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八条学園騒動記

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第十六話 物持ちはいいけれどその一


                  物持ちはいいけれど
 クラスの保健委員はアンジェレッタである。やはり彼女が適役であった。
「やっぱり疲れてる時はこれよね」
 クラスメイト達と話をしながら懐から何かを出してきた。
「蝮だよね」
「ちょい待ち」
 だがその蝮酒を出した時点でナンがクレームをつけてきた。
「何?」
「あんた今どっから出したのよ」
「ポケットの中からだよ」
 それに対するアンジェレッタの返事はあっけらかんとしたものであった。
「驚くことないじゃない」
「充分驚くわよ。服のポケットに一升瓶がどうして入っているのよ」
「ちょっとしたコツよ」
 それでもアンジェレッタの態度は相変わらずであった。
「ちゃんと入れられるから」
「とてもそうは思えないんだけれど。また変なことを」
「だからできるのよ」
 アンジェレッタは信じようとしないアンにそう説明する。
「だって。他にも持ってるし」
 今度は朝鮮人参の瓶を出してきた。
「これも」
 スッポンのエキスも。
「これだって」
 そして様々な漢方薬を。何でも持っているようである。
「全部簡単に入られるわよ」
「あのね、あんた」
 ナンはまた言った。
「簡単にあんたよりも重いものが入られるわけないでしょ。どうやったらこんなに一杯入るのよ」
「だからコツだって」
「どんなコツよ。ボルツより凄いじゃない」
 モンゴルに古くから伝わる保存食である。肉を凍らせたものであり増やすとかなりの量になる。モンゴルでは昔から貴重な保存食なのである。
「コツとはとても思えないわよ」
「まあまあ」
 信じようとしない彼をロザリーが宥める。
「細かいことはいいじゃないか」
「細かいことじゃないと思うけれど」
「あんただって色々あるだろ」
「まあそうだけれど」
 実は彼女は彼女で変なことが多いのだ。このクラスの面々は誰もが奇人変人である。
「けれどさ」
「それによ、アンジェレッタの薬って結構役立ってるじゃないか」
「まあね」
 それは頷ける。確かに事実である。
「けれど」
 だがそこにしかし、とつくのである。
「その薬さ」
「漢方薬よ」
 この時代でも漢方薬は健在である。医学の一つの分野にもなっている。
「それはわかるわよ」
「じゃあ驚くことないわ」
「驚くわよ」
 だがナンは言う。
「何で蝮酒なのよ」
「一発で元気が出るわよ」
「そういう問題じゃなくてね」
「じゃあ何なんだよ」
 ロザリーも問う。
「細かいな、そこんところは」
「草原じゃ一瞬の油断が死につながるのよ」
「何時の時代の話だよ、それ」
「チンギス=ハーンの時代よ」
「・・・・・・二千年も前だろうが」
 ロザリーはそう突っ込みを入れる。
「そんな昔のことなんて流石にどうでもいいだろ」
「と思うでしょ」
「ああ」
 今度はロザリーが聞き役になっていた。
「ところがモンゴルじゃ違うの。モンゴルといえばやっぱり」
「チンギス=ハーンだってか?」
「そういうこと。モンゴル人の偉大なる太祖なのよ」
「まあそれは教科書でならったけれどよ」
「だったら余計にお薬を」
「だから何でそうなるのよ」
 アンジェレッタにまた言い返す。
「身体が第一よね、草原だと。だから」
「昔はモンゴル人は何日も飲まず食わずでも平気だったのよ」
「それ本当?」
「らしいな」
 ロザリーがアンジェレッタに囁く。
「何せ草原の覇者だからな」
「そりゃまた凄いわね」
「流石に今はそうじゃないけれど。それでも丈夫さには自信があるわ」
「だったらそれをパワーアップさせる為にも」
「いいわよ」
 ナンはそれを断る。
「そんなの。私今で満足してるし」
「馬鹿なことを言うな!」
「って何処から出て来たのよ」
 どっからともなくフランツが沸いて出て来た。
「現状で満足しているだと!?ナン、御前は馬鹿だ!」
「ってあんた」
 何故か馬鹿に馬鹿と言われると腹が立つもので。今のナンがそうであった。
「いきなり出て来て人を馬鹿って言うなんていい度胸してるじゃない」
「今のままに満足していてはそこから一歩も先には進めないんだ!」
「何かいっつもフランツが出て来るとスポ根になるわよね」
「また何でかねえ」
 アンジェレッタもロザリーもこれには呆れ顔であった。
 
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