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八条学園騒動記

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第二百八十八話 勝敗は決してその十


「他にも悪いことばかりしてるし」
「だからですか」
「そう。あの国とフランスとオランダとスペインとドイツ。あとベルギーもね」
 意外と多い。連合で嫌われている国は。
「悪い奴等じゃない」
「ううむ。それは少し」
「少し?」
「偏見ではないでしょうか」 
 そうではないかとだ。ラメダスはジョンに述べた。
「そう思います」
「偏見って?」
「はい、確かにイギリスに美味しいものは少ないです」
「というかないんじゃないの?」
「ですが中には美味しいものもありまして」
「それがそのカレー?」
「今連合でポピュラーなカレーの食べ方はイギリスからはじまっているのです」
 ラメダスはこう話したのだった。ジョンに対して。
「あの御飯にカレーをかけて食べる食べ方は」
「マウリアじゃなかったんだ」
「最初からマウリアにはありました」
 その御飯にカレーをかけてかける食べ方自体はだ。マウリアに最初からあったというのだ。ジョンはラメダスのその話に思わず首を捻った。
 そしてそのうえでだ。こう彼に尋ね返したのだった。
「ですがカレーがです」
「カレーが?」
「カレールーが違うのです」
 肝心のだ。それがだというのだ。
「マウリアのカレールーはさらりとしていますね」
「うん、とてもね」
「しかし連合のものは。とりわけ日本のものはとろりとしていますね」
「僕もとろりとしたカレー好きだよ」
「ですね。そしてそのとろりとしたカレーはイギリスにルーツがあるのです」
「というかイギリスってカレー食べてたんだ」
「その話にもなります」 
 話はかなり複雑になってきていた。しかも遡ってもいる。
「イギリスはかつてマウリアを植民地にしていまして」
「悪辣な統治だったよね」
「それはその通りですが今は置いておきます」
 その話になると長くなるからではない。ラメダスは今その話に興味がないから置いたのだ。マウリア人の会話の傾向として興味のない話は全くしないというものがある。
「それでそのイギリス海軍で使うシチューがです」
「カレーだったんだ」
「ミルクのシチューでは船内で保管しにくいのです」
「牛乳って腐りやすいからね」
「そうです。昔は冷凍技術がありませんでした」
 この時代では普通になっているだ。冷蔵庫やそうしたものがなかったのだ。
「それでミルクが使えないので」
「カレーになったんだ」
「パンにカレーシチューを付けて食べていました」
 そうしていたというのだ。イギリス海軍では。
「そしてそれを見た日本人がです」
「ああ、真似てだったんだね」
「カレーを食べはじめたのです」
「だからイギリスにルーツがあるんだ」
「そうなるのです」
「中々複雑なルーツが。カレーにはあったんだね」
「はい」
 まさにそうだとだ。ラメダスは答えた。
「カレーもまた一日では成らずです」
「というかマウリアの歴史って何千年だったっけ」
「五千年はあります」
 神話の時代を入れると最早この宇宙に留まらないのがマウリアだ。
「モヘンジョ=ダロから考えますと」
「あの遺跡は教科書で勉強したけれど」
「おそらくその頃からですが」
「じゃあ五千年かな」
 少なくとも中国よりも古かった。その歴史は。
「やっぱり長いよね。その一日で成らなかったローマよりも」
「はい、ローマ帝国以前から我がマウリアはありました」
 これはその通りだった。マウリアの歴史はとにかく長いのだ。 
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