| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園騒動記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八十話 ラーメンの少年その一


                 ラーメンの少年
 サーフィンを終えて香港飯店に入った三人。早速カウンターに座るとその地獄極楽ラーメンを注文するのであった。
「三つだね」
「はい、三つです」
 七海が店の親父に答える。店の中は完全に中華料理店になっている。餃子やレバニラ炒めの匂いが香ばしい。それだけでかなりの食欲をそそる。
 三人はその中でカウンターに三人並んで座っている。注文の後でラーメンが来るのを待ちながらあれこれと話をしている。話の内容はラーメンに関してだ。
「もうお腹ぺこぺこ」
 最初に口を開いたのはコゼットであった。
「正直幾らでも入りそうよ」
「そうよね」
 それにパレアナが応えて頷く。
「身体動かしてからはね。やっぱり」
「お腹空くわよね」
「そういうこと。だからこのラーメンにしたのよ」
 コゼットは今度は七海に対して応えた。
「お腹空いてる時はやっぱり」
「ここの地獄極楽ラーメンかマックスターのハンバーガー盛り合わせか満腹庵のスペシャルカツ丼かアカラナータのアグニカレーか」
 パレアナが今言ったのはどれも八条学園内の料理店でそれぞれそこの名物である量がたっぷりのメニューだ。
「そういうのに限るわ」
「そういうことよね。やっぱり量がないと」
 七海が笑顔になる。三人は男の子みたいな話をする。
「どうしようもないわね」
「そういうこと。味も大事だけれど」
 なお八条学園の生徒達は大食で知られている。連合の者達自体がかなりの大食漢揃いでマウリアやサハラからは知られているのであるが。しかしそれでも今のパレアナの言葉はやはり女の子としてはかなり問題のある発言ではあった。本人に自覚はないにしろ。
「やっぱり量よね」
「私この前ピザ五枚食べちゃったわよ」
「それって普通じゃない」
 コゼットが七海に突っ込みを入れる。
「地獄極楽ラーメンなんかもっとあるし」
「そうか」
「そうよ。さあ、来たわよ」
「へい、お待ち」
 丁度いいタイミングで巨大な丼が三つ来た。丼からは湯気とトリガラスープの香りが漂っている。それだけで食欲をそそる。
 麺の上にはナルトとシャーチュー、ゆで卵、刻み葱、そしてもやしがある。透明感のあるスープの中に縮れた麺が満たされている。見ただけで食欲をそそる姿だ。
「何かまず最初にこれを見るのが」
「いいのよねえ」
 パレアナとコゼットはうっとりとした顔になっている。既にその手に胡椒と大蒜を用意している。この二つ、特に胡椒はラーメンには欠かせない。
「さあ、それじゃあ」
「食べましょう」
「残したらおしまいだしね」
 なお三人共ラーメン十杯分の金は持っていない。七海が三杯分持っているだけだ。つまり食べきれない時のことは考えていないのだ。
 箸をラーメンにつける。それからは電光石火であった。
 瞬く間に三つの丼から麺も具もなくなっていく。スープもかなり飲まれる。実はスープまでは食べたうちには入っていないのであるが。
 それでも丼の中にあるものは消えていく。十分後にはもう丼の中は殆どなくなっていた。それも三つ共である。見事ですらある。
 三人は見事に地獄極楽ラーメンを食べ終えた。満足した顔でほぼ同時に丼から顔をあげる。だがそこで三人は驚くべきものを見るのであった。
「おかわり」
「えっ!?」
 まずは店の親父の驚いた声が聞こえてきた。
「今何て」
「だから。おかわり頂戴」
 明るい少年の声も聞こえてきた。
「このラーメン美味しいからさ」
「美味しいっていっても」
 親父の驚いた声は続く。
「今一杯食べたじゃないか」
「けれどもう一杯」
 それでも少年は言うのである。その明るい声で。
「欲しいんだけれど。駄目かな」
「いや、駄目って言われると」
 親父も困ってしまうようである。それが言葉にも出ている。
「それはね。どうにも」
「じゃあいいじゃない。もう一杯」
「何か凄い子がいるわね」
「そうみたいね」
 三人はラーメンから目を離して言葉がする方に顔を向けていた。そうして話をする。
「地獄極楽ラーメンをおかわりって」
「普通はないわよね」
「当然よ」
 七海がその顔を顰めさせて言う。
「このラーメンのキャッチフレーズはこれを食べられたら豪傑よ」
「そうだったわね」
「そういえば」
 あまりセンスのないキャッチフレーズの言葉であるがその通りなのだから仕方がない。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧