FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-
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第二十一話 不安と恐怖と葛藤と…
前書き
短かッ!
数多くある資料の中からデリオラに関する資料や文献を探し出すだけでもかなりの時間を要してしまった。本棚を区分けしていないのは特殊な魔法で探し出すことができるためだ。透視のDBでこの禁書エリアに掛かった結界魔法を調べたときにそれが判明した。その時の絶望感といったらなかったな。
そこから数十冊の本を読み尽くし、今に至るわけだが、勿論その資料にあった情報を全て鵜呑みにするわけにはいかない。特に十数年前以降の文献など憶測や曖昧な情報が乱立して記載されていたため、最近の資料と重ね合わせどれが正しい情報なのかを的確に選ばなければいけなかった。
結果として古い文献はそれ程役には立たなかったが幾つか重要な情報もあった。しかしやはり十年前のイスバン地方を荒らしまわった時の資料の方が比較的有益で信憑性が高い情報が多かった。がそれ以上に驚愕したのが数十年前の比較的新しい資料の中に「グレイ」と言う名があったことだ。
グレイ・フルバスター。俺の良く知るギルドメンバーであり、昔からの友人だ。資料にはフルバスターの字はなかったが、俺はその資料のグレイと友人のグレイは同一人物だと思っている。
理由は氷の造形魔道士「ウル」と言う人物がどうやらグレイの師であるということが記載されていたからだ。同じ名で同じ魔法を使い、この資料から言ってもグレイと同い年だ。これを偶然で済ませていいはずがない。
しかし、だとするならば俺はデリオラを諦めざるを得ない。理由は簡単だ。俺にグレイの師が命を賭して掛けた魔法を解除できるはずがないという事だ。資料によれば壊滅した都市でグレイの師がデリオラに絶対氷結(アイスドシェル)という魔法を掛けたらしい。それは唯の魔法ではなく命を代償とした魔法。しかしそんな魔法をも解除できる方法は確かにある。だがそんな魔法を自身の欲求のために解いて良いはずがない。
「……あいつも、苦労してきたってことか」
フェアリーテイルの人間は俺やエルザのように何かを背負って生きている奴が多いとマカロフが言っていたが、そうかグレイも壮絶な過去を背負って生きてるのか。これは俺が知るべきことではなかったのかもしれない。早く忘れることにしよう。そんな親しい友人の過去を意図しないとは言え勝手に調べてしまったことで少し罪悪感が湧いてくる。
「――罪悪感、か」
その言葉で俺の心の中は一気にかき乱される。今まで誤魔化し続けていた罪悪感。いや葛藤だろうか。そろそろ真剣に向き合わなければいけないのかもしれない。自分の中にある強烈なまでの戦闘欲求。それは年月を追うごとに連れて、自身が成長していくにしたがい強くなる一方だ。先程のナツとの戦闘もそうだ。同じギルドメンバーであり、友人であり家族でもあると思っているそんな人を俺はあそこまで追い込んでしまった。
勿論手加減はした。デカログスも装備せずに戦い六星DBもよりえげつない使い方も出来たがしなかった。それは同じ仲間だからだ。しかし、最後のプラズマはどうだっただろうか。あれは完全に危なかった。あそこでエルザが登場しなければもしかしたら……。
if、もし、もしも、そんな可能性の話は嫌いだ。嫌いだが。どうしても考え込んでしまう。あれは模擬戦だった。殺し合うような勝負ではない。それが分かっているのに俺はいつの間にか……
考えただけでゾッとし、恐怖する。あれほど欲していた家族とも言うべき存在を、温かく迎え入れてくれたギルドメンバーを、グレイと仲良く俺に何時も突っかかってきた弟のような存在を、俺はいつの間にか
―――殺そうとしたのか
手にしていた資料が足元に落ちる。それを拾い上げようと手を伸ばすも中々掴めず、ふと自分の手を見ると震えていることに気がついた。過去初めて自分以上のS級モンスターを対峙していたときの恐怖よりも遥かに恐ろしい恐怖と不安。もしかしたらこの時が初めてだったのかもしれない。手にしてしまったDBという力の強大さに恐れてしまったのは。
「お、落ち着け。そんなことをするはずがない。俺が何よりも求めていたものだろう。それを自分の手で手放すはずがない」
自身に言い聞かせるように、まるで暗示でもかけるかのようにつぶやき、心を落ち着かせる。すると
「お、おい! 誰かいるのかっ!?」
さっきの資料の落下音が聞こえたのか常勤していた警備員の声が聞こえ慌てて資料を本棚へと戻しDBによって急いで自宅へと転移した。普段ならばギルドへと戻るはずだったが、俺は何となくギルドを避けた。
エルザに怒られたくないという免罪符を使い、自分の心を騙して。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、何とか心を立て直しギルドへと向かうと何時もとは違う騒々しさに違和感を覚えた。あまり元気がないと言えばいいのか。俺がギルドに入ってきたことに誰も気がつかないほど深刻な顔で皆が話し合っている。取り敢えず皆の邪魔をしないようにこっそりと気配を消しながらS級のみが上がれる二階へと登る。そこにはラクサスが一人酒を飲んでいた。
「よぉ、昼間っから酒とは良いご身分だな」
自分でも分からないがラクサスに話しかけるときはいつも喧嘩腰になってしまう。
「はっ! てめぇも酒飲みに来たんだろうが」
鼻で笑って返事を返したあとウィスキーをロックで呷っている。随分とご機嫌なようだ。そのままラクサスの真向かいの席に腰を下ろし、テーブルの上にある酒を了承を得ずにグラスに注ぐ。俺もロックで飲みたかったのでDBで氷を作り入れる。ちっ、先に氷を入れるんだったな、失敗した。
「ちっ相変わらず便利な能力だな」
俺のグラスに入った氷を忌々しそうに眺めながらもラクサスはグラスを口に傾け、愛用の葉巻に火を点ける。確か結構高級な葉巻だったな。紙煙草派の俺だが以前何となく立ち寄った葉巻屋でこいつの葉巻について店主に聞いたことがある。現在の最高級ブランドにラクサスが愛用しているコィーバをあげるマニアも多いのだとか。
「確か、その味わいはロマネ・コンティに例えられるほどだったか」
「……コィーバは良いぜ。ルシアもシガー吸うんだったらこれにするこった」
「考えとく」
一見俺とラクサスは仲が悪いように見えるが、周囲が思っている程悪くはない。お互い近い実力を持っているためか戦闘に発展する時も多くあるため仲が悪いと噂されているが、それ程険悪でもない。戦闘は憂さ晴らしに丁度いい相手なだけで恨み合って戦っているわけじゃない。
思いのほか仲が良いのは互いの趣味が似ているからだと思う。酒に音楽、葉巻や煙草。酒に関しては俺はワインが好きだが何でも飲む。ラクサスはウィスキーが好きだが何でも飲む。俺は煙草派、ラクサスは葉巻派。音楽は全く一緒の趣味でクラシックとロックが融合したものがお互い好きだ。何より共にいて沈黙が苦ではないというのも大きいだろう。が今は聞きたいことがあるのでラクサスに話しかけた。
「ところでギルドが騒がしいが何かあったのかよ」
「あぁ? まだ知らねぇのかよ。ナツが勝手にS級クエストに出かけちまったんだ。傑作だろ? こりゃあ帰ってきたら破門だな、破門。まぁ無事帰って来れたらの話だが」
「……なるほどな。だが誰かが止めに行ってんだろ。S級となるとエルザ辺りか。まぁ大丈夫だろ」
「ガキの尻拭いとはエルザもご苦労なこった」
どうやらエルザで合ってたようだな。この間のナツとの模擬戦で見た限りはあいつも随分と力をつけてきている。そうそうやられはしないだろう。そこに真面目なエルザが行ったのだ。無事に帰って来れるだろう。
「そういやぁ、グレイの奴も行ったみたいだな。雑魚が何人集まろうと雑魚には変わりねぇがナツ一人よりマシだろ」
「あの二人は戦闘に関しては相性良いからな。んで、あいつらどこ行ったんだよ」
よほどの場所じゃない限りエルザ一人向かえば十分だが、希に手に余る時もある。厄介な時は繁殖時だな。地域によって繁殖時は異なるから丁度その時期な場所ならば面倒なことになる。俺にとっちゃ極上の場所だが、エルザ一人では守りきれまい。
「――悪魔の島さ」
「まさか……呪われた島かっ!」
思わず勢い良く立ち上がってしまう。
よりにもよってガルナ島か。グレイにとっても考え深い場所なはずだ。もしかしたらそれを知っていてグレイは同行したのだろうか。
どうにも嫌な予感がする。昨日はあまり余裕がなかったためあまり頭が働かなかったが俺は重大なことを見逃しているんじゃないか。少し情報を整理したほうがいいな。
ガルナ島は古代から月の光を蓄積し島全体が月のように美しく輝く島と言われている。そしてあの絶対氷結(アイスドシェル)を解除できる月の雫。通称ムーンドリップ。ベリア語の呪文で月の魔力を一つに収束することで、いかなる魔法をも解除する力を放つ魔法だ。つまりその島はデリオラの封印を唯一解除出来るといわれている月の雫(ムーンドリップ)を行うのに最も適した場所と言っても過言ではない。そういえば最近仕入れた情報でここ数年前に北の大陸の氷山に封印されていたデリオラが行方不明との情報も入ってきている。
――つまりデリオラの封印はすでに解かれようとしているということか
俺は馬鹿か!何故こんな簡単なことに気がつかなかったんだ。そうなればガルナが悪魔の島と言われている原因も容易に想像できる。月の雫は月の魔力を使う。しかし月の魔力は人体にも悪影響を及ぼすと文献にも書いてあった。この影響で村の住人が悪魔のような姿になったのではないだろうか。だとすると……すでに月の雫が発動している可能性がかなり高い。自分の頭の回らなさに呆れてつつ溜め息一つ吐き出した。
「ふぅ……やれやれだな」
残りの酒を一気に呷り席を立つ。まるで気付けの一杯だな。
「ご苦労なこった。まさかルシアまで動くとはな」
「いろいろとあんだよ。それに敵が未知数である以上俺も行かないと危険だろうが」
「――随分と生ぬるいギルドになったもんだ。仲良しこよしの馴れ合いギルドじゃ外の連中から舐められるぞ」
「言ってろ」
ギロリと僅かに殺気の篭った視線で睨みつけられたがいつものことなので軽く受け流しギルドから出る。さて、ガルナ島は孤島だからな。船でなければ行けないが悪魔の島として有名なだけあって誰も船を出してはくれないだろう。海賊か何かいれば脅して行けるんだがそう簡単には都合よく見つからないだろう。だとしたらDBで飛んでいくしかないか。
諦めていたデリオラとの戦闘に不謹慎ながらも高揚しつつ、そんな自分が少し嫌になる。
目的地は呪われし悪魔の島――さて、行くか。
後書き
これにて移転作業完了となります。
去年の七月から書き始めたにも関わらずこの話数。
おまけに最新話も書きあがってないという。
史上最強の弟子ケンイチにハマってしまいまして単行本を読み終わり、さてケンイチの二次小説探しをするかと意気込んでいたら思いのほか見つからず、何故か遊戯王の二次を読み漁っている状況です。止めて石投げないで。
次回の更新がいつになるか分かりませんが気長にお待ちいただけると幸いです。
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