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ソロモン会戦記 

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第一部
第一章
  宇宙要塞ソロモン

ソロモン海域波高し。
その日本国サイド3に送られた定期報告の末尾にはそう記してあったと言う。

宇宙要塞ソロモンは、ジオン公国宇宙艦隊の中核をなす宇宙攻撃軍の本拠地である。宇宙攻撃軍指令ドズル・ザビ中将は、その威丈夫っぷりもさる事ながら、果敢な攻撃精神と、柔軟な思考を持つジオン公国屈指の名将として名高い。僅か28歳でありながら味方には勇気と勢いを、敵には恐怖と後退を与えるその指揮の巧拙さは、すでに老練の意気である。

司令室前方の巨大モニターで、艦隊機動訓練の進捗状況を見守るドズルに、その情報が持たらされたのはその日の正午であったと言う。

「天頂方面を偵察中の哨戒巡洋艦グラーフ・シュペーより入電。おそらくは隠密中任務中の敵輸送艦隊らしき物を先刻発見。独断で追尾した所、大量の巨大な鏡の様な物を発見と」

指令室内がざわついた。皆歴戦の勇士である。彼らが等しく連想したのは、巨大かつ大量の鏡を使用した光学兵器。
開戦前であれば子供の妄想として、一笑に伏された類いの物であるが、それが強力な殺戮兵器となり得る事は、公国軍総帥ギレン・ザビの名で発令されたある技術研究の結果に以てしても明らかである。

「ソーラシステム構想か・・・現在我が軍において進行中の、コロニーレーザーによるソーラレイ計画と比べ、戦略・戦術的な甘みの小ささが故破棄した計画を、よもや連邦が実行に移そうとはな」

ドズルの指摘も当然である。ジオンの研究結果では兵器として見た場合、連射が効かない故に、兵器としては運用が非常に難しく、設置する手間とその防衛に割かなければならない戦力とを考えると、殲滅力こそ魅力的ではあるが実戦兵器としてとても使えるものでは無いと言う結論だったのだ。
余剰戦力の少ないジオンと違い、絶対数の多い地球連邦軍ならその欠点も幾分かは軽減されるが、鏡の防衛などに回す余裕があるかは甚だ疑問である。

「閣下、小官が思うにこれは恐らく噂されている、連邦による当要塞への攻略作戦において、奇襲的効果を狙って設置された物と思われます。我々の研究結果でも、奇襲的な運用なら是であると言われております。」

「小官も参謀長の意見に賛同いたします。加えて言うなら、我が軍の定期哨戒の範囲外にあたる天頂方面に、設置されたと言う事実を見ても、この可能性は高いかと思われます。」

宇宙攻撃軍参謀長グリューネマン小将と要塞事務総監アルトリンゲン大佐が各の意見を言うと指令室内で活発な意見が交わされ始めた。
敵の新兵器が早期に発見された場合、これを速やかに叩くのは軍事上の常道であるが、連邦軍によるソロモンへの侵攻が懸念される現情勢上にあっては、これを叩くのは敵に警戒されるだけでは無いかとの意見が大半を占めた。

ならばあえて敵を泳がせ、奇襲もしくは強襲に乗ったふりをして、大挙して侵攻してきた連邦軍を一網打尽にし、反攻の意図を挫いた方が、それ以後の戦争を優位に戦えるのでは無いかとの意見が、グリューネマン小将より出されると指令部の方針は決まった。
純軍事的に見た場合、投機性の強い危険な作戦が通ったのは、司令官ドズルの人となりが、多分に影響しているだろうが、彼らにはそれだけの能力、実績を充分過ぎる程に持ち合わせているのである。
彼らは連邦、ジオンの双方を通じて、最も高潔で剛胆な集団であり、皆が勇者であった。
忌避されるは惰弱と怯堕であり、賞賛されるは勇気と高潔であった。
そして望むべく物はただ一つ、勝利である。
「宇宙攻撃軍に臆病者と弱者はいない!諸君らの言や好し。来たる、ここソロモンでの連邦との戦いこそ、我等宇宙攻撃軍にとっての決戦となろう。完勝を期す為、関係各部はこれより作戦準備を行いたし!本職は諸君等の勇気と忠誠に感謝する。掴むべきは勝利である。圧倒的な勝利である。ジークジオン!」

そう締めくくったドズルに呼応して、一斉にソロモン各所より、ジークジオンの声が挙がる。ドズル・ザビ中将は兄であるギレン・ザビ総帥とはまた違った意味で、扇動者としての才能があった。彼の言葉で兵は奮いたち、喜んで死地に赴くのである。

ソロモンに響きわたるジークジオン。その声はソロモン宙域全体を多いつくすが如きであったと言う。 
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