八条学園騒動記
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第七十三話 セドリックの許婚その三
「だからだよ。そう言ってくれると嬉しいよ」
「よかったわ」
彼女の声が笑った。
「私なんかを皆さんに紹介してくれてそのうえそこまで喜んでくれるなんて」
「だってね」
セドリックはまた言う。
「君があんまり奇麗だから」
「嘘よ」
「嘘じゃないさ」
ここでものろけが入っていた。
「僕は嘘なんかつかないよ。それは君が一番よく知っていることじゃない」
「それはそうだけれど」
「だから。今度の土曜楽しみにしていて」
「私もなのね」
「そう、君も」
はっきりと彼女に言う。
「うんと奇麗にしてね。いや」
「いや?」
「君はそのままでもう充分に奇麗だけれど」
「そんな」
「本当だよ」
嘘はついていないがのろけが凄いのは確かであった。やはり普段は天然で冷酷な突込みを入れる彼にしては珍しい様子になってしまっていた。
「君と許婚でどれだけ嬉しいか」
「私も」
そして彼女ものろけていた。
「貴方と一緒になれるのね」
「その歳になればね」
セドリックは言う。
「なれるよ。もう決まっていることだから」
「お父さんとお母さんに感謝するわ」
「僕も」
そうして今度はそれぞれの両親に感謝するのだった。
「こんなことを決めてくれて」
「一緒の学校まで行かせてくれてね」
「そうよね。この八条学園に」
「いい学校だよね」
二人は心からそう思っていた。八条学園は極めて過ごし易い学校として評判なのだ。確かに様々な騒動が起こるがそれもまた楽しいものなのだ。生徒達にとっても教師達にとっても。
「この学校生活がずっと続けばって思うのよ」
「楽しいから?」
「ええ」
セドリックの言葉に応える。
「その通りよ」
「僕もだよ」
そしてそれはセドリックも同じであった。
「ずっとね。この学校生活が続けばなって」
「思うのね」
「特に今のクラスはね」
彼もまた二年S1組の一員である。そのことが嬉しいのだ。
「ずっと一緒に皆といたいよ。ただ」
「ただ。どうしたの?」
「それだと何時までも君と一緒にいられないよね」
彼女の方を見て言う。
「だよね。ずっとだと」
「そうね」
彼女もセドリックの今の言葉を受けてくすりと笑った。
「そうなるわよね、ずっとだとね」
「うん、だからね」
そうしてまた言うセドリックだった。
「時間を過ごすのも一緒でいようよ」
「わかったわ」
にこりと笑ってセドリックの言葉に頷くのであった。
「じゃあ今度の土曜ね」
「わかったよ。皆に紹介するよ」
「御願い」
そう六人に対して頷く。二人も土曜に対して心積もりをしていた。彼等もかなり真剣な顔になっていた。だが二人は楽しみの中にあった。
皆は違っていた。どう違うかというと。
「やっぱり小学生かしら」
「中学生じゃねえの?」
その許婚が何が何なのかわからなかったのだ。
「大学生はないわよね」
「どうかな」
彼等は許婚の年齢がわからなかったのだ。それを今でも話をしていた。
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