八条学園騒動記
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第二百九十話 口裂け女その九
そのうえでだ。また話す彼等だった。
「ポマードのベッコウアメ」
「犬にお塩」
「それを全部用意してね」
「早速退治に出ようね」
四人は一致団結した。パトラッシュを入れて。
そのうえで口裂け女退治に向かおうとしていた。しかしだ。
新聞部の部室でだ。ナンシーが自分の後輩に言っていた。
「何か大変なことになったみたいよ」
「大変なことってまさか」
「ええ、口裂け女のことよ」
八条スポーツで一面を飾っただ。その妖怪のことだった。
「あの妖怪が人を殺したみたいなのよ」
「えっ、それ本当ですか!?」
「みたいよ。何か噂になってるわ」
「その噂って」
「本当みたいなのよ」
こうだ。ナンシーは記事を書きながら交際相手でもあるその後輩に話したのである。
「今校内で噂になってるのよ」
「そういえば何か」
「聞いたわよね、今日」
「そんな気がします」
「口裂け女が遂にやったのよ」
後輩に対して言う。
「子供が殺されてね」
「子供がですか」
「鎌で首を切断されたらしいわ」
そうなってしまったというのだ。
「もうね。ばっさりとね」
「うわ、鎌ですか」
「そう、鎌で」
ナンシーは深刻な顔で後輩に話していく。
「追いかけてね。それで」
「首を後ろからですか」
「切断して。首が跳んだらしいのよ」
「凶悪ですね」
強張った顔になってだ。後輩は言った。
「まさに妖怪ですね」
「ええ、そう思うわ」
「けれど。これって」
「記事にしないと駄目ね」
極めて深刻な顔でだ。ナンシーは後輩に答えた。
「さもなければね」
「学園の人達が問題を知ることができませんね」
「報道は義務よ」
そこにはだ。確かな信念があった。
「報道する自由っていうけれど」
「先輩はいつも仰ってますよね」
「そうよ。報道は義務なのよ」
「人が知りたい、知るべきことを報道しなければならない」
「間違っても。自分達に都合の悪いことを報道しないというのは駄目よ」
それは問題外だというのだ。
「報道しない自由はね」
「背信行為ですよね」
「ええ、それはしてはならないわ」
尚二十世紀後半から二十一世紀前半の日本のマスコミは違った。その『報道しない自由』を所謂社会主義勢力に関する報道に対して駆使した。その結果国民の社会主義勢力に対する理解をかなり阻害したのだ。
だがナンシーはだ。こう言ったのである。
「絶対にね」
「そうですね。それじゃあ」
「恐ろしい事件だけれど」
深刻な顔でだ。ナンシーはこうも言った。
「それでも。記事を書くわ」
「わかりました。それでは」
「明日の一面はそれよ」
そのだ。口裂け女に子供が殺された事件についてだというのだ。
「首を切られた、ね」
「証拠写真がないことが救いですね」
「ええ。それはあったとしてもね」
「新聞に載せることはできませんね」
「残酷過ぎるわ」
だからだ。それはできないというのだ。
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