| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園騒動記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十五話 とっておきのデザートその三


「流石はマウリア人」
「確かに」
「これは」
 皆も同じだった。フックと同じように絶句すると共に納得していたのである。
「大したことではありません」
 ラメダスはこうも言う。
「普通にわかることです」
「いや、それはないから」
「わからないって」
 皆彼の言葉に突っ込みを入れる。
「カードに触れれば」
 皆の言葉をよそに答える。かなり強引に。
「カードが何を言っているのかがわかりますので」
「ううむ」
「何という」
 この言葉は予想通りだがそれでも唸らずにはいられないものがあった。
「そんなことまでわかるのか」
「マウリア恐るべし」
「けれどそれだったらよ」
 その彼の相手をしているフックが言う。
「はい」
「勝負にならねえよ」
「そうだよな」
「やっぱり。反則だよな」
「いえ」
 しかしラメダスはその言葉に穏やかな笑顔で返す。
「決してそうはならないのです。御安心下さい」
「何で?」
「相手も切り札がありますので」
「切り札!?」
「それは一体」
「マインドコントロールです」
 またしても常人の想像を遥かに越える言葉が出て来た。
「マインドコントロール!?」
「はい、相手の目を見ますね」
「あ、ああ」
「何か物凄いことになってるな」
 皆それはわかる。話が段々普通のポーカーから得体の知れない世界に入ってゆく。それを嫌になる程実感せざるを得なかったのだ。
「まあとにかく話して」
 アンは必死に自分の言いたい言葉を消してラメダスに言うのだった。
「それでどうするのか」
「はい。相手の心の目を遮断するのです」
 やはり話はとんでもないものであった。
「そうして相手を抑えてその間に相手の心を読んで」
「はあ」
「そうして」
「自分がカードを引きます。そうした勝負になるのです」 
 彼は穏やかな笑みをそのままにしていた。周りの人間がどういった顔になっているのかは全く見てはいない。至極当然であるかのように言うだけだった。
「それが私達のポーカーです」
「ありえねえ」
 話を全部聞いたフックの言葉がこれであった。
「何なんだよ、それ」
「だよなあ」
「それはやっぱり」
「おや?」
 話を聞いていたセーラが変わった言葉を聞いたように声をあげて首を傾げさせた。
「それは違うのではないですか?」
「違うって何が?」
 皆嫌な予感を感じながらそのセーラに尋ねる。
「違わないと思うけれど」
「俺達は」
「ですから。それがポーカーの勝負の仕方ではないかと」
「そうですよね」
 ラメダスも彼女に顔を向けて言う。彼等が何故皆がそう言うのかわからないといった顔をあからさまに見せていた。どうにもこうにも。
「それがどうして」
「皆さん不思議な顔をしておられるのか」
「まあわからなかったらいいさ」
 フックはそれ以上の言葉を打ち切ってそう述べた。
「もうさ」
「はあ」
「それにしても。あれね」
 パレアナはここで面白いことを考えたのであった。
「これは使えるわよ」
「使える!?」
「ええ」
 皆に悪魔的な笑みを見せた。あからさまに何かを企んでいる顔であった。
「ほら、ラビニアの奴ポーカー好きじゃない」
「あっ」
「そうね」
 クラス共通の敵の名前をここで出してきた。学園一の嫌われ者であるラビニアはこのクラスの面々と激しい対立関係にあるのだ、なおこのクラスは他にもミンチン先生とも対立関係にある。このミンチンという女も根性が腐っている。
「あいつからお金巻き上げてそれで私達が」
「いいわね、それ」
「あいつが困る顔が見られるし」
 皆パレアナの言葉に笑顔で応える。
「でしょ!?だからさあ」
「仕掛けると」
「セーラ、それでいいかしら」
 パレアナの提案を聞いたうえでセーラに顔を向けて問う。皆の考えはもう決まっていた。嫌いな人間に対して一泡吹かせるという行為が実に楽しいというのはこの時代でも同じだ。
「あいつからお金を巻き上げて」
「私達が剛勇」
「いえ、それは駄目です」
 しかしそれは当のセーラが首を横に振ることで消えてしまった。
「駄目なの!?」
「どうして」
「例え誰であってでもです」
 ここで彼女は言うのだった。
「そうしたことをするのは。人の道に反します」
「だから駄目なの」
「そうです」
 答えるセーラの声が強くなっていた。
「そういうことは。いいでしょうか」
「そう言うんなら」
「じゃあ」
「けれどあれよ」
 皆はセーラの言葉を受けた後でも言うのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧