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八条学園騒動記

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第七十四話 クレープ屋その七


「あんた達かなりアジア系の血が濃いね」
「そうでしょうか」
「私達は別にそうは」
 二人にはあまり自覚がない。二人には、である。
「いや、結構強いと思うよ。髪の色も目の色もね」
「はあ」
「それに肌の色も」
 連合では混血がかなり進んでいて純粋に白人や黒人や黄色人といったものは殆どないと言っていい。アボリジニーの血も入っている。それぞれの特徴が入り混じっているのである。これは彰子達の周りや八条学園全体でもそれは同じである。日本でもそうなのだ。
「かなり濃いね」
「ですか」
「アジアンビューティーってやつかね」
 連合ではかなり死語になっている言葉である。
「いいねえ、そういう奇麗さも」
「そうなんですか」
「ほら、そっちの学校の理事長さんも」
 言うまでもなく連合中央政府国防長官でもある八条義統である。彼もまたその整った気品のある美貌で広く知られている人物である。
「アジア系の奇麗さってやつだね」
「うちの理事長さんも」
「そう言えますか」
 二人もこれにはふと気付いた感じであった。実は二人の中では八条はハンサムといった感じで奇麗という印象ではないのである。
「だよね。じゃあサービスで」
「サービスで?」
「クレープ大きめにしておいてあげるよ」
 にこりと笑って二人に言ってきた。
「美人さん二人にね」
「有り難うございます」
「何かそこまでして頂いて」
「いいさいいさ」
 親父さんは二人の言葉に笑って応える。
「女の子にサービスするのは俺の趣味だしね」
「はあ」
「あと男前にサービスするのもな」
 どうやら中々公平な親父さんのようである。ここで女の子対してだけだとかなり悪い印象を受けかねないのだが男の子もとなるとそうにはならない。
「趣味なのさ」
「そうですか」
「さあ、それじゃあ」
 クレープが出て来た。
「特別サービスで大きくしたチョコバナナクレープだよ」
「あっ、このクレープって」
 見ればチョコレートもバナナも青である。彰子も明香もこれまた驚くことになった。
「全部青いんですね」
「そう、これがこのクレープの秘密なのさ」
 そういうことであった。
「全部青になってりうんだよ。マンチキンから輸入しているからさ」
「マンチキンから、ですか」
「さあ、そのマンチキンクレープ」
 親父さんが名付けるのはこうであった。
「是非味わってくれよ。いいな」
「わかりました」
「それじゃあ」
 二人は親父さんに応えてからその青いクレープを食べはじめる。一口食べ終えたところで親父さんはまた二人に対して問うてきたのであった。
「どうだい?」
「はい」
「これって」
 二人はまた親父さんの言葉に応える。
「凄く。美味しいです」
「普通の黄色いクレープとはまた違って」
「違うのは色だけじゃないってね」
 また得意げな顔で二人に告げるのだった。
「これでわかったかい」
「はい、とても」
「こんなクレープはじめてです」
 二人はうっとりとさえしていた。甘いお菓子を食べる時の女の子の顔程美しいものはないがそれがはっきりとわかる顔になっていた。 
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