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八条学園騒動記

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第十五話 いつも前向きにその一


                   いつも前向きに
 八条学園はアルバイトに関しては非常に寛容である。変な店でアルバイトしなければ形式的な届出を担任に出すだけでそれでいい。これはアルバイトが決まってからでもいいのでかなり寛容である。
 彰子達のクラスでもアルバイトに励んでいる面々がいる。このクラスは殆どが外国から来ておりアパート暮らしである。親の仕送りの他にアルバイトもしてそれで遊んでいるのである。
「何かいいバイトねえかな」
「それだったらよ」
 クラスでもこんな話をしている。彰子はそんなクラスメイト達の話に今一つ入りきれていない。
「皆頑張ってるんだなあ」
 話を見聞きしてそう思うだけである。彼女はこれといってアルバイトする理由もないのだ。家が裕福だからである。こう見えてもお嬢様なのだ。
「何か私も頑張らないと」
「彰子ちゃんは頑張る必要ないんじゃないの?」
 黒い肌にそれよりもさらに黒い絹を束ねたような長く少し巻いた髪、それにスカイブルーの瞳の少女が声をかけてきた。エチオピア人のパレアナ=ホグマンである。やはりこのクラスの一員だ。
「お金持ちじゃない」
「お金の問題じゃなくて」
「何かの勉強に?」
「うん」
 彰子はこくりと頷いた。
「どうかな」
「悪くないと思うわよ」
 パレアナはそれに答えた。
「勤労は美徳なりって言うからね」
「そうよね。だから私も」
「それならクラスに専門家が一人いるし」
「ペリーヌちゃん?」
「あいつはちょと違うわよ」
「あら」
 その言葉に本人が反応してきた。
「どういう意味かしら」
「あんたのアルバイトって勤労とかそんなのじゃないじゃない」
「まあね」
 本人もそれは認めた。
「より多くのお金を稼ぐ為よね」
「濡れ手に粟よ」
 それがペリーヌの望みであった。
「そうじゃなきゃ働く意味がないわ」
「こうだからね」
「駄目なの?」
「働くことの大切さを勉強するにはちょっと違うと思うわ」
「お金は稼いで幾らよ」 
 それでもペリーヌは自説を述べる。
「出来る限り楽して多くのお金を手に入れる、これが一番よ」
「法律に触れない限りは?」
「そういうこと。ただし恋は別よ」
「というわけだから」
「恋は別なの」
 これは彰子にはわからない言葉であった。
「アルバイトといっても色々あるんだけれどね」
 パレアナはまた言った。ハンバーガーショップとか喫茶店とか中華料理店とかうどん屋さんとかパン屋とか」
「食べるところばかりじゃないの?」
「食べないと何にもならないからね」
 どうやらこれがパレアナの好きそうなバイト先であるらしい。
「それに後で余りもの貰えるし」
「ふうん」
「それを考えるとケーキ屋さんもお勧めよ」
「そうなんだ」
「後でケーキをただで貰えるから。他にはドーナツなんかもいいわね」
 やはり食べ物であった。パレアナの顔は今にも涎を垂らさんばかりになっていた。
 
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