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八条学園騒動記

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第七十六話 二人への頼みごとその一


                 二人への頼みごと
 パレアナは女子バスケ部に所属している。部では主力選手となっている。
 その為か運動神経はかなりいい。学校の授業でもいつもいい動きを見せている。
「相変わらずいい動き見せるわね」
「有り難う」
 今日はソフトボールであった。ショートの守備で見事なダイレクトキャッチをしてみせた彼女に対してセカンドを守っていたコゼットが声をかけるのであった。
「そういうあんたもね」
「私は野球とかが得意だからね」
 コゼットも不敵に笑って彼女に応えてきた。
「だから。それだけよ」
「あら、そうかしら」
 だがパレアナはそんな彼女に笑って言葉を返すのであった。
「他のもかなり得意に見えるけれど」
「買い被りよ」
 コゼットは不敵な笑みのまま言葉を返す。見れば二人共半ズボンの体操服が実によく似合っている。それを見れば如何にも抜群の運動神経を持っているのがわかる。
「私はそれ程じゃないわ」
「その割には」
 パレアナはまだ言うのだった。
「さっきの走塁はよかったわよ」
「そうだったかしら」
「二塁から一気にホームを突いたわよね」
 浅いセンター前ヒットからだ。素早いベースランニングによりそれを果たしたのだ。パレアナが彼女に言っているのはそのプレイのことなのだ。
「あれはとてもできないわよ」
「まぐれよ」
 しかしコゼットはその態度を変えない。
「たまたまだから」
「それじゃあそのたまたまをまた見たいのだけれど」
 それに応えてこう言ってみせた。
「それでは駄目かしら」
「そうね」
 また不敵な笑みを見せる。
「何時出るかわからないけれどそれでもいいかしら」
「大いに結構よ」
 パレアナも笑ってそれに応える。
「そのたまたまが見たいから」
「また言うわね」
 コゼットもその言葉にまんざらでもいないようであった。笑みがさらに不敵なものになってきているのがそれの明らかな証拠であった。
「けれど。悪い気はしないわ」
「そうでしょうね。こっちもそれを狙ってるから」
 パレアナもパレアナでその笑みをさらに深いものにさせていた。以心伝心に近いものがもう二人の中にはちゃんとあるようである。
「あえて言っているのよ」
「乗るわ」
 コゼットはそう言葉を返した。
「その誘い。それで何をするの?」
「話は七海から聞いて」
「七海から?」
 てっきりパレアナ本人から聞くと思っていたのでこれは意外であった。思わず目を丸くさせてまた彼女に問い返すのであった。
「どうしてまた七海なのよ」
 そしてまたパレアナに対して言った。
「確か彼女の水泳部って部員も充分だしそこそこ強いし」
「それでもよ」
 パレアナはここでそれでも、と言ってきた。
「何かあるらしいから。とりあえず彼女から話を聞きましょう」
「よくわからないけれどわかったわ」
 そう答えた。
「乗りかかった船だし」
「ええ。それじゃあ」
 ここで彼女達の守備が終わった。
「またベンチで話すわね」
「ええ。それにしても」
 ふとプレイに心がいった。
「今ボールが来なくてよかったわね」
「それはね」
 パレアナも同感であった。幾ら何でもお喋りをしている間にボールが来ては洒落にならない。二人はそのことにまずは感謝するのであった。
「ラッキーだったわね」
「そのラッキーが七海との話でも続くことを祈るわ」
「まあ悪いようにはならないわよ」
 パレアナも一応はこう答える。
「多分だけれどね」
「多分なのね」
「私もどんな話なのかわからないのよ」
 思えば結構無責任な話ではある。何しろ話を持って来た人間が詳しいことを知らないのだから。だが本当に知らないのだからこれはどうしようもないことであった。 
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