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八条学園騒動記

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第二百十九話 鉢合わせその五


「見て。それでね」
「それで」
「愛でるものよ」
 目を細めさせて言った。
「そういうものよ」
「愛でるものですか」
「ええ、だからね」
「踏んだら駄目ですよね」
「折ったり手に取ったりするのもね」
 そうしたこともだというのである。
「駄目よ」
「見るだけですか」
「見ることが一番いいの」
 ナンシーは話す。その花の愛し方について。
「目から心に滲み渡っていくから」
「お花が」
「だからね。それだけでいいの」
 また言うナンシーだった。
「私はね」
「そうなんですか」
「貴方はどうかしら」
 ここで恋人である後輩を見る。
「お花はどうしたいのかしら」
「僕は」
「ええ」
「そうですね」
 問われてだ。少し考えてから答えたのだった。
「やっぱり僕も」
「見る派なのね」
「そうですね」
 こうナンシーに述べる。
「やっぱり」
「そうなのね。それならね」
「それなら」
「いいわ」
 いいというのであった。
「同じなら」
「そうですか」
「ええ、それで」
「それで」
「ここ。気に入ってもらえたかしら」
 この公園をというのだ。
「どうかしら、それは」
「はい、とても」
 後輩は笑顔で応えた。
「また来たいですね」
「一人でかしら」
「いえ、二人です」
 返答はこれしかなかった。最早だ。
「絶対に二人で」
「有り難う。オペラハウスは中で舞台を見るだけじゃないから」
「こうしてお庭を見ることもですね」
「それに外観もいいでしょ」
 今度はオペラハウスを見る。白亜の左右対称に造形されたそれはまさに宮殿であった。そうした豪奢な建築をそこに見せているのである。
「オペラハウスって」
「それも大事なんですね」
「ひょっとしたら日本のね」
「日本の」
「皇居よりも豪奢かも知れないわよね」
「というか日本の皇居は」
「質素過ぎるわよね」
 日本の皇居の質素さはだ。最早連合ではあまりにも有名になっていた。所謂竹のカーテンに覆われた皇室の宮殿はだ。かなり質素なものなのだ。
「小さいし」
「連合で一番古い王家やそうしたものですよね」
「ええ、そうよ」
 皇室も入れた話だ。
「エチオピアは一回断絶してるから」
「分家の人を見つけて復興したんでしたっけ」
「まあ分家って言っても」
 二十世紀に断絶したエチオピア皇室の分家というのだ。
「かなり血は薄いっていうか疑わしいかも知れないらしいけれど」
「そうだったんですか」
「まあ二千年か三千年続いていたらね」
 シバの女王からの話である。 
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