八条学園騒動記
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第二百四十八話 記事その二
「足が長いってのはいいことよ」
「ううん、それは自覚していませんでした」
「背が伸びたことだけ気付いたの」
「ええ、それで喜んでました」
背が伸びただけでも喜ぶのが人間というものだ。ここで足の長さにまで気付くかどうかということはだ。実は中々難しいことなのである。
それはだ。この後輩でも同じだったのだ。それで言うのだった。
「ううん、足ですか」
「そう、足ね」
「足って中々気付かないんですね」
それがわかった彼だった。
「そうなんですね」
「それ自慢?」
「自慢じゃないですけれど」
「いや、自慢に聞こえるから」
ナンシーは実際に羨ましそうに彼に話す。
「それだと」
「けれど先輩も」
今度は後輩から話すのだった。ナンシーのその青いズボンを着けている足を見てだ。見ればその足はだ。どうかというとだった。
「足長いですよ」
「長いかしら」
「長いと思いますよ」
実際に見ればだ。その通りだった。ナンシーはすらりとしているのだ。
「奇麗ですよ」
「だといいけれど」
「先輩って自分のスタイルには」
「自信。ないから」
曇った顔になってだ。それで答えるナンシーだった。
「胸の大きさもそうだし足も」
「どっちもですか」
「ウエストもよ」
つまりだ。全てだというのだ。
「お尻だって」
「そうですか?先輩は全部」
「いいっていうの?」
「いいと思いますけれど」
こう話す彼だった。ナンシー本人を見ての言葉だ。
「けれど自信ないんですか」
「男の子みたいなスタイルじゃないかしら」
「あっ、それがいいんですよ」
「それがいいって」
「スレンダーじゃないですか」
女の子のスタイルの理想系の一つである。女の子のスタイルは実は何種類もある。胸が大きいだけではないのだ。それもまたよしであるがだ。
「それがいいじゃないですか」
「スレンダーだから」
「はい、僕はいいと思います」
笑顔で話す彼であった。
「僕の好みですけれど」
「そうなの。貴方が好きなのね」
「はい。そうなんですよ」
「それならいいわ」
ナンシーは後輩の今の言葉にだ。優しい笑顔になった。
そしてそのうえでだ。また話すナンシーだった。
「私もそれでね」
「いいですか」
「ええ、それならね」
相変わらずだ。パソコンで記事を書きながら話す。
「いいわ」
「わかってくれましたね」
「わかったわ。それじゃあね」
「はい、それじゃあ」
「こっちも仕事終わったから」
ここでだ。それが終わったというのである。
メモリーに記録させてからパソコンを落としてだ。あらためて彼に話した。
「さて、それじゃあね」
「はい、それじゃあですね」
「帰りましょう」
満面の笑顔であった。これから本当の楽しみがはじまるといった笑顔だった。
「一緒にね」
「はい、一緒に」
「デートよね」
楽しみとは何かをだ。実際に言うナンシーだった。
「一緒に帰るのもね」
「ですね。何処かに寄られますか?」
「何か食べるとか?」
「あっ、けれど」
「けれど?」
「もう外は真っ暗ですね」
オペラを観終わってから記事を書いたからだ。もうそんな時間になっていた。
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