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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百四十一話 ザルク

                 第百四十一話 ザルク
イザークはスピットブレイクの後本国に戻っていた。そこで鬱屈した気持ちを抱いていた。
「イザークさん」
そんな彼にシホが声をかける。
「やっぱり寂しいですか?」
「否定はしない」
自分でもそれは認める。
「皆いなくなったからな」
「そうですね」
シホも寂しい顔でそれに頷く。
「アスランさんもディアッカさんも」
「戦死に行方不明か」
苦い顔で呟く。
「どいつもこいつも。いい奴ばかりがな」
「はい。ニコルさんのお母様ですけれど」
「ずっと家から出て来られないそうだな」
「泣いてばかりだそうです。たった一人の御子息だったらしくて」
「いい奴だった」
イザークは苦い顔になっていた。
「あんないい奴はいなかった。それなのにな」
「皆戦いで」
「そんなものかも知れないな」
窓の向こうの銀河を見て言う。
「戦いは。皆死んでいく」
「けれどそれでも」
「わかっている。俺達は戦わなくちゃいけないんだ」
窓にシホの姿が映っている。同時に傷のある自分の顔も。それは怒りで歪んでいた。
「明日出撃だ」
彼は言った。
「クルーゼ隊長の指揮の下だ。ロンド=ベルがこちらに来ているらしい」
「ロンド=ベルが」
「そしてティターンズもな。いよいよ奴等との最後の戦いなのかもな」
「最後の」
「シホ」
イザークは言った。
「死ぬな。いいな」
「わかりました」
きっと顔をあげてそれに頷く。彼等はアスラン達の行方を知らなかった。今彼等はエターナルでこれからのことについて話をしていた。
「しかし生きておられたなんて」
ニコルが驚きの顔でバルトフェルドを見ていた。
「流石に思いませんでした」
「ははは、残念だがこんな身体になってしまったけれどね」
バルトフェルドは笑ってニコルに返す。
「アイシャも無事さ。彼女は何処もなくなってはいないよ」
「すいません」
彼にキラが謝る。
「あの時は」
「何、いいさ」
バルトフェルドは笑って彼を許してきた。
「戦いだからね。むしろ命があっただけでもましだよ」
「アンディが私を庇ってくれたのよ」
アイシャはそう言ってきた。
「それで片目片腕片足になっちゃったのよ」
「そうだったんですか」
「おかげで復帰には時間がかかったがね。まあいい骨休めにはなったさ」
「バルトフェルド艦長は私達に協力して下さることになったのです」
ラクスが言う。
「プラント、そして人類を救う為に」
「しかしなあ」
シンがここで複雑な顔をして言ってきた。
「どうしてあの変態仮面がプラントにいるんだ?」
「どういうこと?それ」
「いやな。あからさまに怪しいだろ」
彼はルナマリアにも言う。
「あんな訳のわからない仮面被ってよ」
それを聞いたクワトロとゼクスがあまりいい顔をしていなかったがそれでもシンは言う。
「見るからに怪しいだろうが」
「まあ確かにね」
ルナマリアもそれに頷く。
「けれど気付いたらいたよな」
「ええ」
「身元不明だしな」
「そういえばそうだよな」
ジャックがそれに頷く。
「あの人って何か何時の間にかザフトに入っていて」
「そして白服になっていた」
ハイネが応える。
「やはり何かおかしい」
「ザフト、いやそもそもプラントは身元が容易にわかる場所の筈だ」
ミゲルはそこを指摘してきた。
「それが何故だ」
「そこです」
ラクスはそこを指摘してきた。
「彼にはあまりにも謎が多いのです。その両親さえ」
「わかってはいない」
「そうです。ですから私は今一つの場所に皆さんを導いています」
「そこは一体」
「コロニーメンゲル」
ラクスは言った。
「そこに謎があるようです。ですから」
「はい。その通りなのです」
シュウも言う。
「そこに行かれるとよいでしょう。キラ君、カガリさん」
ここでシュウは二人に顔を向けてきた。
「何ですか?」
「貴方達の運命もまたわかります」
「僕達の!?」
「それはどういうことなんだ!?」
「カガリが本当に猿だったとかなんじゃねえのか?」
「だからシン」
キラが彼を窘める。
「君がそんなことを言うからカガリも怒るんじゃないか」
「だってこいつ本当によ」
「一度本当に死んでみるか?ああ?」
カガリは指をボキボキと鳴らしながら問うた。
「ほら、だからさ」
「それか御前とこの猿女が兄妹とかな」
「ああ、それはない」
カガリはそれを真っ先に否定してきた。
「何故だ?」
「私が姉に決まってるからだ、そうなるとな」
「そうか?」
ディアッカがそれを聞いて眉を顰めさせた。
「カガリが姉、ねえ」
カズイも首を傾げている。
「こんな頼りないのが私の兄の筈ないからな」
「いや、カガリってなあ」
「だよねえ」
サイとトールが言い合う。
「やんちゃだから本当は妹なんじゃないの?」
ミリアリアはそう思っていた。
「カガリちゃんは妹よね」
マリューもそう主張する。
「やっぱり」
「少なくともしっかりはしていないな」
「御前が言うな」
カガリはシンにだけは言われたくはないようだった。憮然として抗議する。
「そういえば御前にも妹さんいたよな」
「そうさ」
得意げな顔で胸の携帯を見せてきた。
「俺とマユはいつもこれで一緒なのさ」
「何だ、シスコンなのか」
「何ィ!?」
またカガリの言葉に反応する。
「今何つった」
「シスコンだって言ったんだ。そのものだろうが」
「俺はシスコンじゃない!」
限りなく説得力のないことを主張する。
「それは御前だろうが!」
「何ィ!」
カガリもそれに反応する。
「私がシスコンだと!」
「いや、この場合はブラコンでしょ」
「そうですよね」
フィリスとエルフィが横で言う。
「そうだろうが。キラと御前が兄妹なら御前キラにいつも抱きついてるじゃないか」
「そ、それはだな」
カガリの顔が急に真っ赤になる。
「単なるスキンシップで」
「ほら見ろ、やっぱりそうだ」
「違う!私はその」
「否定できないだろうが。御前はやっぱりブラコンだ!」
「私は違う!大体キスもまだなんだぞ!」
「それがどうした!俺だってそうだ!」
「御前はステラがいるだろうが!」
「純愛なんだよ!」
「さて」
二人の喧嘩を背景にしてシュウは言う。流石に何も動じてはいない。
「キラ君、あとはフラガさんですね」
「俺もか」
「はい。そこに貴方達の運命がありますので」
「まさか」
それを聞いてマサトはふと思った。
「そこには」
「貴方の予想通りでしょうね」
シュウは彼にも答える。
「やっぱり」
「何か知っているんですか?」
「行けばわかるよ」
マサトはそうキラに返す。そして言う。
「けれどね、キラ君」
「はい」
「いいね、本当に」
じっとキラを見て言う。キラはそのマサトの顔と目を見て何か唯ならぬものを悟った。
「え、ええ」
だが頷く。逃げてはいけないということを悟ったからだ。
「わかりました」
「ではそちらへ行かれるとよいでしょう。私はまた退散させて頂きますが」
「今度は何処へ行くんだ?」
「また仕事がありまして」
そうマサキに返す。
「またお会いしましょう。それでは」
そう言って彼は姿を消した。ロンド=ベルはコロニーメンデルに向かうことになった。向かう間マサトは一言も口を開こうとはしなかった。
「何かあるのかね」
ムウはそんな彼を見て思っていた。
「そのコロニーに」
「そうですね。おそらくは」
キラも探る顔をしてそれに応える。
「とんでもない秘密が」
「どちらにしろ行くしかないか」
ムウは達観したように述べた。
「さもないと何もわからないな」
「ええ」
「鬼が出るか蛇が出るか」
「全ては行ってからですか」
「ああ」
ムウは頷く。
「何かえらいことがありそうだけれどな」
「そうですね。けれど」
キラも逃げるつもりはなかった。
「行きましょう」
「ああ。しかし」
ムウは何故か暗い顔になった。
「何かな、嫌な予感がするな」
「どうしたんですか、ムウさん」
キラはそんな彼を見て怪訝な顔を見せた。
「何か急に」
「ああ、何でもない」
そうは言うが暗い顔のままだった。
「気にするな」
「わかりました」
「どっちにしろまただな」
ムウは話を移してきた。
「来るぞ、奴等」
「今度はザフトですか」
「そうだ。そろそろ声がかかるぜ」
「総員出撃」
早速声がかかってきた。ジャクリーンの声だった。
「そら来たな」
「はい」
「じゃあ行くか」
明るい顔を作ってキラに言う。
「今度も派手な戦いになるぞ」
そう言って出撃した。出撃するともうそこにはザフト軍が展開していた。
「何かな」
ディアッカがザフト軍を見て苦い顔を見せてきた。
「あまりやりたかねえな。前にいた自分の軍と戦うのは」
「そうですね」
ニコルもそれに頷く。
「何か」
「ああ。けれどやるしかないな」
「いえ、貴方達はまた別の敵に向かってもらうわ」
ミサトが言ってきた。
「どういうことですか?」
「左から別の敵よ」
彼女は言う。
「ティターンズね、これは」
「というと」
「はぁっははははははははははは!」
「いたよロンド=ベル!」
「死ね」
オルガ、クロト、シャニの声がした。見れば彼等がもうそこにいた。
「げっ、あの三人」
「ティターンズがね。来ているから」
「しかも結構な数だな」
アスランがジャスティスのレーダーを見て呟く。
「四百か」
「ブルーコスモスの系列みたいだね」
ユウナは彼等を見て言う。
「いや、他にもいます」
キサカが付け加えてきた。
「ジ=オにハンブラビ、バウンド=ドッグもいます」
「本隊もいるみたいだね」
「おそらくは」
「それもエース級が。何かあるのかな」
「さて、それは」
キサカもそこまではわからない。
「しかし彼等もいるとなるとかなり大規模な作戦が行われるのでしょうか」
「あまり考えたくないね」
ユウナはそう言ってぼやいた。
「何をするのかは」
「彼等のことだ。残念だけれど今の僕の予想は当たるのかな」
「間違いないでしょうな」
トダカがここで言う。
「悪い予想程当たるものです」
「艦長、そこではフォローしてくれないかな」
「ユウナ様の悪い予想は外れたことが少ないので」
「確かにね」
バツの悪い顔でそれに頷く。というよりは頷くしかなかった。
「まあこれもカガリと一緒にいたせいだけれど」
「私もです」
「私も」
キサカとトダカもそれは同じであった。
「やれやれ。けれど敵が来ているのなら仕方がないね」
「はい。ですから」
モニターの向こうのミサトも応える。
「ティターンズ方面にも兵を向けましょう」
「わかったよ。いや、ちょっと待って」
「何か」
「ザフトもティターンズに向かっているよ」
「えっ」
ミサトはそれを聞いて目をしばたかせた。
「まさか」
「彼等にとってみればティターンズが主な敵ですからね」
アズラエルが述べる。
「当然ではないかと」
「参ったわね。これは」
ミサトはそれを見て暗い顔をした。
「けれどコロニーメンゲルにもザフトの部隊が向かっているし」
「そっちには予定通りキラ君が行けばいいじゃないのかな」
ユウナはそう提案してきた。
「フラガ少佐と。後はシン君かな」
「私も行く」
ここでカガリが名乗り出てきた。
「いいな」
「君も行くの」
「何だ、その言い方は」
カガリはユウナが言葉を濁したのを聞いて抗議する。
「随分な物言いだな」
「いや、別にそんなつもりはないけれどね」
そうは言ってもあまり賛成していないのはわかる。
「じゃあ僕も一緒に」
マサトが名乗り出てきた。
「それだといいですよね」
「ううん、マサト君もいるのなら」
顎に手を当てて述べる。
「まあいいか」
「私だけじゃ随分不満みたいだな」
「いや、不安」
彼はそう訂正する。
「実際に」
「言ってくれるな、全く。保護者みたいに」
「そりゃこんな馬鹿だとな」
またしてもシンが言わなくていいことを言う。
「当然だろ」
「御前に言われたくはないっ」
「落ち着け」
珍しくレイが間に入って来た。
「俺も行かせてもらいたい」
「君もかい」
「はい」
ユウナに答える。
「いいですか?」
「いや、別にいいけれど」
ユウナとしては特に断る理由もなかった。
「じゃあ」
「はい」
「ザフト組の他の面々はティターンズの右翼を攻撃して」
ミサトは言った。これはザフトがティターンズの左翼に向かっているのを見てのことだった。できるだけかつての友軍と戦わないようにという彼女の配慮なのだ。
「いいわね」
「了解」
それにタリアが答える。
「じゃあそれで」
「ええ」
こうして戦いがはじまった。ロンド=ベルは実質的に兵を二つに分けた。ムウはメンゲルに向かう途中で感じた。
「!?」
「むっ」
それはクルーゼも同じであった。彼等は同時にお互いを察した。
「いるのか、やはり」
「ふむ。ムウ=ラ=フラガ」
彼等はそれぞれ言う。
「どうやら俺達は腐れ縁らしいな」
「これが因果か」
クルーゼはそこに何かを見ていた。
「ならばそれを今払おう」
彼等はそのまま向かう。そこにはイザークとシホもいた。
「デュエルかよ」
キラ達に同行するディアッカは青いガンダムを見て顔を顰めさせていた。
「あいつと戦うっていうのか」
「イザークさん」
シホがイザークに声をかけてきた。
「バスターです」
「ああ、わかっている」
イザークがそれに応える。
「ディアッカの乗っていたのを使うか、ナチュラル共」
彼が見ているのはそれだけではなかった。ブリッツも他のザフトのモビルスーツもいた。ブリッツはバスターと一緒にいるが他のマシンはティターンズに向かっていた。
「ニコルのまでも。許せん!」
「ディアッカ」
ニコルが向かって来るデュエルを見て声をかける。
「ああ、わかってるさ」
ディアッカもそれに応える。
「あいつもいるのか」
「何時かはこうなると思っていましたけれど」
「ニコル」
またニコルに声をかける。
「俺がイザークの相手をする」
「はい」
「御前はシホを頼むぞ」
「わかりました。じゃあ」
「しかし何かおかしいな」
シンは彼等とは別のものを見ていた。
「どうしたんだ?」
「いや、こっちに来ているザフトの連中だよ」
カガリに応えて言う。
「何か動きが速い。いや、それだけじゃない」
「言われてみれば」
カガリもそれを言われて気付いた。
「何か妙だな、確かに」
「そう思うか」
「普通のザフトのモビルスーツより性能がいいのか?」
シンは言う。
「だとすればどうしてだ」
「改造しているみたいだね」
キラが応える。
「特別な」
「まさか」
シンはキラの今の言葉で気付いた。
「ザフトか」
「そうか。なら容赦することはない!」
カガリは前に出ようとする。しかしここでユウナの通信が入った。
「無理はしないようにね」
「何でここで話が入る!」
「聴こえてるから。彼等がそうなら」
ユウナはじっとモニターに映るザフト軍を見据えていた。
「油断してはいけないね。気をつけてね」
「わかった。じゃあ」
「キラ、援護を頼むぞ」
シンが前に出る。
「いいな」
「わかった、じゃあ」
「あいつはいいのか」
「シン君のデスティニーはまた特別だからね」
ユウナはそう述べる。
「大丈夫だよ」
「私のストライクルージュよりもか」
「いや、フリーダムとデスティニーは特別だから」
ユウナはそう返す。
「比べること自体が間違いだよ」
「ちぇっ」
「まあ普通に戦って」
ユウナはそうカガリに言う。
「ストライクルージュはバランスタイプだしカガリもよくなってきているし」
「そうか」
「そうそう。とにかく無理はしないようにね」
やはり保護者めいている。自分でも自覚しているがそれでも言うのであった。
「クサナギもそっちに行ければいいんだけれどね」
「それはちょっと無理ですね」
アズラエルが彼に言ってきた。
「ティターンズが来ていますよ」
「あれは・・・・・・ジ=オ」
「はい、そうですね」
「確か今乗っているのはジェリド=メサ大尉」
「ティターンズのエースですね」
アズラエルはどういうわけかかなり落ち着いていた。
「カミーユ君の出番ですね」
「ああ、そうなるのですか」
ユウナはそれを聞いて何か妙に納得した。
「成程」
「既に彼はこちらに来ていますし」
「そういえばですね」
ユウナはふと気付いた。
「何でしょうか」
「貴方と凱君は何かと重なったりしますが」
「ええ」
「結構カミーユ君はあのウルベ少佐に似ていると思いませんか?」
「確かにそうですね」
キサカがそれに頷いてきた。
「何か妙に」
「実は僕も一条中尉には妙に親近感を感じるし」
「そうですね」
輝本人もそれに応えてきた。
「俺も何かユウナさんは他人の気がしません」
「僕もそういう相手がいて何よりだよ」
「そうですね」
「それがBF団の人間だったらどうですかな」
ノリスがここで言ってきた。
「私はどういうわけかマスク=ザ=レッドに似ていると言われます」
「私は十常侍なのだが」
何故かシナプスも言ってきた。
「あまり気持ちよくはないな」
「彼等は人間ではありませんからね」
アズラエルの言葉は身も蓋もない。
「何か別の人種なのでしょう」
「またそんな。いや」
ユウナもそれは否定しきれなかった。
「オーブを一人で滅茶苦茶にしてくれたしプラントでは」
「宇宙空間からコロニーを攻撃してきました」
タリアが言う。
「直系の怒鬼が」
「やっぱり人間じゃないか」
「少なくとも私はそう思いますが」
タリアはそう返す。
「危うくコロニーが崩壊しそうになりましたから」
「彼等がいないだけ助かってるね」
「全くです」
キサカがユウナの言葉に頷く。
「じゃあそれを意識してティターンズと戦おう」
「はい」
かなり逆説的なポジティブシンキングであった。しかしそれのせいかロンド=ベルはティターンズとは上手く戦っていた。フレイの今度の相手はアスランであった。
「シンでもキラでもない!?」
フレイはアスランを前にして言う。
「けれど・・・・・・同じ」
「彼女か」
アスランはフレイを見て呟く。
「キラとシンが言っていた女の子は。確かに」
「そこねっ!」
そこにフレイの攻撃が来た。アスランは左下に動いてそのビームをかわす。
「速い。そして動きもいい」
「誰だろうと相手してやるよ!」
「おいおい、お嬢ちゃん」
躍起になるフレイにヤザンが声をかけてきた。
「はい」
「熱くなるのもいいがクールさも忘れるなよ」
「クールさを」
「そうさ。戦いに熱中しているのはわかるがな」
彼は自分は好戦的な笑みを浮かべながら言う。
「落ち着いているのも大事だぜ。さもないと怪我するからな」
「わかりました」
フレイはそれに頷く。それで少し冷静になった。
「じゃあ」
「よし。じゃあ俺達はそこの三機のガンダムを相手にするか」
「了解」
「わかりました」
ラムサスとダンケルがそれに応える。彼等はステラ達に向かっていく。
三機のガンダムにはロウも一緒にいた。彼は三機のハンブラビが来るのを見てすぐに三人に言った。
「来るぞ。気をつけろ」
「あれがハンブラビですね」
「そうだ、乗っているのはヤザン=ゲーブルだ」
そうスティングに返す。
「手強いぞ」
「わかりました。アウル、ステラ」
「おうよ」
「うん」
二人はそれぞれスティングの言葉に応える。
「三対三だ。いいな」
「わかってるぜ。なあステラ」
「一機に向かう」
「それだけじゃない」
ロウはそこに付け加えてきた。
「奴等は三機集まって一機を集中攻撃して来る。海蛇でな」
「海蛇」
「電磁兵器だ。それで機体にダメージを与えてくる」
そうステラに説明する。
「だから厄介なんだ。わかるな」
「だから一機ずつで分けろってことですね」
今度はアウルが問うてきた。
「そうだ。話が早いな」
「これでも結構長いですからね、戦って」
「こっちに来てからどうも漫画とかアニメばっかり見ていますけれどね」
スティングはわざと冗談めかして言う。あえてリラックスさせているのだ。
「ステラ魔女っ子になりたい」
「まあそれは後で見ろ。とにかくだ」
ロウは言う。
「奴等は一機ずつに分けろ。それだけは忘れるな」
「了解!」
「それじゃあ」
三人は彼の言葉に頷く。そしてその言葉通り一人でそれぞれ一機を相手にするのであった。
「あいつ等は大丈夫か」
ロウは彼等の動きを見て呟く。
「なら俺も」
すぐ側にライラのバウンド=ドッグが来ていた。そちらに向かうことにした。
ロンド=ベルの主力はティターンズ、ザフトの主力部隊と戦っていた。そしてキラ達はメンゲルの手前で同じく刃を交えていたのであった。
「こいつ等」
イザークはディアッカとニコルを前にして言う。
「戦い方も似ている。何処までも!」
彼はまだ二人だと気付いてはいない。そのまま戦っていたのだ。
「許さん!」
「まずいな」
ディアッカは激昂するイザークを前にして呟く。
「イザークの奴、熱くなってるな」
「足止めしますか?」
ニコルがここで言ってきた。
「ここは」
「いや」
しかしディアッカは苦い顔でそれに返した。
「できるか?それ」
「難しいですね」
ニコルの返事も決まっていた。彼にもイザークを攻撃することはできなかった。
「ここじゃ何だ」
ディアッカはここで言った。
「戦っても埒があかない」
「ええ」
「あのコロニーの中に入るぞ。そこで話ができれば」
「ですね。じゃあ」
「ああ」
二人はメンゲルの横のコロニーに入った。イザークはそれを見て彼もコロニーへ向かった。
「イザークさん、そのコロニーに入るんですか?」
「そうだ」
そうシホに返す。
「あいつ等、どうやら誘っている」
それは直感でわかった。
「なら」
「わかりました。それじゃあ」
それを見てシホも言う。
「私も行きます」
「御前もか」
「一人より二人の方がいいです」
少し誤解されかねない言葉だったが二人はそれに気付かない。
「そうですよね」
「そうだな。では行くぞ」
「はい」
二人もコロニーに入る。その頃キラ達はクルーゼ、そしてザルクと激しい戦いを繰り広げていた。
「こいつ等、かなり」
前に出て戦うシンは一機を真っ二つにしながら言う。
「速い・・・・・・それだけじゃない」
「唯のコーディネイターじゃない」
レイがそれに応えて言う。
「さらに激しい訓練を積んだ。そんな感じだ」
「そうだな、これは」
ムウもそれを感じていた。
「あいつが鍛え上げた精鋭ってわけか」
そう言いながらクルーゼのゲイツを見据える。
「やってくれるぜ、全く」
「さて」
クルーゼはムウの気配を感じながら言う。
「私もあの中に入るか」
そう言ってメンゲルの中に入った。それを見てムウもメンゲルの中に向かった。
「ムウさん、何処へ」
キラが彼に声をかけた。
「あいつが中に入った。なら俺も」
「見ろ、キラ」
カガリがキラに声をかけてきた。
「ザルクの奴等も一緒だ」
「何かあるのか?あの中に」
「ある」
不意にここでレイがシンに答えてきた。
「!?どうしたんだ、レイ」
「行くのか、皆」
レイは皆に問うてきた。シンの言葉には応えずに。
「ああ、そうだが」
ムウが普段とは違う彼に戸惑いながら言葉を返してきた。
「では案内する」
「えっ、レイ君」
美久がそれを聞いて声をあげる。
「このコロニーを知っているの?」
「・・・・・・・・・」
しかしレイはその言葉に答えない。かわりにこう言うだけであった。
「案内する」
皆それに従うしかなかった。彼についてメンゲルの中に入るのであった。
イザークとシホはコロニーの中をモビルスーツで進む。そして広間に出た。
「イザークさん、あれ」
そこでバスターとブリッツを見た。しかしそこから点滅信号が鳴っていた。
「降りろだろ?」
「罠でしょうか」
「いや」
だがイザークはその言葉に首を横に振った。
「いるのは二機だけだ。罠の心配はない」
「では」
「ああ、降りるぞ」
「わかりました」
二人はモビルスーツから降りた。その彼等の前に現われたのは意外な顔触れであった。
「何っ!」
「えっ」
イザークとシホは二人の姿を見て思わず驚きの声をあげた。そこにいたのはディアッカとニコルであった。
「御前等、生きていたのか」
「どういうことですか、これは」
「多分御前が今思ってる通りさ」
ディアッカがシホに返した。苦笑いと共に。
「僕達は今ロンド=ベルにいます」
ニコルも答えてきた。
「さっき貴方達と戦ったのも僕達なんです」
「俺達だけじゃないけれどな」
ディアッカはさらに言う。
「シンやアスラン達も一緒さ」
「皆、今はロンド=ベルで」
「ふざけるな!」
イザークは激昂した声で彼等に叫んできた。
「御前等ナチュラルと一緒に戦っているというのか!」
「そうさ」
ディアッカがそれに答える。
「その通りだ。俺達はナチュラル達とも一緒にいるさ」
「彼等とも交流しています」
「馬鹿を言え!ザフトを裏切って」
「御前から見ればそうかもな」
ディアッカはまずはそれを認めた。
「俺は捕虜になってからだったし」
「僕は一度撃墜されてから色々あってでした」
「そして敵に寝返ったというのか!」
「いや、そうじゃない」
ディアッカはそれは否定した。
「俺は知ったんだよ。今ザフトに何がいるのか」
「だから僕達はロンド=ベルに正式に入りました。プラントを救う為に」
「そうしてプラントに弓を引いてか!」
「なあ、イザーク」
「シホさんも」
彼等は二人に声をかける。
「よく見てみるといいぜ、今のザフト」
「何かが見える筈です、特にクルーゼ隊長に」
「あの人にですか!?」
「そうです」
ニコルはそうシホに答える。
「きっと。あの人には不気味な影があります」
「イザークさん、どう思いますか?」
「出鱈目に決まっている」
イザークはその話を信じようとはしなかった。
「確かにあの人には妙な行動が多いが」
「それだよ」
ディアッカはそこを指摘してきた。
「そこなんだよ」
「どういうことだ!?」
「その妙な動きを見ていけばいいさ。そうしたらわかるからな」
「そこをか」
「ああ、はっきり言うぜ」
そのうえでディアッカは言ってきた。
「あの人はプラントも地球も何もかも滅亡させるつもりなんだ。何かの意図があってな」
「馬鹿な」
「だからラクス嬢はタリア艦長やレイに声をかけたのさ。そして皆ロンド=ベルに入った」
「あの人を何とかしないとプラントもなくなってしまうんです」
ニコルも述べる。
「だから僕達は」
「・・・・・・何故御前達の言うことを否定できない」
それには根拠があった。実際にクルーゼには奇妙な動きや発言があまりにも多いからだ。それに気付かない程イザークは勘が鈍くはないのである。
「それにな」
ディアッカはまた言う。
「ロンド=ベルの連中と一緒にいて俺はわかったんだよ」
「何がだ!?」
「コーディネイターとかナチュラルって言うだろ。あんなのはどうでもいいことなんだ」
「どうでもいいというのか」
「ああ。ロンド=ベルには他の星の奴だっているしニュータイプも超能力者もいる」
「けれど皆同じなんですよ」
二人はそうイザークとシホに語り掛ける。
「コーディネイターだって同じ人間さ」
「何も変わらないんですよ、本当に」
「・・・・・・そんな馬鹿な」
これはイザークには認められないことだった。コーディネイターであることが彼のアイデンティティであり誇りであったからだ。
しかし二人は言う。それは些細なことに過ぎないと。
「だからな、イザーク」
「すぐにとは言いませんが」
二人はさらに言う。
「俺達とまた一緒に戦わないか」
「プラントと、人類の為に」
「シホもよ」
「どうですか?」
「・・・・・・待て」
イザークは顔を悩みで歪めさせて述べてきた。
「一旦プラントへ戻る。そしてクルーゼ隊長のことを調べてみる」
「そうか」
「全てはそれからだ。いいな」
「ああ、わかった」
ディアッカはそれに頷いてきた。
「じゃあ待ってるぜ」
「僕達が嘘をついていると思うのなら撃って下さい」
「・・・・・・いや、それはない」
イザークはそれはしようとはしなかった。
「御前達のことはわかっている。だから」
「イザーク・・・・・・」
「また会おう。シホ」
そしてシホに声をかける。
「行くぞ」
「わかりました」
二人はそのままモビルスーツに乗ってその場を後にする。ディアッカとニコルはその二人を無言で見送るのであった。だが二人もまた苦い顔をしていた。
「どうなるんでしょうかね、イザークは」
「さてな」
デイアッカはニコルのその言葉に答えられなかった。
「また一緒になれればいいんだがな」
「ですね」108
「とりあえず俺達の伝えたいことは伝えた」
ディアッカは述べた。
「帰るか」
「はい」
二人もまたそれぞれのモビルスーツに乗った。そしてイザーク、シホとは反対の方に別れたのであった。
キラ達はメンゲルの中を進んでいく。そこは不気味な有様であちこちに何かの生物実験の結果と思われる生物の白骨や試験管等があった。他にはDNAを思わせるデータも残っていた。
「何てところだ」
シンが中を見回して忌々しげに呟く。
「こんなところだったんてな」
「なあ」
ここでムウが口を開いてきた。
「どうしたんですか?」
「俺の親父な、とんでもねえ奴だった」
彼はそう語りはじめた。
「暴力的でな。俺はしょっちゅうぶん殴られていた。けれど俺がガキの頃に火事で死んだんだ」
「そうだったんですか」
「ああ、今何故かそれを急に思い出したぜ」
「そうでしょうね」
何故かその言葉にレイが頷いてきた。
「何っ!?」
その返事にムウは妙なものを感じた。
「何でそう言えるんだ?」
「もうすぐわかります」
レイはそう返す。
「来ましたよ」
「来たか」
見れば目の前にクルーゼがやって来ていた。彼は何故か一人であった。
「ラウ・・・・・・」
レイは彼を見て言った。
「やっぱり一人で来たんだね」
「そちらは五人か。それもおあつらえ向きの顔触れだな」
「そうだね」
レイは彼の言葉に頷く。
「レイ、私のところへは戻らないのか」
「ああ、もう貴方と俺は別だから」
「何、別?」
シンは彼の今の言葉に何かを感じた。
「どういうことだ、レイ」
「言っていなかったのか」
「・・・・・・言いたくなかったから」
レイはそうクルーゼに返す。
「けれど言うよ。シン」
「何だ?」
「そして皆も。俺はラウ=ル=クルーゼだ」
「何っ!?」
「レイ、それどういうことなの?」
シンとキラは彼の今の言葉がどういう意味なのか理解できなかった。
「それって」
「その言葉のままさ。俺はラウのクローンだったんだ」
「そして私もだ」
クルーゼは彼等に対して言う。
「どういうことだ」
「ムウ=ラ=フラガ」
今度はムウに顔を向けてきた。
「私は君の父のクローンなのだ」
「何っ!?」
流石にこれにはムウも驚きを隠せなかった。
「御前が俺の親父の」
「そう、君の父上はクローンの研究をしていてね。私もレイもその結果なのだよ」
「馬鹿な・・・・・・」
「だが」
ここでクルーゼは言った。
「私は不完全なクローンだった。老化が早いのだ」
「何っ、じゃああの薬は」
「そうだ」
シンに答える。
「老化を抑える為にね。飲んでいたのだよ」
「馬鹿な、そんなことが」
「あるのだ。だから私はこの世を憎む」
彼は言う。
「出来損ないの私を生み出したこの世界を。この世界を滅ぼしてしまいたいのだよ」
「馬鹿なっ、それでも」
キラが彼に反論する。
「貴方にその権利は、誰にもその権利はない!」
「キラ=ヤマト」
彼は今度はキラを見据えてきた。
「少なくとも君には言われたくはないな」
「えっ!?」
「何故なら君は最高のコーディネイターだからだ。ここで生まれた」
「一体何を」
「戯言ではない」
クルーゼは言う。
「ここではクローンの研究が行われていた。私と同じように」
「貴方と」
「そうだ。その中で生まれたのは私だけではなかった。多くの失敗作があった」
「俺もまたそうだった」
レイも言う。
「俺はコーディネイターとしては弱い。だから」
「そうだったのか」
シンもまたそれを知り呆然としていた。
「その唯一の成功例が君なのだ」
「僕だって!?」
「そうだ、キラ=ヤマト」
クルーゼはキラをまた見据えてきた。
「君なのだよ」
「じゃあ僕の父さんと母さんは」
「君だけではない」
クルーゼはまた言った。
「カガリ=ユラ=アスハ」
「私か」
「そうだ、君はキラ=ヤマトと同じ試験管で生まれた。君はナチュラルだったが」
「何っ、じゃあキラと私は」
「その通りだ」
クルーゼはカガリにも語る。
「君達は同じ試験管から生まれた兄妹なのだよ。そしてそれぞれ」
「嘘だ、じゃあ父様は」
「勿論知っていたよ」
クルーゼはまたカガリに教えた。
「何もかもね」
「くっ」
「しかしだ」
ここでクルーゼは言う。
「君はそれでも」
「それでも?何だ?」
「いや、それは言わないでおくとしよう」
酷薄な笑みを浮かべてそう述べた。
「いずれ君自身がわかることだしな」
「一体何を」
「クルーゼ」
ムウが彼に声をかける。
「ザルクを率いているのは御前だな」
「そこまで知っていたか」
クルーゼはそれを否定しなかった。
「そうだ。ザルクは私の手足」
自分でもそれを認める。
「私の当然の権利を遂行する為の同志達なのだよ」
「当然の権利だと」
「今言った筈だ」
彼は言葉を返す。
「私には世界を破滅させる権利があると」
「嘘だ!」
シンはそれを真っ向から否定する。
「そんな権利誰にもあるか!御前にも!」
「そうだ」
レイがその言葉に頷く。
「レイ」
「ラウ。確かに俺と貴方は同じだ」
彼はそれを認めたうえでクルーゼに対して述べる。
「しかし俺は貴方と違う道を歩む。俺には仲間達がいる」
「そうか。では私の所には二度と戻らないのだな」
「俺の居場所はプラントだ」
彼は今それをはっきりと言った。
「そしてロンド=ベルだ。貴方の所にはない」
「そうか。では」
「だから俺はあの時貴方と決別した」
はっきりとそれを告げる。
「そしてもう二度と」
「ならばいい」
クルーゼもそれを受け入れた。
「さらばだ、私よ」
「・・・・・・・・・」
レイは今度は一言も発しなかった・ただクルーゼを見据えているだけであった。
しかしカガリは違った。ここでクルーゼに向けて発砲した。
「御前がレイと同じでも私がキラと兄妹でもいい!」
吹っ切れていた。彼女は自分のことも他のことも受け入れることを決めたのだ。
「だがこの世界を滅ぼさせるか!この世界は皆のものだ!」
「そうだ!」
シンもそれに頷く。
「御前が世界を滅ぼすつもりなら俺がその世界を守る!」
シンもまた彼に銃口を向ける。
「何があってもな!マユも皆も!」
「シン・・・・・・」
「キラ!こいつの言葉に惑わされるな!」
ムウも言った。
「こいつの言ったことは事実だ!しかしな!」
「しかし」
「こいつは妬みと憎悪だけで動いている!そんな奴が何かをしてもそれは正義じゃない!」
「そうだ!御前はただ拗ねているだ!」
カガリがまた言う。
「レイはその運命を受け入れて私達と一緒に歩いている!御前とは違ってな!」
「キラもだ!」
シンはキラに言及した。
「コーディネイターでも試験管から創り出されたコーディネイターであってもキラはキラだ!」
「僕は僕」
「そうだ!御前はキラ=ヤマトだ!」
シンはまたキラに語る。
「それ以外の何でもない!違うか!」
シンもまたキラを受け入れていた。
「だから俺は御前と共に戦う!そしてこいつを倒す!」
「そうして私の前に立ちはだかるのだな」
「その通りだ!」
シンはまたクルーゼに叫ぶ。
「だからこそ御前をここで!」
「ふふふふふ」
「!?何がおかしい」
シンとカガリは急に笑い出したクルーゼを見て問う。
「いきなりどうしたんだ」
「はははははははははは!」
クルーゼは二人をよそに高笑いを続けた。それを終えてからまた述べてきた。
「おかしいから笑うのだ。違うかね」
「何!?」
「所詮人間とは愚かな存在だ。いずれ自滅する」
彼は語る。
「その人間に対してはややかな滅亡を与えるだけだというのにそれを必死に防ごうとするのだ。おかしくないとは思わないのかね」
「それは御前の主観だ」
ムウは彼に対して言い放つ。
「世の中を拗ねている御前にはわからんだろうな!人間が!」
「そうだ!」
カガリがまた叫ぶ。
「私は皆を信じる!だからこそ!」
「ラウ=ル=クルーゼ!今ここで!」
シンと共に銃を放つ。しかし彼はそれをかわして姿を消してしまった。
「何っ!?」
「まさか」
「今ここで君達にやられるわけにはいかないのでね」
声だけが聞こえてきた。他には何もない。
「悪いがここは消えさせてもらう。また会おう」
「くっ、逃げるな!」
「逃がすか!」
カガリとシンが追おうとする。だがクルーゼはもう何処にもいなかった。
「無駄だ、もう何処にもいない」
ムウが彼等に言う。
「奴はどうやら帰ったらしい。帰ろう」
「それしかないのか」
「相手がいなくなったしな。仕方がないさ」
そうカガリに答える。
「じゃあ戻るか」
「ああ、わかった」
カガリは仕方なくそれに頷いた。こうして衝撃の事実と共に彼等はメンゲルを後にした。その頃にはもうティターンズ、ザフトとの戦いも終わろうとしていた。
「ここで戦力を消耗するわけにはいかない」
ジブリールは言った。
「全軍撤退せよ、いいな」
「了解」
「わかりました」
彼の同志達がそれに応える。こうして彼等はその場を後にするのであった。
「あれの用意をしておいてくれ」
ジブリールは撤退する中で同志達に言った。
「あれですか」
「そうだ、レクイエムが使えないのならな」
「ではそのように」
「ニュートロンジャマーは既に無効化されている」
彼はそこに何かを見ていた。
「ならばそれを使わせてもらう」
「わかりました」
ティターンズが去るとザフトも去った。こうして戦場に残ったのはロンド=ベルだけとなったのであった。
彼等はキラ自身からメンゲルの話を聞いた。しかし誰も驚いた顔は見せなかった。
「驚かないの?」
「だってね」
クスハがそれに答える。
「マサトさんもそうだし」
「知ってただろ?それは」
ブリットも言う。
「まさかとは思うけれど」
「えっ、ええ」
それをつい忘れてしまっていた。
「そういえばマサトさんメンゲルの中には入りませんでしたよね」
「実は知っていたからね」
マサトはそうシンに返した。
「何があるのかも予想していたし」
「そうだったんですか」
「だからコロニーの周りで待機していたんだよ」
彼は言う。
「いざという時の為にね」
「僕もまた同じですか」
「じゃあ聞くぞ」
凱が彼に問うてきた。
「御前の御両親はオーブにいるな」
「はい」
その言葉にこくりと頷く。
「じゃあそれでいい。その人達が御前の御両親だ」
「えっ」
「カガリもそうじゃないのか?」
驚くキラをよそに今度はカガリに問う。
「御前の親父さんは」
「父様しかいない」
カガリの返事も決まっていた。
「私はカガリ=ユラ=アスハだ。それ以外の何でもない」
「うん、その通りさ」
ユウナが彼に微笑んできた。
「実はね、僕は知っていたんだ」
「そうだったのか」
「君の御父上から聞かされていたよ。けれどそれはどうでもよかったね」
「ユウナ・・・・・・」
「カガリはカガリだからね」
にこりと笑って述べる。
「他の誰でもないんだから」
「済まない」
「ははは、これでおしとやかならいいんだけれどね」
「ユウナ様」
また要らんことを言ったユウナにキサカとトダカが言う。
「いい場面ですから」
「その様なことは」
「おっと、そうか」
それに気付いて言葉を変える。
「まあそういうことだよ。だから僕は今まで通りつき合わさせてもらうよ」
「有り難う」
「キラ君にもね」
ユウナは今度はキラに声をかけてきた。
「ただし、条件がある」
「条件!?」
「カガリの面倒を見て欲しいんだ。兄妹なんだよね」
「ええ、まあ」
「正直僕一人じゃ生傷が絶えなくてね。これで結構大変なんだよ」
「確かユウナさんってオーブの首相でしたよね」
その首相らしからぬ言葉にキラはいささか面食らった。
「あと首席補佐官に参謀総長、軍の司令官に主席秘書官もやっているよ」
何時の間にか職の数がまた増えている。
「けれどこれは僕としてのお願いなんだ」
「ユウナさんの」
「カガリは他に家族もいないからね」
「はい」
それはわかる。ウスミは壮絶な戦死を遂げたからだ。
「だからね。頼むよ」
「わかりました」
キラもキラとして彼の言葉に頷いた。
「それじゃあ」
「うん、これからも宜しくね」
「何か私はトラブルメーカーなのか?」
「自覚してねえのかよ」
シンがそれに突っ込みを入れる。
「そのものだよ」
「また御前に言われるしな」
それもまた不満であるらしい。
「全く」
「まあ御前もこれで天涯孤独じゃなくなったな」
「そうだな」
それは嬉しかった。
「じゃあキラ」
あらためてキラに声をかける。
「私が御前の姉になるんだな」
「あれ、そうなの」
「当たり前だ。御前みたいな頼りないのが私の兄のわけないだろ」
「あれっ、どっちかって言うと」
ミリアリアがヒソヒソとトールに囁く。
「カガリの方があれだよね」
「うん、手のかかる妹」
「そうだよねえ」
それにカズイも頷く。
「やっぱり」
「僕もそう思うな」
サイも同意であった。
「カガリはやっぱり」
「何だ!?皆私が妹なのか」
「馬鹿だからな」
またしてもシンが余計なことを言う。
「それにいいじゃないか。兄貴分というか保護者が一人増えるんだぞ」
「結局はそれかっ」
シンに抗議する。
「御前は何処までも私に喧嘩を売るつもりらしいな」
「御前がつっかかってくるだけだろ」
また売り言葉に買い言葉になっていた。
「それでどうしてそう言えるんだかな」
「けれどねえ」
言い合う二人の後ろでメイリンがぼやく。
「シンにも保護者つけたいわよね」
「本当にね」
それにルナマリアが頷く。
「しょっちゅう誰かと喧嘩してるんだから」
「相手限られてるのが救いだけれど」
カガリ、アスカとその相手は結構限られているのである。そのかわりしょっちゅうであるが。
「困ったものね」
「首に鈴でもつける?」
クェスが二人にそう提案してきた。
「それなら」
「それじゃあクロちゃんみたいね」
メイリンは頭の中で実際に首に鈴をつけたシンを想像して述べた。それは何故か猫に似ていた。
「いや、結構合ってるかも」
「あいつは猫系なんだろうな」
ギュネイも言う。
「カガリやアスカだってそうだしな」
「そういえばそうね」
ケーラがそれに頷く。
「何処かね」
「御前もそうだな」
ギュネイはクェスに顔を向けて言った。
「何処かな」
「気ままってこと?」
「まあそうだな。けれどシンとは何もないんだな」
「あまり関わらないしね」
それがクェスとシンの喧嘩がない理由であった。
「あたし特撮あまり観ないし。アニメは観るけれど」
「そういやアスカは何だかんだで特撮好きだよな」
ギュネイはそこに気付いた。
「子供の観るものとか言っていつもユウナさんの観てるからな」
「そうね。素直じゃないんだから」
ケーラはアスカのことを考えて苦笑いを浮かべた。
「それでいつもシンとかち合うんだよな」
「シン特撮好きだからね、カガリも」
ギュネイとクェスの言葉にふとルナマリアは気付いた。
「ってことは二人ってやっぱり似てるのね」
「ああ、そういえばそうね」
それにメイリンも頷いてきた。
「頭の中も行動パターンも」
「そういえばカガリも猫よね」
「そうね。乱暴な」
実際に今カガリはシンに爪で襲い掛かっていた。シンはシンでカガリの手に噛み付いている。そのまま猫であった。
「アスカもそうだし」
「それでキラは犬系?」
「まんまだな」
ギュネイが応える。
「あいつはな」
「そう、やっぱりそうですよね」
「犬と猫かあ。やれやれ」
「俺は雉か」
レイがふと呟く。
「それだと」
「ああ、その例え止めて」
ルナマリアはレイのその言葉に抗議する。
「それだとあたしが猿になるから」
「大体あんた最初からクライマックスだから桃太郎なんじゃないの?」
「余計に話がわからないわよ」
ルナマリアは妹にそう返す。
「何が何だか」
「空を飛ぶから俺が雉になるのか」
横からハイネが話に入ってきた。
「セイバーだからな」
「だからその話止めよう。猿になりたくないから」
「あたしがコーヒー出してタリア艦長がミニスカート穿いて?」
「私も入るの」
タリアがそれを聞いて苦笑いを浮かべる。
「ヒロインをやる歳じゃないわよ」
「大人の女ですか」
「そうね。それがいいわ」
ルナマリアにそう返す。
「ここは渋くね。女司令に」
「それは悪くないわね」
意外にも乗ってきていた。
「あと悪の女首領も」
「女幹部やってませんでした?」
ミサトがそれに突っ込みを入れる。
「何かそんな記憶が」
「まあそれはそれよ」
何故かタリアはそれを誤魔化す。
「気にしないで」
「はあ」
「何はともあれキラ君もカガリちゃんも無事に収まったわね」
タリアはそのことを喜んでいた。
「それは何よりよ」
「そうですね。まあうちじゃ大した違いはないですから」
ミサトがそれに応える。
「今時そんなので驚いていても」
「マスターアジアとか?」
「はい、それです」
ミサトは言う。にこりと笑っているが額から汗が出る。
「宇宙空間でも出てきそうで」
「BF団出たしね」
「人間じゃないですからね、完全に」
「そういえば」
タリアはここでふと気付いた。
「何で直系の怒鬼だったのかしら」
考える顔で言う。
「それわからないのだけれど」
「さあ」
ミサトもそれには首を傾げる。
「噂じゃ直系の怒鬼は生まれてすぐに一時間土の中に埋められていたそうですけれど」
「それがどう関係が?」
「わからないですよね。それで掘り出された時に右目を失ったそうで」
「そうだったの」
何かかなりわからない話であった。戦いが終わってもBF団には多くの謎が残っているのである。
「そうらしいですよ」
「ううん」
タリアはそれを聞いて考え込む。
「何か色々と謎が残ったままになってるのね」
「そうですね。けれどプラントの謎は」
「ええ、もうすぐよ」
顔を上げてそれに応える。
「全てが終わるわ」
「もうすぐ」
キラとカガリもあらためて迎えられロンド=ベルはメンゲルでの謎を解いた。ザルクとの戦いがいよいよ最後の局面に向かおうとしていた。

第百四十一話完

2007・2・7  
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