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八条学園騒動記

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第七十話 喫茶店においてその三


「何かあれですよね」
 まず口を開いたのはティンであった。
「クレープもそうですけれど甘いものばかり食べていますよね」
「そうだね」
 カムイも笑顔で彼女に応える。
「太るかな」
「これ位じゃ大丈夫ですよ」
 随分甘い会話をしていた。あらゆる意味で。
「今日だけじゃ全然ですよ」
「そうなんだ。だったらいいけれどね」
「はい」
 そんな何気なくだがムードはもう充分だった。皆上からそれを覗いているのであった。
「いい感じね」
「そうね」
 ウェンディはペリーヌの言葉に応えた。
「上手くいきそうね」
「ネロとアロアの話じゃ並木道にはもう出来上がっていたみたいじゃない」
 ペリーヌはここで並木道の話を出してきた。
「だったら今はもう」
「駄目よ、まだ安心できないわよ」
 ウェンディはそうペリーヌに対して言う。警戒する声であった。
「まだね。安心はできないから」
「そんなにかしら」
「そうよ。ハプニングってのはいつも思わぬところからやって来るじゃない」
 このクラスにいるからこその言葉であった。
「今だって。あいつがいきなり何しでかすか」
「カムイね」
「あいつといったらあいつしかないわ」
 いささか銀河語になっていなかったがそれでも説得力のある言葉であった。そこには言語を越えた何かがあった。言うならばウェンディの心が。
「そうでしょ。カムイよ」
「何しでかすかわからないっていうのね」
「あいつ、本当に大丈夫よね」
 ウェンディはさらに下に身を乗り出して言う。
「ここで馬鹿やったら何もかもぶち壊しなんだから」
 彼女はそれを心配していた。だがその心配をよそにカムイはかなり能天気な顔をしていた。そうしてその能天気な顔でウェイトレスの女の子にお菓子と飲み物を注文するのであった。
「何になさいますか?」
「ホットケーキ二つ」
 奇しくも皆が二階で食べていたものだ。
「それとロシアンティー御願いします」
「わかりました」
 ウェイトレスの女の子はカムイの注文ににこりと笑う。そのにこりとした笑顔を彼が見た瞬間に。皆、とりわけウェンディは危惧を覚えたのである。
「あいつっ」
「まさかっ」
 一瞬だが鼻の下が伸びたように見えた。ここでそれは絶対に駄目だ。ウェンディなぞは無意識のうちに声をあげそうになりピーターにその口を押さえられる程であった。
「ここでそれは駄目だろっ」
「あの馬鹿っ」
 皆は声にならない声で言う。だがそれは彼等の気のせいでただの杞憂であった。
「それではそれで」
「はい、御願いします」
 カムイは紳士的に言葉を返した。表情を変えずに。それは目の錯覚であったのだ。少なくともそれで終わるような話であった。
 カムイは注文を終えるとティンに顔を戻す。そうして彼女に言うのだった。
「ここのお店ってパンケーキが美味しいんだ」
「よく行かれるのですね」
「うん、時々ね」
 いい雰囲気でにこりと笑って答える。カムイには少し似合わない様子で。
「そうだよ、時々ここに来るんだ」
「そうなんですか。いいお店ですよね」
「そうだよね、結構気に入ってるんだ」
 カムイは顔を回さないがティンは回していた。それでウェンディ達にも気付いたのだがあえてそれは言葉には出さないのであった。最初からわかっていたこともあるが。
「ここのお店がね。内装もいいし」
「趣味がいいですよね」
「そうだろ?うちのクラスの皆も時々ここに来ているよ」
「今はおられませんね」
「そうだね」
 彼だけが気付いていないのは内緒であった。
「けれどあれですよね」
「何かな」
 ここでティンは言うのだった。
「今さっき赤いコーヒーと苺のケーキも食べて」
「あっ、そうだった」
 言われてやっとそれを思い出した。この店に入ってすぐにその二つを注文していたのだ。そうして今はパンケーキとロシアンティーである。かなり食べている。 
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