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八条学園騒動記

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第五話 好きだから仕方ないその二


「何としても!追いついてやる!」
「じゃあ来てみて」
 滑りはじめるアンネットとそれを必死に追うルシエン。傍から見ればアンネットが遊んでいるようにしか見えない。同時に楽しんでいるようにしか。
 しかしそれをわからない娘もいる。誰であろう、彰子である。
「アンネットちゃん酷いよ」
 そう言って怒った顔をしている。
「あんなに意地悪して。ルシエン君が可哀想じゃない」
「あのさ、彰子」
 その言葉に眉を顰めさせた蝉玉が彼女に尋ねる。
「何?」
「あれ見て、そう思ったの?」
「当たり前よ。じゃあ何て思うのよ」
「あのね、彰子」
 彰子の発言に脱力感を覚えるも言おうと努力する。
「あれはね」
「何て言うかね」 
 エイミーも援軍に加わる。だが彰子の護りはあまりにも固かった。
「とにかく意地悪はよくないよ。ルシエン君は一緒に遊ぼうって言ってるのに」
「ううん・・・・・・」
「駄目だこりゃ」
 二人も白旗をあげるしかなかった。彰子の鈍感さとそうしたことへの疎さは最早ガンタース要塞群級のものであるとわかったからである。二人の手に負えるものではなかった。
「絶対に追いついてやるからな!」
「私にかしら?」
 二人はスノーボードでの追いかけっこを続けている。蛇行したりジャンプしたりして。見ればルシエンのセンスはかなりのものである。だがアンネットのそれは。最早神技の域に達していた。
 そのスピードもテクニックも桁外れであった。周りの客達の中をまるで無人の野を行く様に通り抜け、そしてルシエンとも適度な距離を保ったままである。ルシエンは必死なあまりそれに一向に気付いていないがそのテクニックとスピードは彼も見ていた。そのうえで呟く。
「くっ、何があっても追いついてやる」
 彼は言う。
「そしてアンネットと!」
 集中力がぶれた。それが命取りとなった。
 バランスを崩す。だがすんでのところで立ち直る。
「やるわね」
 アンネットはそれを後ろ目で見て呟く。
「あの態勢から立ち直るなんて」
 あやうくこけるところだった。そこから立ち直り、また滑るのは見事という他なかった。それを見たアンネットの気持ちが少し動いた。
 
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