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八条学園騒動記

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第三話 スポーツはいいけれどその四


 ボールがミットに叩き付けられる音だ。凄い音である。
「ドスーーーーーーンって・・・・・・」
「凄いな」
 マルコもそれを見て呟く。
「あれだけのボールを投げられる奴はそうはいない」
「伊達にエースやってるわけじゃないわね」
 レミもそれに頷く。
「けれどまあ」
「あれで頭が良かったら完璧なんだけど」
「だから二人共言い過ぎだって」
 彰子はそんな二人をまた窘める。
「そんなこと言ったら」
「けれど実際に考えてる方向が常に滅茶苦茶だぜ」
「何するかわからないし」
「それはそうだけれど」
 流石にこれには反論出来ない。
「まあそうかな」
「そうそう」
「けどタムタムもいるしね。大丈夫なんじゃない?」
 レミはタムタムも見ていた。
「女房役がいるしね」
「女房役」
「野球は一人でやるものじゃない」
 マルコは言う。目がマジになる。
「九人でやるものだ。そしてピッチャーと同じ位、いや考えようによっては最も重要なポジションこそが」
「キャッチャー」
 レミがそれに続く。
「そう、あいつがキャッチャーだからな」
 黙々とフランツのボールを受け続けるタムタムを見ていた。
「フランツも大丈夫だ」
「単純だし案外上手く扱えてるみたいね」
「そうだな」
「行くぜタムタム!!」
 フランツはなおも叫び続け投げ続けている。
「皆で行くぞ!!ジャパニーズ=ハイスクール=ベースボール!!」
「ああ」
 タムタムはそれには強く頷く。その手に凄まじい衝撃が及ぶ。言うまでもなくフランツの投げているボールである。変化球であっても凄まじい球威だ。とても高校生のものとは思えない。やはり彼は本物である。
「そして俺と御前のバッテリーで!!」
 投げながらまた叫ぶ。
「宇宙を制するぞ!いいな!!」
「よし!!」
 タムタムはその剛球を受け止める。
「御前となら何処までも」
「そうだ!!」
 フランツの言葉にさらに力がこもる。
「俺達は何時までも一緒だ!いいな!!」
「ああ、わかっている!」
 タムタムも何時の間にか熱血になっていた。
「だからどんどん来い!」
「ああ、何時までもな!」
「けれどタムタム君も」
 彰子は今度はタムタムを見ていた。そのうえで呟く。
「何か。熱血してるよね」
「伝染ったかな、あれは」
 マルコもやはりそれを見ている。思わず苦笑いを浮かべる。
「参ったなあ」
「いいんじゃない?リードは変わってないし」
 レミの顔は温かいものになっていた。
「一緒にホットになれるってのは幸せなことだよ」
「そうだな、何かに熱中出来るってのは」
「そうだよね、一生懸命やれたら」
 彰子もまた温かい目になっている。
「それでいいか」
「じゃあ俺も明日またサッカーやるか」
「あたしもね」
 マルコとレミは言った。
「それじゃあ私も」
「彰子ちゃんはお菓子ね?」
「うん、今度はキャロットのケーキを作るよ」
 にこりと笑ってレミに応える。
「とても甘くて美味しいのをね」
「じゃあ出来たら呼んでよ」
 マルコがお菓子と聞いてすぐに反応を示してきた。
「俺人参もケーキも好きだし」
「そうなんだ」
「だからさ、頼むよ」
「任せて、腕によりをかけるから」
「彰子ちゃん!」
 何故かここでフランツまで叫びだした。
「俺にもケーキをくれえ!!」
 叫びながら投げていた。
「聞こえてるの?」
「そうみたいだね」
「耳までいいんだ」
「食い物のことは別だ!うおおおーーーーーーっ!!」
 剛速球が炸裂する。
「俺にも一切れ!タムタムにもだ!!」
「わかったわ。じゃあ二人にもね」
「よおおーーーーーーし!!」
 高く掲げられた左足が鉈の様に振り下ろされ剛速球が再び炸裂する。それはケーキに向けた壮絶な祝砲であった。


第三話   完

                 2006・9・10 
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