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八条学園騒動記

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第六十九話 並木道の二人その三


「パトラッシュは僕にとって親友だしね」
「ずっと一緒だったのね」
「うん」
 屈託のない笑顔でアロアに答える。
「それこそずっとね。僕が小学生の頃から」
「じゃあパトラッシュって結構年取ってるの?」
「そうだよ。それも結構」
 この時代犬の平均寿命は大体二十年を越える。猫もそんなところである。医療技術の革新は犬や猫の寿命も延ばしているのだ。
「意外かな」
「犬の歳はわからないから」
 アロアはそう答えて少し首を傾げさせた。
「それでももっと若いかと思っていたわ」
「そうなの」
「ええ。それよりもね」
 アロアの表情がにこりとしたものになった。
「私達も。いいわよね」
「うん、いいよ」
 ネロの笑顔がさらに明るくなった。
「それでね。クレープかあ」
「嫌いじゃないわよね」
 アロアは一応それを確かめた。連合においてもクレープはかなり人気のある菓子である。彼女も大好物である。それをネロに確かめてきたのだ。
「うん、好きだよ」
「だったらいいわ」
 ネロのその言葉を聞いて微笑む。
「それじゃあ。何がいいかしら」
「苺と生クリームかな」
 ネロの好みはそれであった。
「アロアはどうするの?」
「私はバナナとチョコレートね」
 これまた話を聞くだけで涎が出そうな組み合わせであった。どちらもクレープとしては絶品の味を誇る組み合わせである。
「それでいいわ」
「わかったよ。じゃあ食べよう」
「ええ」
 こうして二人は屋台の前に行きクレープを注文した。二人はクレープの生地の色を見てまずは驚いた。
「えっ!?」
「青い!?」
 何とクレープの生地が青いのだ。見れば生クリームとバナナまでそうである。鮮やかなまでのコバルトブルーが店の中で映えていたのだ。
「おじさん、これって」
「どうしたの!?」
「ははは、これがうちの店のクレープなんだよ」
 おじさんは顔を崩して笑って二人に言ってきたのであった。
「これがね」
「どういうことなの、これって」
「ねえ」
 ネロもアロアも顔を見合わせる。流石に青いクレープは想像していなかったのだ。普通は黄色いものである。これは常識であったからだ。
「マンチキンのを使っているんだ」
「マンチキンっていうと」
「何処かしら」
 二人は記憶を手繰る。一体何処のことかと必死に手繰る。しかしどうしてもわからなかった。
「あの、それって」
 アロアが困惑した顔でおじさんに尋ねる。
「何処の星系なんでしょうか」
「オズ王国さ」
 おじさんは笑顔で二人に告げてきた。
「そこにあるものは何でも青くてね。それでクレープも青なんだよ」
「そうだったんですか」
「味は絶品だよ」
 おじさんはまた笑顔で言う。
「何せこれは本格的に蕎麦粉を使ったものだからな」
「蕎麦をですか」
「ああ、本当はこうやるんだ」
 おじさんの言葉は本当のことである。クレープは普通は小麦粉だが本来は蕎麦を使ってするものである。蕎麦もまた菓子になるのは麦や米と同じである。 
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