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八条学園騒動記

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第十一話 放浪者その一


                     放浪者
「あれ、彼はいないのか」
 ギルバートが誰かを探していた。
「彼って?」
「彼っていえばわかるだろう」
「わからないわよ」
 それにアンが突っ込みを入れる。
「それだけでわかったら苦労しないわよ」
「若しかしてネロのこと?」
 ジュリアが勘を利かして尋ねる。
「今クラスに見えないけれど」
「そう、彼だ」
 ギルバートがそれに答えて言う。
「彼を見なかったか?」
「何か用があるの?」
「いや、日直のことでな」
 アンに答える。
「彼が今日日直だから。話しておきたいことがあって」
「またどっかに行ってるんじゃないの?」
 ジュリアが言った。
「よくわからないけれど」
「わからないで済む問題じゃないだろう」
「けれどいないから仕方ないじゃない」
「アン君、どうして君はいつも僕の揚げ足を」
「五月蝿いわね、大体彼だけでわかったらエスパーよ」
「ジュリア君はわかったぞ」
「ジュリアは特別よ、勘がいいんだから」
「全く。どうしてこう君は」
「じゃあ私が探して来るわ」
「アロア君」
 黒い髪を三つ編みにしたソバカスの少女が席から立ち上がった。丸い眼鏡を黒の瞳にかけている。美人ではないが可愛らしい感じの少女だ。服も何処か真面目で女の子らしい。膝が隠れる丈の黄色いスカートにオレンジのカッターである。色こそ派手だが着こなしは真面目だった。
「ネロの居場所なら大体想像がつくから」
「そうなのか」
「それでいいわよね」
「うん、君が探してくれるというのなら」
 ギルバートも納得した。
「任せる。頼むぞ」
「ええ。それじゃあ」
 アロアは教室を出る。その時彰子が声をかけてきた。
「アロアちゃん、何処か行くの?」
「ネロを探しにね」
 アロアは答えた。
「あっ、それだったら私知ってるよ」
「本当!?」
「うん。中庭にいたよ。そこで寝転がってたから」
「そう。じゃあそっちね」
「何か用なの?」
「日直の用事でだけれど」
「それなら私がもうやったけれど」
「あっ、そうなのか小式君」
「うん、今日の女の子の日直は私だから」
 彰子は答えた。
「はい、日誌」
「う、うん」
 彰子から日誌を受け取って答える。
「早いんだな、また」
「時間があったからね」
「ってまだ三時間目もまだだけれど」
「早いっていうかねえ」
 アンもジュリアも彰子のこれには少し驚いていた。
「ぽや〜〜〜〜っとしていて」
「案外やるのかも」
「それでネロ君はどうするの?」
「まあもうすぐ授業だしな」
 どちらにしろ呼ぶということには変わりがなかった。
「アロア君にはどのみち呼んでもらおう」
「ふうん」
「結構御都合主義ね、本当に」
「そうよね。杓子定規なことばかり言ってるけれど」
「何か君達は僕に不満があるのか?」
「なければ言わないわよ」
「それに同じ」
「全く。悲しいことだ」
 二人のその言葉に首を横に振って嘆いてみせる。
「クラス委員としてこれでも必死にやっているのにな」
「それは認めるわよ。けれど」
 やはりアンは口が減らない。
「ズレてるのよ」
「うっ・・・・・・」
「だから駄目なのよ、ギルバートは」
「きついな、相変わらず」
「言われるだけましと思いなさい」
 アンは少し調子に乗ってしまった。口が滑っているがまだ気付かない。
「何とも思っていない相手には・・・・・・あっ」
 それに自分でも気付いて慌てて口を両手で塞ぐ。
「どうしたんだ?」
「な、何でもないわ」
 顔を真っ赤にしてギルバートに返す。
「べ、別にね。今の言葉は」
「!?」
 だがギルバートには何のことはわからない。
「一体どうしたんだ、そんなに慌てて」
「いえ、これはその」
 何か言う度にボロが出て来るように思えた。ギルバートは全くそれに気付いていない。
「風邪か?顔が真っ赤だが」
「えっ、風邪でもないけれど」
「だったら何なんだ?急に顔が赤くなて」
「そ、それは」
「ア、アン急にアイディアを思いついたのよ」
 ジュリアが咄嗟に機転を利かしてギルバートに言う。
「漫画の?」
「そうそう、それで興奮してね」
「そうなるのか?」
 どうも不自然な気がして首を傾げさせた。
 
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