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八条学園騒動記

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第二百二十二話 蒼き狼と白き牝鹿その三


「星によっても」
「あるけれどね。ただ」
「ただ?」
「あまり入らないわね」
 そうだというのだった。
「だって森に馬はね」
「ああ、無理よね」
「ユニコーンはいけるけれど」
 それはだというのだった。ユニコーンは森に棲む馬なのだ。
「それはね」
「モンゴルじゃユニコーンにも乗るわよね」
「そうよ。ただ」
「ただ?」
「やっぱり森はね」
 ナンは難しい顔をしてそれで首を捻るのだった。
「どうもね」
「どうもって?」
「森は好きじゃないのよ」
 やはりそうであった。何につけてもだった。
「モンゴル人はね」
「そうなのね、民族の習性なのね」
「民族のなの」
「モンゴル人っていっても混血はしてるわ」
 これはモンゴル人だけではない。連合はとにかく混血が進んでいる。そのモンゴル人も肌が黒かったり目が青や緑の者も多いのだ。
「けれどやっぱりね」
「心にあるのね、その習性が」
「そうなのよ。だから森は」
 難しい顔をしていた。ここでもだ。
「好きじゃないのよね、多くの人はね」
「じゃあ森に入るのって」
「変わった人だけね」
「そうした人だけなのね」
「そう、そういう人しかいないの」
 そうだというのだった。
「トナカイとかを遊牧する人だけね」
「鹿をなのね」
「鹿自体は人気があるけれど」
 狼を父とすれば鹿が母になるのである。そういうことだった。
「それでも。鹿の遊牧はね」
「モンゴルじゃしないの」
「あまり。やっぱり羊がメインよ」
 そうだというのだ。
「それでなのよ」
「鹿は家畜によくなるけれどね」
 この時代ではそうなっている。鹿の肉や乳を食べたり飲んだりするのだ。皮も使う。そうした意味では牛や豚と同じという訳だ。
「それでもなのね」
「そうなの。羊、これも」
「民族ね」
「そういうことよ。モンゴル人はとにかく羊なのよ」
 こう話すナンだった。
「わかってくれたかしら」
「ええ」
 ナンシーはナンのその言葉にこくりと頷いた。
「よくね」
「有り難うね。実は私もね」
「ナンも?」
「狼と一緒にいるわよ」
 にこりと笑って話すのだった。
「いつもね」
「狼と一緒になの」
「いい動物よ。友達よ」
「友達なの」
「そう、モンゴル人って遊牧民じゃない」
 とにかくここに話の中心があった。モンゴル人が遊牧民であるということがだ。ナンはそのことを話の軸にして話をするのだった。
「だからね」
「狼を飼ってるのね」
「飼ってるのじゃないのよ」
 それも否定するのだった。
「そうじゃなくてね」
「一緒にいるっていうのね」
「そう、友達だからね」
 にこりと笑っての言葉だった。 
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