八条学園騒動記
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第九十一話 鼻が頼りその六
「それどころか」
「それどころか?」
「体力倍増よ」
「倍増なの」
「例えばヒットポイントが一桁だったとするわね」
「ええ」
話がゲームになっていた。この時代でも当然ながらテレビゲームがある。一家に一台は常識だ。様々な機種があるのも二十世紀末期から変わらない。
「それが五桁まで全快よ」
「五桁まで」
「ええ。言うならあれね」
「体力全快魔法」
「そういうことよ」
話は完全にRPGになっていた。
「それだけに作るのが大変だけれどね」
「そういえば大蒜とか以外にも一杯あるわね」
見れば机の上には色々とある。中には薬草もあれば干物もある。その干物の中にとりわけおかしなものもあるのにレミは気付いた。
「特にこれ。これは」
「ああ、これね」
上は緑の葉だが根は人型だった。随分変わった植物だった。
「マンドラゴラよ」
「マンドラゴラ」
「そう、これが特に凄いかも」
アンジェレッタはそのにこにことした笑顔でレミに語る。
「これを少し入れるだけでね」
「どうなるの?」
「お薬の効き目が全然違うのよ」
「そんなになの」
「ええ、高麗人参より凄いわよ」
「ふうん、そうなの」
マンドラゴラと言われてもよく知らないレミは頷くだけだった。そのレミに対してアンジェレッタはさらに説明をはじめるのだった。
「それでね」
「どうしたの?」
「これって手に入れるの大変なのよ」
「高いの?」
「かなりね」
どうやらかなりの高級品であるらしい。確かにかなり変わったものではある。
「マウリアの奥にしかなくて」
「究極の秘境って言われるあの?」
「そう、そのマウリアの奥にあるのよ」
マウリアの奥にはどんな星系があるのかさえはっきりとしていない。マウリア政府も詳しく把握はしていない。完全な秘境であり時々迷い込んだ人間が得体の知れない存在に成り果てるという噂まである。そうした場所なのだ。
「そこから入手したのよ」
「そうだったの」
「インターネットでね」
また随分と簡単な入手ルートだった。これはレミも思った。
「インターネット!?秘境のものが!?」
「裏サイトよ」
だがルート自体はとんでもないものだった。
「ふつうにやったら絶対に検索できないサイトよ」
「それ本当なの?」
「冗談よ」
かなり悪質なジョークだった。
「そんなわけないじゃない」
「本気にしたわよ」
「まあまあ」
むっとした顔になるレミを宥めつつ話を続ける。
「ベッキーから貰ったのよ」
「ベッキーから」
「ほら、ベッキーって呪術使うじゃない」
「ええ」
よく考えなくてもとんでもないことだが皆もうその程度では驚かないのだ。
「それでその時使うらしくてね」
「マンドラゴラってそういうものだったの?」
こう言われるとかなり胡散臭いものを感じずにはいられなかった。
「何なのよ、それじゃあ」
「ああ、安心して」
しかしアンジェレッタは笑ってその不安を打ち消してみせた。
「それ以外にも使えるから」
「それ以外にって」
「言っておくけれど呪術には生姜とかも使うのよ」
「生姜も!?」
これは誰もが普通に食べている。生姜は連合では非常にポピュラーな香辛料だ。とりわけ中華料理にはよく使われているものである。
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