八条学園騒動記
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第八十二話 ポーランド料理その三
「昔のことだけれどね」
「昔のなのね」
「そうだよ。だけれどまだ残ってるってわけさ」
にこりと笑って皆に述べる。述べながらお茶を出してきた。
「じゃあまずは紅茶でも」
「紅茶なんだ」
「コーヒーもあるよ」
そちらも出す。
「紅茶はロシアでコーヒーはドイツとオーストリア」
「成程」
ここでもこの三国が出ていた。
「まだ影響は残ってるんだよね」
「ロシアはわかるけれどね」
連合の中の一国だからこの国に関しては皆も知っている。
「けれどオーストリアとドイツかあ」
「確かあれだったわよね」
ペリーヌがここで言う。
「どっちもゲルマン系の国なのよね」
「そうだよ」
ポルフィはにこりと笑って彼女の言葉に答えた。
「それで我が国は」
「スラブよね」
「リトアニアと同じくね」
ここでリトアニアの名前が出るのがポーランド人だった。長い間連合国家であったし分かれてからも交流は今に至るまで深い。言うならば兄弟に近い関係なのだ。
「リトアニアにも行ったことがあるけれどね」
「どう?」
「いや、いい国だよ」
まるで自分の国を語るような顔と声になっていた。
「落ち着ける国だよ。まるでポーランドにいるみたいなね」
「ポーランドに」
「リトアニアの人もこう言ってくれるんだよ」
交流は深いので互いに行き来することも多いのである。
「ポーランドはいい国だって。まるでリトアニアにいるみたいだってね」
「そうなの」
「正直連合のポーランドに生まれてよかったよ」
こうまで言うのだった。
「リトアニアもあるし皆もいるしね」
「皆って?」
「だから連合の皆」
これまた随分と範囲の広い話だった。それもかなりの広さだ。
「いてくれているから楽しいじゃない」
「そうなんだ」
「戦争もないしね」
国家同士のいがみ合いは絶えないが戦争はない。そこまでして何かを取り合わなくとも多くのものが中にあるのが連合だからである。
「だから凄く好きなんだ」
「ってあんた連合生まれじゃないの?」
ペリーヌが彼に突っ込みを入れる。
「何でそこで戦争が出るのよ」
「だってさ。ポーランドの歴史って」
ここで自分の国の歴史を出す。
「しょっちゅうどっかの国に攻められたり戦ったりだからね」
「ああ、御免なさい」
「それはね」
ロシア人のアンネットとモンゴル人のナンがバツの悪い顔をする。そのポーランドに攻め込んだことのある二国である。どちらもかなり壮絶なことをした。
「まあ何ていうか」
「あれだから」
「別にそれはいいよ」
ポルフィもそれは笑って済ます。
「だって大昔のことだしね。ただそうした歴史を見てみると」
「平和でよかったなあ、ってことね」
「美味しいものも食べられるしね」
話はそちらに移った。
「そういうの考えていったらやっぱり平和が一番さ」
「まあ今何かエウロパと緊張が走っている感じだけれどね」
丁度今連合軍ができてエウロパのスパイ事件が発覚した頃だ。
「それでも連合では戦争にならないか」
「そうよね。ただ」
ここで皆は蝉玉とスターリングに目をやった。
「あんた達のお爺ちゃんは大変でしょうね」
「そこはどうなの?」
「御免、よくわからないんだ」
だがスターリングはこう皆に答えた。
「最近お爺ちゃんに会っていないしね」
「私も」
蝉玉もそれは同じであった。日本にいればそれも当然のことであった。
「そもそも私のお父さんもお母さんも軍とは全然関係ないわよ」
「僕の方もだよ。一応お爺ちゃんが軍人なのはわかっているけれどね」
「そうなんだ」
「そうだよ。それに家だといつも私服だし」
考えてみればこれは至極当然のことであった。軍服で家でくつろぐ人間なぞいはしない。警官が制服を着るのは警察署だけであるのと理由は全く同じである。
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