八条学園騒動記
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第二百八十八話 勝敗は決してその四
「私もね」
「マウリアはユダヤ教を弾圧していませんが」
「あらゆる宗教が存在している国です」
「しかしそれでもですか」
「マウリア化には反対ですか」
「食べ物に不安があるから」
それでだというのだ。
「卵と鶏一緒に食べることあるわよね」
「はい、あります」
「どちらもカレーに入れて。ゆで卵と鶏のカレーです」
「しかしそれがですか」
「駄目なのですか」
「ユダヤ教では親子の関係のものは一緒に食べないのよ」
古来からあるユダヤ教の戒律の一つである。
「だから牛と牛乳もね」
「そういえばそうですね」
「ユダヤ教徒の方はチーズバーガーも召し上がられませんね」
「そうなの。牛肉と乳製品もね」
親子の関係だからだというのだ。
「食べられないのよ」
「そうですね。だからですか」
「そんな組み合わせを食べさせられると思うと」
「マウリア化には絶対にですか
「反対よ」
そうだとだ。アンは強い声でラメダスに述べた。
「もう絶対にね」
「マウリアもそこは考慮しますが」
「けれど牛肉は駄目よね」
「はい、我が国はヒンズー教徒が大半ですから」
それ故にだった。ヒンズー教では牛は神の使いである聖獣だから食べることはないからだ。
「何があろうともです」
「じゃあビーフステーキは」
「マウリア人にそれは出せますか?」
「出したら怒るわよね」
「出した相手が政府の高官やマハラジャの場合はです」
その場合はどうなるかだった。問題は。
「戦争を覚悟して下さい」
「その言葉本気よね」
「はい」
ラメダスは本気そのものの返答でアンに答える。
「無論ローストビーフもビーフシチューもです」
「だからマウリアにはビーフカレーもないのね」
「そうです。ご存知の通り」
「私牛好きなのよ」
肉としてだというのだ。これは。
「乳製品も好きよ。本当にお肉と一緒には食べないけれどね」
「ではその面からもマウリア化は」
「本当にならなくてよかったわ」
心からほっとする顔でだ。アンは答えた。
「何よりよ」
「そうですか。ではアン様は今嬉しいですね」
「帰ったらステーキで乾杯よ」
まさにその牛肉でだというのだ。
「ワインとね。お肉を大量に買ってどんどん焼いてね」
「そう仰ると何か焼き肉みたいですね」
「韓国のあれね」
「はい。そんな風に思えますが」
「焼き肉も嫌いじゃないわ。けれどステーキはね」
好きだというのだ。それもかなりだ。
「レアでね。赤身のぶ厚いお肉を焼いてそこにソースをかけてね」
「そのうえで召し上がられるのですね」
「そう。ステーキは最高よ」
「私にはわかりませんがそうなのですね」
「そうなのよ。まあマウリアじゃないけれどね」
「マウリアのステーキはチキンステーキかポークステーキです」
牛が食べられないからだ。そちらになるというのだ。
「後は山羊や羊になります」
「ううん。そういうのも好きだけれどね」
「そしてソースはカレーです」
またしてもカレーだった。例えステーキでもだ。マウリアならばカレーであるというこの絶対の不文律は変わらなかった。それはマウリアだからである。
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