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八条学園騒動記

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第二百二十二話 蒼き狼と白き牝鹿その一


                 蒼き狼と白き牝鹿
 後輩とのデートを心ゆくまでまで楽しんだナンシーはだ。次の日に教室でナンに対してデートの時に見た狼のことを話した。無論デートをしたということは隠してだ。
 狼と聞くとだ。ナンはすぐに笑顔になってこう言ったのだった。
「私の祖先なのよ」
「それと鹿がよね」
「そうよ。モンゴル人は蒼き狼と白き牝鹿の子孫なのよ」
「所謂トーテニズムね」
「そうなるわね」
 動物を祖先とし神格化したうえで崇拝することである。この時代においては連合では非常にポピュラーになっている崇拝の一つである。
「動物だからね、どちらも」
「言葉としては格好いいわね」
 ナンシーはこのことを真面目に高く評価した。
「色といい動物といい」
「そうでしょ。モンゴル人に相応しいでしょ」
「かつて世界を席巻した草原の民ね」
「今じゃ連合のしがない一国家だけれどね」
「何言ってるの、統合作戦本部長モンゴルの人じゃない」
 連合軍の統合作戦本部長のことである。階級は元帥だ。
「その他にも中央政府大統領だって何人も出して」
「そうだったかしら」
「歴史も古いしね」
「そういえば気付いたら草原にいたのよね」
 一応匈奴がはじまりにはなっている。この時代ではだ。
「私達の祖先って」
「気付いたらなのね」
「そうなのよ。それでずっと羊を飼って暮らしててね」
「時として交易をしたり略奪をしたりね」
「私達の御先祖様にとって略奪は産業の一つだったから」
 草原の遊牧民の生活ではこれも常識であったのだ。そうした世界だったのだ。
「まあそれもね」
「今やったら顰蹙どころじゃ済まないわよね」
「他の国全部から経済制裁ね」
 連合ではこうなる展開である。連合各国の間では経済制裁はまさに戦争と同じだ。銃やビームは使わないが常にコインや札束での戦争が行われているのだ。
「それ間違いないわね」
「それで今モンゴルの産業って」
「羊よ」
 これが出て来た。
「他には山羊に馬に」
「つまり遊牧?」
「そう、それよ」
 まさにそれであった。
「それで生きてるし」
「今も?」
「大体の人がそうね」
 ナンはこうナンシーに話す。
「私の家もそうだったし」
「遊牧民なのね、今もね」
「モンゴルって草原ばかりの星が多いのよ」
「草原とは切っても切れないってことなのかしら」
「多分ね。ロシアの星が氷と雪ばかりなのと一緒で」
 そうした意味ではだ。両国はまさに同じであった。
「縁なんでしょうね、やっぱり」
「それで草原なのね」
「皆そこで暮らしてるのよ。そりゃ街があって定住してる人もいるわよ」
 流石にそうした人間もいる。この時代ではだ。
「けれどやっぱりね。そういう人もね」
「昔ながらの遊牧民ね」
「そういう人が多いわ。やっぱり血よね」
 ナンはここでにこりとなった。
「これってね」
「モンゴル人の血ね」
「そうなのよね。やっぱり草原なのよ」
 また言うナンだった。
「草原で生きていくのがモンゴル人にとっては最高なのよ」
「それで今もゲルで暮らしてるのね」
「一人暮らしでね」
 ここでもにこりとなっている。
「いいわよ。落ち着くわよ」
「ううん、私はちょっと」
「ナンシーはあれよね。アパートよね」
「そうよ。っていうかね」
「ゲル暮らしなのはモンゴル組だけね」
 実際にその通りである。モンゴル人だけがそうして遊牧生活をしているのである。ナンの他にもモンゴル人の生徒がいるのである。 
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