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八条学園騒動記

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第三十話 秘密の花園その四


「いい?お花畑」
「はい。チューリップの」
「それを写真にして文章は」
 実は彼女はかなり描くのが速い。それで新聞部ではホープとさえされている程である。外面は良識ある敏腕記者なのだ。素顔では決してないが。
「私が書くからね。いいわね」
「はい、それで」
「そういうことね」
 打ち合わせをした後でその取材現場に向かう。行くとそこは一面のお花畑であった。
「うわっ」
 彼氏はそのお花畑を見て思わず声をあげた。
「これはまた」
「凄いわね」
「はい、何て言うか」
 彼は少し呆然とした声で述べた。
「凄いですね。綺麗だし」
「壮観って言うべきね」
 ナンシーはこう表現していた。そこは見渡す限り一面のお花畑で赤い花も白い花も整然と並び綺麗な幾何学模様を描いていたのである。
 とりわけチューリップが目立つ。赤いものもあれば白いものもある。他にも様々な色がある。それを見ているとそれだけで幸せになれるかのようであった。
「じゃあ早速」
「あっ、はい」
 ナンシーに言われて我に返る。そして写真を撮りはじめた。
 それ自体はすぐに終わった。あちこちを回って写真を撮っていく。ナンシーのところに戻ってみると彼女も記事を恐ろしいまでの速さで書いていた。
「いつもながら凄い速さですね」
「慣れよ」
 彼女はそれに応えて言う。
「書くのも慣れなのよ。わかる?」
「そうなんですか」
「ええ」
 そして彼に答える。
「だからね。君も書いていけば」
「ナンシーさんみたいに」
「そうよ。だから頑張ってね」
「はい」
「写真は凄くいいし」
 一見職権乱用に見えてそうでないと周りに思わせられるのはここであった。彼は写真部にも引けを取らない程写真撮影が上手かったのである。それで写真部からスカウトされたこともある程である。
「後は記事ね」
「わかりました」
 ナンシーの言葉に頷く。
「それじゃあ」
「ええ。けれどね」
 彼女はここで言う。
「今日は肝心なのは終わってからよ」
「そうですね」
「そうよ。だから今急いで書いてるから」
「それが終わったら」
「わかってるわね」
 言いながら顔を上げて彼の顔を見る。そして言う。
「二人だから」
「はい」
「綺麗でしょ?」
 次にお花畑を見回す。
「ここ」
「はい。それでここで」
「デートもね」
 ナンシーはうきうきしながら言葉を返すのであった。
「けれどね」
 しかし辺りを慎重に見回す。
「いい?うちの学校の生徒には見つからないようにね」
「って言いましても」
 彼氏は不安げな顔で不安げな言葉を返してきた。
「大丈夫なんですか?うちの生徒って一万人はいるんですよ」
「それでもよ」
 彼女の言うことはかなり滅茶苦茶になっていたが本人は気付いてはいない。それが実に奇怪ではある。
「いい?見つかったらことよ」
「この前先輩のクラスの人に」
「ちょ、ちょっと」
 彼がそれを言い出すと顔を真っ赤にしてその口を塞ぎはじめた。
「それは言ったら駄目よ。カトリとマルティにも口止めしてるんだから」
「はあ」
「いい?間違ってもジョルジュなんかに知られたらスクープされるのは私達なのよ」
「そうなります?」
「あいつを甘く見ないことよ」
 クラスメイトに対しても何ら遠慮はしない。実に辛辣な言葉であった。
「黒豹みたいに素早いだから」
「自分で宇宙忍者だって言ってますね」
「そうなのよ」
 ジョルジュの身のこなしはそれだけ見事なのである。その鋭さもだ。ジャーナリストの他にはスパイに向いているとさえ言われている。そうした男なのだ。
「とにかく油断禁物よ、いいわね」
「はあ」
 ナンシーの言葉に応える。 
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