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八条学園騒動記

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第百十三話 禁断の愛その五


「この前貸してくれたCDだけれど」
「ああ、あれ」
「はい」
 すっと姉の前に差し出してきた。
「返すわ。有り難う」
「うん。どうだった?」
「凄く静かになれる曲ね」
 こう答える明香だった。
「聴いていて。気持ちが落ち着くわ」
「アダージョだからね」
「アダージョねえ」
「やっぱり話していること同じね」
「そうね」
 皆彰子の言葉がここでも全く変わっていないことがわかった。
「けれど効いていない筈がないし」
「どうしたものかしら」
「そういう曲を集めてCDにしてるのよ」
「いいわね、そういうのも」
 妹は姉の言葉を受けて静かに微笑んでみせていた。
「おかげで昨日は気持ちが落ち着けたわ」
「あとね、明香」
 今度は彰子から言ってきた。
「アロマテラピーだけれど」
「今度は何がいいの?」
「ローズあるの?」
 こう妹に対して問うのであった。
「ローズは。どうかしら」
「ええ。あるわよ」
 優しい微笑みを浮かべて姉に答える明香だった。
「それもね」
「そう。それじゃあ今日帰ったら」
「すぐに火を点けるわ」
「御願いね。今日お父さん達帰るの遅いし」
「お料理作らないと駄目ね」
「鳥の水炊きにする?」
 にこりと笑って妹に提案してきた。
「それと揚げと。どうかしら」
「いいと思うわ」
 彰子のこの提案に明香も微笑んで賛成した。
「それでね」
「そう。それじゃあ」
「何?」
「鳥は鶏よね」
「ええ。そのつもりよ」
 鳥といっても色々ある。やはり鶏が一番ポピュラーであるが連合ではそれこそ始祖鳥まで食べられているから今の問いになったのである。
「鶏で。葱と糸こんにゃくとかも入れてね」
「揚げには生姜も必要ね」
「そうね。それを忘れたら駄目よね」
「ええ。それじゃあ今日は二人で買い物にするのね」
「そうする?」
「私はそれで御願い」
 妹の方から頼み込んできた。
「できるかしら」
「わかったわ。それじゃあね」
「ええ」
「二人で」
 話はそれで決まった。
「二人で。御願いね」
「そうね。何でも二人でよね」
「姉妹だからね」
「私に妹は一人しかいないしね」
 にこりと笑って明香に言う彰子だった。
「明香しかね」
「私も」
 そして明香もまた優しく微笑んで彰子に言葉を返すのだった。
「姉さんは一人だけよ」
「そうよね。じゃあ放課後ね」
「ええ。また」
「買い物にね」
「行きましょう」
 こう約束をして二人は別れたのだった。明香が小さく手を振ってクラスから出て行く。やはり話はこれで完全に終わりだった。見事なまでに何もなかったのだった。 
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