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八条学園騒動記

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第二百七十三話 真面目なギルバートその六


「ううん、そこまで鈍感って」
「ちょっとないけれど」
「やっぱり真面目過ぎると気付かないのかな」
「見方が四角四面になるからね」
「それじゃあ見えるものも見えないよね」
「丸い方が視野が拡がるから」
 これは戦闘機のコクピットでもそうである。キャノピーは丸い方がかえって視野がよくなるのだ。ただしこの時代の宇宙用の戦闘機は全周囲モニターとなっている。
 そのことも踏まえてだ。二人は思うのだった。
「何かギルバートも」
「ややこしいわね」
「うん、真面目過ぎると本当にね」
「視野って狭くなるから」
「大抵の人が気付くことだったけれど」
「だから今一つ抜けてるのね」
 ギルバートも万能ではないのだ。
「もっとおおらかにいかないとね」
「やっぱり人間駄目よね」
「随分言ってくれるな」
 ギルバートもだった。その二人に顔を向けて言う。
「僕にしても反省することは反省するが」
「まあ随分なことは言ってるから」
「それは認めるわよ」
「そうか。僕は鈍感だったのか」
「筋は悪くないと思うわ」
 蝉玉はこう二人に話した。
「見るものさえ見られればね」
「問題はないのか」
「だから。真面目過ぎたらかえって視野が狭くなるのよ」
「四角だと案外見られる場所が少ないじゃない」
 スターリングも加わる。ここでも二人だった。
「けれど丸いとね」
「それだけ視野が拡がるから」
「余裕か」
 ギルバートはすぐに察した。
「真面目に遊びを加えるのか」
「そう、そういうこと」
「そういうことなんだ」
 蝉玉もスターリングも言いたいことはそこだった。
「余裕があるといいのよ」
「ギルバートってそういうのがないから」
「それにね。言うけれどね」
 蝉玉はここであえてだ。極端な例を出した。
「ロベスピエールもヒトラーも真面目だったわよ」
「うっ、あの二人もか」
「そう。大真面目だったのよ」
 連合においてこの二人は人類史上に残る悪人とされている。最早絶対悪と言ってもいい。
「特にヒトラーなんてね」
「私生活は質素だったな」
「菜食主義者でお酒も煙草もしないし」
 禁欲的であったのだ。その生活は。
「女性関係も清潔だったし」
「そうらしいな。エバ=ブラウンともな」
「死ぬ間際に結婚してその関係もね」
「真面目だったな」
「それで着るものも質素で」
 簡素なスーツ、総統になってからは制服だった。仕立てもごく普通の。
「住んでる場所だってね」
「何もかもがだったな」
「質素だったのよ。それで趣味は」
「読書に音楽鑑賞だったな」
「特にワーグナーね」
 ヒトラーのワーグナー崇拝はこの時代でもよく知られている。
「全てにおいて真面目だったのよ」
「しかしそれでもか」
「あれだけの悪事をしたから」
「真面目に悪事をした」
「そういうことになるわ」
 突き詰めていけばそうなる話だった。
「そしてロベスピエールだって」
「汚職や職権濫用とは無縁だった」
「やっぱり真面目だったのよ」
 人間的には高潔だったと言われている。
「それでもね」
「やはり悪事を行った」
「若しも二人の考えに余裕があったら」
「もう少し違っていたか」
「ひょっとしたらね」
「そういうものか」
 ギルバートは腕を組んで考える顔になった。 
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