八条学園騒動記
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第二百二十三話 優しい狼その四
「それでもね」
「それでもなんだ」
「そうよ、二千億よね」
「うん」
「エウロパの二倍じゃない」
ナンシーは数から話すのだった。
「多いじゃない」
「ううん、確か元々エウロパの二倍の人口だったよね」
「ええ」
「それで人口抑制してるエウロパの二倍っていうのは」
ジョルジュは考えながら話す。
「やっぱり少なくないかな」
「ううん、そうなるかな」
「そう思うけれどね」
こう話すジョルジュだった。
「どうなのかな、それは」
「言われてみればそうかしら」
ナンシーも言われてこの考えになった。実は彼女は結構柔軟なところもあるのである。基本的に頑固な女の子であるがそれでもだ。
「やっぱりサハラって」
「そうなると思うよ」
「まあそれでだけれど」
またナンが言ってきた。
「チンギス=ハーンっていうかモンゴル帝国だけれど」
「うん」
「そのモンゴルね」
「確かに戦争とかで沢山の人は殺したけれど」
それはもう前提なのだった。
「エウロパの昔みたいに残虐なことはしてないから」
「それはなんだ」
「そういえばそうよね」
「あんなね、異端審問みたいな」
ここでナンの顔が曇った。
「酷いことはしてないから」
「っていうかあれって」
「酷過ぎよね」
「そうそう」
「あそこまで行くと」
「滅茶苦茶どころじゃないから」
五人もナンのその言葉には同意だった。
「つまり虐殺はしてないってことだね」
「そういうことよ」
これがナンの言いたいことだった。しっかりとジョルジュに返す。
「そんなことはしないから」
「そうだね、遊牧民はそういうことはしないね」
「エウロパの連中はまた滅茶苦茶よね」
アロアもその顔を曇らせた。
「同じ宗教同士であそこまでできるなんてね」
「連合じゃ処刑の時だけだけれど」
ジョンは自分達のことも言った。
「それでもエウロパは違うからね」
「宗教が違うと十字軍で」
「同じだと異端審問」
「もう誰でも彼でも虐殺って」
「エウロパって凄いよね」
「全く」
誰もがエウロパへの感情を露わにしていた。そのうえでの言葉だった。
「っていうかね」
「そうよね」
ナンシーはナンが次に何を言うのか大体察していた。そのうえでの返し言葉だった。
「エウロパって普通にあれよね」
「お高く止まってるだけよね」
これがナンの言葉だった。
「はっきり言ってね」
「そうよね、それよね」
「貴族らしいわね」
そして話はエウロパ貴族主義への批判になるのだった。連合ではとにかく小学校からエウロパへの批判的な教育を行っている。とりわけ貴族主義についてはだ。批判が強いのである。
「だからモンゴル帝国もね」
「エウロパはあっさりやっつけたわよね」
「そう、ドイツなんてめじゃなかったわよ」
にこにことして話すナンだった。
「リーグニッツでね。やっつけてやったわ」
「そのままウィーンにまで雪崩れ込む筈だったんだっけ」
ネロがこうそのナンに問うた。
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