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八条学園騒動記

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第九十七話 智には智でその九


「まあよく考えればそうだよね。先生も人間なんだし」
「フーシェは愛妻家だったわ」
 プリシラは何気にとんでもないケースを提示している。
「それもかなりのね」
「だから先生に家族がいても不思議じゃないんだ」
「そういうことよ」
 ローリーに対してまた答える。
「奥さんと娘さんがね」
「娘さん・・・・・・」
 ローリーにとってはロシュフォール先生に娘がいるということも実に不思議なことだった。少なくとも現実のものとして話を聞いてはいないふしがある。
「あの先生に娘さんが」
「いるのよ」
 プリシラはクールに答える。
「驚いたかしら」
「うん、凄く」
 ローリーもそれを隠さない。
「驚いたなんてものじゃないよ」
「でしょうね。私だって驚いたんだから」 
 ジュディも言ってきた。
「有り得ないっていうかね」
「だから言うけれど」
 プリシラはここでもクールなままだった。
「あのハイドリヒにも家族がいたのよ」
「少し頭がおかしい奥さんだろ」
 タムタムがすかさず突っ込みを入れる。ハイドリヒとはナチスの親衛隊大将でありヒムラーの懐刀でありかつ最大の政敵でもあった。冷酷非情で残忍、狡猾な男として知られている。あまりにも危険な為チャーチルの工作で暗殺されたとされているがヒムラーが止めを刺したのではないかとも言われている。
「あれは」
「まあそうよ」
 プリシラはこれも否定しなかった。
「それでも家族は家族よ」
「そういうものなのか」
「そういうものよ。あのベリアだって」
「あいつは最悪でしょ」
 ジュディはベリアと聞いて顔を顰めさせた。
「あのベドフィリアは」
「嫌いなのね」
「好きになれっていう方が無理よ」
 顔を顰めさせたままプリシラに対して言葉を返す。
「あんな人間もどきはね」
「人間もどきね」
「どんな身体でも能力でも心が人ならば人でしょ」
 この時代のある特撮番組で言われている言葉である。かなり定着している言葉だ。
「だったらあんなのは人間じゃないわよ」
「そうなるの」
「ロシュフォール先生は人間みたいね」
 ジュディは話を先生のそれに戻してきた。
「思ったよりも」
「今まで何だと思っていたんだ?」
「独裁者」
 タムタムに対して答える。言いようによっては独裁者は人間ではないような物言いである。もっとも独裁者というものは時として己を神と自称したりするが。
「それか秘密警察のドン」
「それまんまだろ」
 タムタムは今のジュディの言葉に突っ込みを入れた。
「それは実際にそうだろ」
「あっ、そうか」
「もっともな」
 タムタムはそのうえで言葉を付け加えてきた。
「学校に秘密警察があるっていうのも凄いな」
「サハラならいざ知らずね」
 ローリーの言葉だ。専制的な独裁国家もあるサハラではそうした秘密警察も存在しているのだ。ティムールにしろ実はあったりしている。
「そういうものがあるなんて」
「けれど実際にあるわ」
 プリシラの言葉だ。
「だから今こうして」
「わかっているわ。まあとにかく」
 ジュディは言う。 
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