八条学園騒動記
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第三十四話 彼女ゲット!その五
「あの、先輩」
「大丈夫ですか?」
「あ、あがががががががががが・・・・・・」
顎が外れているので何も言えない。とりあえず顎を入れてから話を再会した。
「そうですか、黒魔術ですか」
「そうです」
「なあ」
元に戻ったカムイを見て後輩達はまた囁き合う。
「先輩もかなりタフだよな」
「そうだよな」
そのまま話に戻ったカムイを見ながら囁いている。
「それでですね」
彼はなおも話を続ける。アーメンガードもそれを受けている。
「マウリアは様々な神がいますね」
「ええ。私はカーリー様を信仰しています」
「左様ですか」
それを聞いて額に汗が流れる。シヴァ神の妃であり殺戮と破壊をこよなく愛する女神である。パールヴァティーの化身の一つであるとされるがその姿は全く異なったものになっている。黒い肌に四本の腕と長い舌を持ち髑髏と死体で身体を飾っている。血生臭く残忍な女神として知られている。連合では邪神ではないのかとさえ言われている。マウリアでは善き神の一人である。
「はい。カーリー様は素晴らしい神様です」
「では生贄は」
「人や牛はありません」
「ははは、そうですか」
(当たり前だろうが)
内心そう呟く。人を生贄にしては犯罪である。連合では悪魔崇拝も宗教であるが彼等も人間への生贄はしないのである。殺した動物は食べる慣わしもある。
「血を飲んでカーリー様への信仰を誓って」
「そうしているのですか」
「はい。美容にもいいですよ」
「成程」
頷いたが肯定したわけではない。それはとてもできない。
「母もそれで今でも若々しくて」
「そうでしたか。それでですね」
話を変えてきた。今の時点でかなりカムイも参っているがそれでも彼はくじけなかった。根性である。
「好きな食べ物は」
「鶏肉のカレーです」
「あっ、いいですね」
ようやく話がまともになったと感じた内心ほっとする。だがそれはほんの一瞬でしかなかった。そんな甘い相手ではなかった。カムイも迂闊と言えば迂闊であった。
「俺もカレー好きですし」
「あっ、そうなんですか」
「はい、そうなんでよ」
(ここからだ)
内心呟く。突破口を見つけたと思った。
(よし、じゃあ)
さらに突っ込みを入れる。言葉は続く。
「お時間ありますか?」
カムイは何度も本で読んだ常套句で攻略にかかった。これでいける、間違いないとさえ思った。それは確信であった。
「どうでしょうか」
「おい、先輩やるな」
「ああ、このまま」
後輩達はまさかと思ったがそれでも彼の成功を確信していた。彼は間違いなくアーメンガードを彼女にすると思った。普通はそうなれる雰囲気であった。
「いけそうだよな」
二人はそう思った。カムイはさらに攻撃を続ける。
「今日この後で」
「今日ですか」
「はい、どうでしょうか」
「はい」
アーメンガードはその言葉ににこりと頷いてきた。多くの本ではこれで確実に彼女をゲットしている、そう書かれるべきものであった。カムイも後輩達もそう思った。
「私で宜しければ」
「それじゃあ」
カムイは希望に満ちた声で応える。今目が希望に燃えていた。
「カラオケの後で」
(やった!)
心の中でガッツポーズをする。カラオケが終わってそのまま二人でアーメンガードが紹介するカレー屋へ向かう。それを見守る後輩達はこれでカムイに彼女ができたと思った。この流れは確実であった。
「一時はどうなるかと思ったがな」
「上手くいきそうだよな」
彼等は言い合う。
「意外と」
「そうだな」
カムイが至福の気持ちで暗くなってしまった街を歩いているとその上に洪童がいた。何を考えているのかわからないが彼はビルの屋上でマントを羽織って何かを叫んでいた。
「死ね!死ぬがいいカムイ!」
彼は今眼下をアーメンガードと一緒ににこやかに歩くカムイを見て叫んでいた。
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