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八条学園騒動記

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第二百十九話 鉢合わせその八


「違うの?それって」
「いえ、違いませんけれど」
「とにかくね。今はね」
「はい」
「私であって私でないから」
 こう彼に言うのであった。
「わかったわね」
「そうなんですか」
「そうよ、そういうことだから」
「ううん、よくわからないですけれど」
 後輩にとってはだ。首を傾げさせるものだった。
 しかしそれでもである。彼女に合わせた。
「それじゃあですね」
「ええ」
「そういうことで」
 笑顔で彼女に告げた。
「デート続けましょう」
「有り難う」
「けれど先輩って」
 彼はここでまた言った。彼女のその声を聞いてだ。
 ヘリウムガスはこの時代ではそれぞれの種類によって声が変わる。それを聞いているとであった。彼はついこう言ってしまったのである。
「その声もいいですね」
「えっ、そうかしら」
「はい、いいですよ」
 彼女の横に座って話す。
「とても」
「そうかしら」
「先輩の声って元々奇麗ですよ」
 また話す彼だった。
「けれど今の声もそれはそれで」
「いいのね」
「何か気に入りました」
 笑顔での言葉であった。
「ですからこのままデート続けましょう」
「有り難う」
 後輩のその言葉にサングラスの奥で笑顔になるナンシーだった。
 その彼女の前に来たのはだ。この二人だった。
「ここ、いいのよ」
「だからだったのか」
「ええ、そうなの」
 アンがギルバートに言っていた。彼女の方から手を組んでいる。
「密かな穴場なのよ」
「穴場か」
「そう、穴場よ」
 また言うアンだった。麦藁帽子の様なものを被っているがそれが実によく似合っている。赤毛も相変わらず後ろで編んでいる。
「誰も知らない穴場なのよ」
「オペラハウスはよく知られているがな」
「灯台下暗しね」
 それだというのだ。
「これってね」
「オペラハウスは中だけではないんだな」
「勿論よ。総合芸術じゃない」
 奇しくもナンシーと同じ意見になっている。
「だからなのよ」
「庭もいいのか」
「この学校って大体お庭いいけれどね」
 それで定評があったりもする。何しろ理事長の八条義統は芸術に理解があることでも知られている。その彼が直々に庭の手入れをさせているのだ。
「それでもここは特にね」
「いいのか」
「そういうこと。しかもね」
「しかも?」
「近くに美味しいお店もあるのよ」
 笑顔でこうも話すのだった。
「それもね」
「美味しいお店というと」
「アイスのお店があるのよ」
 それだというのである。
「それがね」
「アイスか」
「そう、チョコアイスの種類が豊富でね」
 やはりナンシーと同じことを話す。
「それが美味しいのよ」
「ならそれを食べようか」
「勿論。それも目的だったし」
 また話すアンだった。
「チョコアイスね。二人でね」
「今は大丈夫なんだな」
「ええ。今日は牛は食べてないから」
「だからアイスもか」
「いけるわ」
 アイスクリームには牛乳が入っている。アンはイスラエル人であり当然ユダヤ教徒である。ユダヤ教の戒律では牛肉と牛乳は一緒に食べられない。親と子にあたるものは同時に食べられないし胃の中に入れられないのだ。 
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