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八条学園騒動記

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第六十九話 並木道の二人その八


「大丈夫って?」
「だってカムイそういうのには鈍感だから」
 クレープ屋の前の話でそれがよくわかったのだ。
「絶対に気付かないよ。ティンちゃんは違うけれど」
「彼女はわかっても別にいいのよ」
 ウェンディはそれは構わなかった。元々彼女を抱き込んでいるというか首謀者の一人である話である。それで彼女が何を知っても構わなかったのだ。
「全然構わないわ」
「そうだよね。だからさ」
「ええ、安心していいのね」
「うん、二階貸切だったよね」
「そうよ」
 その問いにも答える。
「全然大丈夫じゃない。後は」
「ことの成り行きを見守るだけね」
「そういうことでいいと思うよ。それじゃあ」
「あっ、待って」
 ここでピーターが電話にまた出て来た。
「何かな」
「そこの並木道だよね」
「そうだけれど」
「だったらさ、お奨めの店があるんだ」
 彼は楽しげに電話の向こうから言ってきた。
「お奨めって?」
「そこにクレープ屋があるよね」
「ああ、あそこね」
 アロアが笑いながら応える。
「あの店ね」
「そこ凄く美味しいから」
 そう二人に対して述べてきた。
「是非行ってみるといいよ。最初は驚くけれどね」
「青いクレープに?」
「あっ、もう食べたんだ」
 それを聞いた電話の向こうのピーターが笑ったのがわかる。
「早いね」
「美味しかったわよ」
 アロアは笑いながら述べる。
「青い蕎麦粉を使ったクレープ、病みつきになりそうよ」
「そうなんだよ、あそこはね」
「凄くいいわよね」
 またウェンディの声が聞こえてきた。彼女も知っているようである。
「あの青いのが馴れるとね。余計にいいのよ」
「食べたんだ、ウェンディも」
「もちのろんよ」
 そうネロに言葉を返す。
「私だって最初は驚いたけれどね。一度食べたらもう」
「僕はティンに勧められたんだ」
 ピーターはこう述べる。
「美味しいクレープのお店があるから行ってみたらいいって。それでね」
「そうだったんだ」
「もう知ってるのならいいよ」
 ピーターはここまで話したうえでこう言うのだった。
「じゃあ。二人で楽しんで」
「ええ。それじゃあネロ」
 アロアはあらためてその明るい笑顔をネロに向けてきた。
「これから何処行くの?」
「そうだね」
 ネロはそれに応えて述べる。
「この並木道を歩くのもいいかな」
「ここを?」
「だってさ。ほら」
 ここでその並木道を指し示す。黄金色の落葉と少し寒くなっている木々があった。道はその落葉で黄金色になりまるで絨毯が敷かれているようである。彼が指し示したのはそういったものであった。
「ここを見るだけでも悪くないじゃない」
「そうね」
 アロアもその風景を見て頷いた。
「確かにね。ここを二人で歩くのも」
「パトラッシュもいるし」
 ここでパトラッシュを話に出す。ずっとネロの足元にいたのだがカムイはその存在に気付かなかったのだ。あまりにも迂闊であるがそれだけティンに夢中になっているということであった。
「それでどうかな」
「ええ、いいわよ」
 アロアはネロの申し出を笑顔で受けるのだった。そうして。
「それじゃあネロ」
「すぐに歩きだす?」
「それはいいけれどその前に」
 ここで言うのだった。
「あのクレープ買いましょう」
「クレープを?」
「ええ」
 そう彼に提案してきた。
「いいわよね。やっぱりあれ美味しいから」
「本当に病みつきになったんだ」
「太るのが怖いけれどね」
 ここでは少し苦笑いになる。
「それでもね。美味しいものには勝てなくて」
「わかったよ。それじゃあ」
 ネロもその言葉を受ける。ついつい笑顔になっていた。
「まずはね。その店で買って」
「二人並んで食べながら」
 アロアは二人のそんな姿を見てまたうっとりとする。ここでは彼女が恋する乙女になっていた。アロアもアロアで案外純情であるようだ。
「それでいいわよね」
「いいよ、それじゃあ」
「ええ、御願いね」
 こうして二人はまたあのクレープ屋に入る。そうしてクレープを頼んで二人並んでそれを食べながら並木道をデートするのだった。二人にとっても実に心地よいデートになっていた。


並木道の二人   完


                   2007・12・2 
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