなっているスターリングがジョーに尋ねた。
 
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