八条学園騒動記
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第二百五十九話 ビールとワインその十三
しかしだ。アンネットはその彼にこう言うのだった。
「ロシアじゃ普通だし」
「ロシア式のデートなんだね」
「そうよ。バーの場合もあるけれど」
「デートって普通バーじゃないかな」
「それでもね。ロシアはね」
「居酒屋の方がポピュラーなんだ」
「パブもだけれど」
どちらかというとバーよりパブの方が庶民的とされている。尚エウロパではバーに入るのは貴族でパブに入るのは平民とされている。法律で定められている訳ではないが慣習として定まっているのだ。
そのパブについてもだ。アンネットは話す。
「まあパブでもいいけれどね」
「パブねえ」
「それでもやっぱり今は」
「居酒屋なんだ」
「そこで二人で楽しくやりたいの」
飲んで食べて、というのだ。
「それでどうかしら」
「うん、まあね」
ルシエンもだ。二人と言われてだ。
いささか考えを変えてだ。こう答えた。
「じゃあそれでね」
「決まりね」
「いいよ」
今は少しだがにこりと笑っての返答だった。
「じゃあ二人でね」
「楽しく居酒屋までね」
「デートしようね」
こうして話が決まった。ルシエンは話が決まると一旦そこから離れた。アンネットは彼を手を振って見送ってからポルフィとエイミーに向き直った。
そしてだ。二人に笑顔で話すのだった。
「まあ。こうしたこともね」
「ロシアだね」
「居酒屋でデートも」
「基本雰囲気よりも楽しむことなのよ」
そちらを重視する国というのだ。
「そういう国だから」
「楽しくね」
「何ごとも」
「確かに雰囲気を大事にすることはあっても」
それでもだ。第一はなのだった。
「楽しむことよ」
「ロシアらしく楽しむ」
「それね」
「そういうことだから」
また言うアンネットだった。
「雪もまた楽しむのよ」
「ロシア人の器は大きい」
「それは間違いないわね」
「ロシアは大器よ」
アンネットの胸は誇らしげに反り返ってきていた。
「ただ大きいだけじゃないのよ」
「ううん、そういう国にいれば」
「アンネットみたいになるんだね」
エイミーとポルフィは最後にこう言った。その彼等の言葉を受けながらだ。当のアンネットはルシエンと居酒屋のデートに向かうのだった。
ビールとワイン 完
2011・7・16
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