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八条学園騒動記

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第六十三話 ピーターの妹その四


「けれどそればかりしていたら飽きない?」
「飽きるですか」
「ええ。そこはどうかしら」
 そう彼女に問うのだった。
「飽きていなければ別にいいけれど」
(おい)
 今の言葉にはアルフレドが耳元で突っ込みを入れた。
(そう言ったら終わりかねないだろ)
(大丈夫よ、兄さん)
 しかしビアンカはそう彼女に囁き返す。
(まあ見ていてって。これでいいんだから)
(そうなのか?)
 アルフレドにはとてもそうは見えない。
(大丈夫には思えないが)
(何言ってるのよ、アルフレド)
 だがその彼に今度は蝉玉が囁くのだった。
(今のはビアンカのファインプレーよ)
(まさか)
 彼女に言われてもまだ信じていない顔であった。
(とてもそうは)
(まあ見ているといいわ)
 蝉玉はくすりと笑って彼に告げた。
(ゆっくりとね)
(君までそこまで言うのなら)
 アルフレドも信じることにした。
(わかった。それでいいんだな)
(ええ。スターリングもよ)
 蝉玉は自分の彼氏にも言うのであった。
(それでいいわよね)
(うん、わかったよ)
 スターリングも今の言葉は大丈夫かと思ったがそれでもここは自分の彼女とビアンカを信じることにしたのであった。彼は結構蝉玉に頼りきりである。
(それじゃあ)
(これでよしと。じゃあビアンカ)
 蝉玉は彼氏からも言葉を受けてビアンカに囁く。
(いいわ。続けて)
(わかったわ)
 こうして話が再開される。その前でティンは興味深そうに目をパチクリとさせていた。
「あの、何のお話を」
「ああ、気にしないで」
 今度はかなり強引に誤魔化すビアンカであった。
「私達だけの話だから」
「そうなんですか。それじゃあ」
「それでね」
 彼女はまたティンに言う。
「こうしたものはお部屋に飾ってばかりよね」
「はい」
「飽きてもくるし。それでね」
 そうして述べる次の言葉は。
「他のこともしてみたらどうかしら」
「他のことですか」
「そうよ、他のこと」
 にこりと笑って彼女に告げる。
「それに飾りものやぬいぐるみもそのうち家に溢れ返っちゃうし」
「そうですよね」
 実はそれは彼女も心配していたことなのである。
「それでどうしようかしらって考えているんですけれど」
「誰かにプレゼントするといいわ」
 ビアンカは次にこう述べた。
「誰かにね。それに」
「それに?」
「それだとただ作るよりずっと楽しいわよね」
「あっ、そうですね」
 ティンはそれを言われてはたと気付いた顔になったのであった。
「そういえば」
「そうよ。じゃあ答えは出てるじゃない」
 また笑ってそのティンに告げる。
「誰かにあげていけばいいのよ」
「けれど相手が」
「いるわ」
 ビアンカの思い通りの展開であった。それが自分でもわかってついつい笑みがこぼれた。
「ちゃんとね。よかったら紹介してあげるわよ」
「あの。それって」
 ここでティンも遂に気付いたのだった。
「まさか。私に」
「ああ、わかったのね」
 相手がわかっても動じた様子はなかった。だがここでウェンディに選手交代となったのであった。見事なタイミングであった。
「ねえティンちゃん」
 ウェンディがにこにことしながら彼女に声をかける。
「はい」
「この前言っていたじゃない。彼氏が欲しいって」
「それは」
「だからよ。私達ね」
 優しく彼女に言う。
「貴方に彼氏を紹介しようと思って」
「そうだったんですか」
「そうだったんですかって」
 蝉玉はあっけらかんとしたティンの様子に思わず突っ込みを入れた。
「いいの、別に」
「ええ、まあ」
 ここまで来ると他人事のように思える。少なくとも彼女は自分のことではあっても深刻には考えてはいないのがはっきりとわかった。 
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