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八条学園騒動記

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第五話 好きだから仕方ないその四


 そんな彰子をよそにデートをすることになったアンネットとルシエン。土曜日の十時前にはルシエンはパリっとした見栄えのいい青と緑の服に身を包んで駅前の噴水のところにいた。
「もうすぐかな」
 腕時計を見ながらそわそわしている。
「アンネットが来るのは」
「ねえお姉ちゃん」
 そんな彼を遠くから見る影が二つあった。
「何でここでルシエンさん見ているの?早く行けばいいのに」
「駆け引きよ」
 アンネットは小悪魔っぽい笑みを浮かべて弟のダニーに対して言う。
「駆け引き?」
「見ていればわかるわ」
 アンネットは笑ったままルシエンを見ていた。
「いい、ダニー」
「うん」
「男の子はね、女の子を待つものなのよ」
「ふうん」
「そして女の子は男の子を待たせるものなの」
「そうなの?」
「そうよ」
 これまた実に女の子に都合のいい言葉であった。それを平気で言うアンネットはかなりの駆け引きの達人であると言えた。少なくともルシエンは手玉にとっているようである。
「だからまだ少し先よ、出るのは」
「時間は遅れるのね」
「勿論」
 デートの時間には絶対に遅れてみせる、それがアンネットのやり方である。
「そうしないとね」
「何で?」
「それが駆け引きなのよ」
「よくわからないよお姉ちゃん」
 ダニーにはまだわからないことであった。少なくともこれはアンネット程この道を知っていなければわかることではない。そう、彼女程でないと。
「一体何なのか」
「まあ観てなさい」
 アンネットは不敵に笑って言う。
「ほら、服だってね」
「何度見ても凄いね、その服」
 淡い赤とピンクでフリルがあちこちについている。スカートはくるぶしまで隠れる程である。
「童話か何かの服にしか見えないのよ」
「これもそうなのよ」
「服も?」
「そういうこと、お洒落も大事なのよ」
「何でも大事なんだね」
「お化粧もね。それはわかるかしら」
「ううん」
 見ればいつもとは変わっているような変わっていないような。正直微妙なものであった。
「どう違うのかわからないよ」
「そこがいいのよ」
 アンネットはまた言う。
「微妙な感じが。ナチュラルメイクってやつよ」
「魔法の言葉?」
「本当の言葉よ」
「訳わからないんだけれど」
 これもまたダニーにとっては理解出来ないものであった。
「ぱっと見ただけじゃわからないお化粧なんて」
「鎧は見えてちゃ警戒されるでしょ?」
「まあね」
 これは映画や漫画でもわかる。
「それと同じなのよ」
「お化粧って鎧とかと同じ?」
 思わず首を傾げる。
「違うと思うけれど」
「武装なのよ、これも」
「ううん」
「香水もつけてるしね」
「それは僕にもわかるよ」
 アンネットの身体から甘い香りがする。それは薔薇の香りであった。
「いいね、これ」
「とにかくこっちは準備万端にしておかないと。女の子って大変なんだから」
「そして待たせるの」
「そうよ。さて、一応時間ね」
 だが出る気はない。
「まだまだ出ないから」
「わからないなあ、何か」
 ダニーはどうしても姉の行動が理解出来なかった。
 
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