八条学園騒動記
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百一話 博士の行いその二
「エンペライザーにしろじゃ。伊達に千回も改造しておるわけではないぞ」
「それでなのですか」
「エンペライザーは最早この宇宙で最強のロボットじゃ」
胸を張っての豪語であった。
「わしの千回の改造でな」
「バージョンアップですね」
「うむ。しかし最強にも限りはないのじゃ」
話はここでも求道的なものになっていた。
「じゃから。これからもバージョンアップするが」
「今回はこれを出撃させるのですね」
「左様。行けエンペライザーマーク1000!」
本当に千であった。
「その力で街を灰燼に帰せ。容赦はするな!」
「努力されているのはわかるんですけれど」
野上君はエンペライザーに破壊を命じる博士を横目で見つつ言った。
「それが何でいつもこうなるんですか」
「こうなるとは?」
「ですから博士いつも街を破壊したり訳のわからない改造人間作ったり」
言うまでもなくこの時代でも犯罪である。テロ行為そのものだ。
「ブラックホールに暴力団の事務所送り込んだのは三日前でしたね」
「不要になったからのう」
まるでゴミをゴミ箱に捨てるかのような素っ気無い返答であった。
「ヤクザ屋共は全員わしの偉大にして崇高なる細菌実験の英霊となったからのう」
「あれって化学実験じゃなかったんですか?」
「細菌実験じゃ」
どちらにしろ違法というものではない。連合軍ですら細菌兵器や化学兵器の開発及び使用は禁じられている。これは連合中央政府の法律で銀河進出の頃から定められていることである。つまりこれもまた違法どころの騒ぎではないのである。
「エボラ菌を数十倍強くさせて空気感染できるようにしたものとかのう」
「エボラ菌って・・・・・・」
この時代ではワクチンはある。しかし恐ろしい病気なのは変わってはいない。
「コレラをさらに悪質にさせ一週間悶え苦しむようにしたスーパーコレラとかのう。それを奴等の意志に関わらず注射したりして実験してみたのじゃったな」
「それでヤクザ屋さん達はどうなったんですか?」
「今頃もうブラックホールに飲み込まれておるかのう」
何と事務所ごとブラックホールのど真ん中に転送したのである。当然ながら中にいる人達のことなぞ一切考えてはいない。他人への配慮という言葉もまたこの博士の辞書にはないのだ。
「粉々に砕けておるか。その前に宇宙空間じゃから身体が破裂しておるか」
「その前に何があったんですか?」
「面白い光景じゃった」
満足そうな笑みと共に述べてみせる博士であった。
「エボラ菌を移されて顔中から血を流し悶え苦しむ」
「うわ・・・・・・」
「ハイパーペストで顔が真っ黒になるどころか腐り果てながら死んでいく。そうしてヤクザ屋さん達は皆わしの偉大なる細菌実験の礎となったのじゃよ」
「つまり全員死んだんですね」
「うむ」
今度は一言であった。
「デクは使うものじゃよ」
「デクって・・・・・・」
木人形という意味である。つまりもう人間とは見ていないのだ。
「何なんですか、それって」
「デクはデクじゃ」
やはり言葉は非常に素っ気無い。まるで小石を放り捨てるような感じだ。
「わしの目指す最高の細菌兵器の開発の為の道具よ」
「幾らヤクザ屋さんでも」
「悪いのか?」
博士の辞書には罪悪感という言葉もない。
「流石に善良な市民を実験材料にしては問題があろう。じゃから昔からそこいらの暴力団やどうしようもない不良や暴走族をデクにしておるのじゃよ。ラットやマウスを使うのはわしの流儀ではない」
「あくまで人間を使うのですか」
「同時に街の掃除にもなる」
どうやらただ暴力団員や不良や暴走族が嫌いなだけらしい。嫌いだという理由で生体実験を行うというのもまた恐ろしい話であるが。
「いいことではないか」
「確かに僕も暴走族とかは嫌いですけれど」
野上君も彼等は好きではない。
ページ上へ戻る