八条学園騒動記
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第二百四十九話 ナンシーの不覚その四
「また明日。御会いしましょう」
「そうね。また明日ね」
ナンシーも言う。しかしだ。
ここでだ。彼女は自分の部屋の扉を見た。そのうえでだ。
こう言うのだった。
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「ううん、何でもないわ」
言おうとして。すぐだった。
首を横に振ってそれを否定してだ。訂正したのである。
「何でもないから」
「そうなんですか」
「そうよ。じゃあまたね」
「はい、明日ですね」
「明日また会いましょう」
こう言うことだけしかできなかった。踏み込んで言うことはナンシーにはできなかった。勇気がどうしてもだ。起こらなかったのである。
そうしてだ。ナンシーはだ。後輩が帰る姿を見送ってだ。
自分の部屋の扉を開けてだ。その中に入り飼っている猫達の世話をしてお風呂に入って夕食を食べてだ。宿題をしてから寝るのだった。
そして次の日だ。教室に行くとだ。
ジョルジュがだ。彼女のところに来て言うのだった。
「いいかな」
「どうしたの?」
「昨日ナンと話してたよな」
このことを言ってきたのである。
「学校の帰りに」
「見てたの?」
「たまたまな。ただな」
「ただって?」
「気をつけた方がいいからな」
明らかなだ。忠告だった。
「人の目は何処にでもあるからな」
「わかってるわよ。けれどね」
「ナンはそういうことには疎いから助かったんだ」
ジョルジュの忠告はだ。かなり突っ込んだものだった。
「けれどな。鋭い奴だったらな」
「気付くのね」
「絶対に気付くよ。しかも」
「しかも?」
「お喋りな奴だったらどうなるかだよ」
忠告は核心に至った。そこが問題だというのだ。
「今頃クラスで話題になってたぞ」
「うっ、新聞部がスクープされるのね」
「そうなったら洒落にならないだろ?注意しておけよ」
「わかったわ。それじゃあね」
「僕はそういうのは言わないけれどな」
この辺りは信義である。ジョルジュはナンシーの親友になる。だからこそだ。そういうところはしっかりと守っているのだ。元々そうした人間であることも大きい。
「それでも他の奴は違うからな」
「そうね。それはね」
「クラスメイトだったらまだ気心が知れてるにしても」
それでもだというのである。
「他のクラスの奴は色々なのがいるだろ」
「意地悪いのとかお喋りなのとか」
「そう、それが問題なんだよ」
ジョルジュの視野は広かった。カメラから見ているだけではないのだ。カメラの外のものもだ。充分に見ているのである。だからこその言葉だった。
「誰が見ているかわからないからな」
「注意しないといけないのね」
「そうだよ。くれぐれもな」
「わかったわ。それじゃあね」
「そういうことでな」
そんな話もしたのだった。ナンシーにとっては危ないところだった。ナンは実際に何も言わない。これは彼女にとって幸せなことだった。
こうして助かったナンシーはだ。考えるようになった。後輩とのことをどうするべきかだ。
そしてそのことをだ。ある日の昼休みにだ。ジョルジュと話すのだった。
学校の屋上でパンと牛乳を食べながらだ。話すのだった。
「あのね」
「彼氏とのことだよな」
「そう、それよ」
屋上のコンクリートに敷きものをしてだ。そこに向かい合って座ってだ。二人で話をするのだ。お昼のパンと牛乳をしっかりと食べつつだ。
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