八条学園騒動記
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第十一話 放浪者その三
「今から教室に戻ったら丁度先生が来る時間だよ」
「そう上手くいくかしら」
「いくよ。まだ三分あるんだよ、授業がはじまるまで」
「三分しかないって考えないの?」
「全然。三分もあるじゃないか。パレアナとかだったらそう言うよ」
「彼女はまた別よ。とにかく間に合うのね」
「間に合うよ。じゃあ」
やっと立ち上がった。背筋を伸ばしてからまたアロアに言った。
「教室にね。戻ろう」
「そうね。何かこうして話しているだけでもかなり時間が経ってるんだけれど」
「ははは、気にしない気にしない」
ネロはまたアロアを宥めてきた。
「ほら、今から行けばいいから」
「わかったわ。じゃあネロを信じるからね」
「有り難う」
「別に御礼はいいけれど」
ちらりとネロの顔を見て述べる。
「ギルバートが五月蝿いわよ」
「彼がああなのはいつものことだし」
「まあね。五月蝿くなかったらギルバートじゃないっていうかあれは五月蝿いっていうより」
「暑苦しい」
「そうなのよ。あの暑苦しさ」
「学級委員らしいかな」
「そもそも纏まりの悪いクラスだしね」
そういうクラスなのである。個性がぶつかり合って一筋縄ではいかない。かくいうネロもアロアも結構個性の強い面々であったりする。
「そんなクラスにはああした学級委員が必要かも」
「そう言われれば」
「あれで結構鈍感だしね」
「鈍感!?ギルバートが!?」
「あれっ、気がつかなかったの?」
「ええ、そうなのかしら」
アロアは眼鏡の奥の丸い目をさらに丸くさせてキョトンとしていた。
「中々鋭いこといつも言うじゃない」
「そういう鋭さじゃないんだよ、それがね」
ネロは笑って言う。
「自分のことには気付いていないから」
「そうなのかしら?」
「そうだよ。まあ見ていればわかるよ」
「ギルバートを?」
「いや、彼だけじゃないかも知れないよ」
ネロはにこにこと笑っていた。
「案外近くを見ればわかるかもね」
「ううん」
だがアロアにはわからなかった。
「近く・・・・・・なの?」
「そう、彼の近く」
「何か余計にわからなくなってきたけれど」
「そうかな。ちょっと見ればわかるよ」
「ちょっとでいいの?」
「そう、ほんのちょっとで」
「ううん」
言われれば言われる程わからなくなってきた。
「何なのかしら」
「教室に入ればわかるよ」
「教室に。何か余計に」
「早ければ次の休み時間にね」
「何かわからないけれど次の休み時間ね」
「そう、ギルバートの周りを見てみて」
「わかったわ、それじゃあ」
「見てみてのお楽しみだからね」
「お楽しみって」
「驚かないようにね」
「!?」
「何があってもね」
「ねえネロ」
何か妙な感じがしてきた。
「何が言いたいの?」
「だから何があっても驚かないでって。ギルバートのことでね」
「何かよくわからないけれどわかったわ」
「じゃあ頼んだよ」
「ううん」
「おい君達」
「あっ」
教室に近付いたところで次の授業の先生とバッタリ会った。
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